Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

上野の美術館巡り(1):国立西洋美術館「松方コレクション展」

国立西洋美術館で開催されている「松方コレクション展」に出かける。「松方コレクション」は、1896年に弱冠30歳の若さで川崎造船所の初代社長に就任した松方幸次郎が、1910-20年代にヨーロッパ各地で蒐集した美術品である。浮世絵約8,000点のほか、西洋絵画、素描、版画、彫刻、装飾芸術品などが3,000点近くがある。ロンドンにあった900点は倉庫の火災で焼失、日本にあった1,000点は川崎造船の経営破綻を機に国内外へ散逸(8,000点の浮世絵は東京国立博物館へ)、パリにあった400点は第二次世界大戦後、フランス国内に留め置かれた20点を除いて、日本へ返還された。この「松方コレクション」を保管・展示するための美術館として、国立西洋美術館が 1959年に設立された。

artexhibition.jp

蒐集、焼失、散逸、接収と、数奇な運命を辿った「松方コレクション」が今回、再び国立西洋美術館で再会するという展覧会。2016年にルーヴル美術館で発見され、翌年西洋美術館に寄贈されたモネ《睡蓮、柳の反映》の残っている部分が、1年かけて修復されて初公開されている。これは松方幸次郎がモネから直接譲り受けた作品の一つである。現存しない部分については、クラウドファンディングにより、AI を使って推定復元されている。

f:id:muranaga:20190814093303j:plain
モネ《睡蓮、柳の反映》(デジタル技術による推定復元)

prtimes.jp

まず最初の展示室から、国立西洋美術館の所蔵する「松方コレクション」が一堂に会す形で展示されており、ちょっと圧倒される。その後、ロンドン、パリでの蒐集の足取りを辿っていくが、オルセー美術館所蔵のゴッホ《アルルの寝室》と、ゴーギャン《扇のある静物》がやはり目を引く。

f:id:muranaga:20190814140049j:plainf:id:muranaga:20190814140101j:plain
ゴッホ《アルルの寝室》、ゴーギャン《扇のある静物

《アルルの寝室》には3つのバージョンがあり、今回展示されているオルセー美術館所蔵のものは1889年に描かれたもの。一方、1888年に描かれたゴッホ美術館所蔵の最初のバージョンについては、最近読んだ『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』に、興味深いエピソードがある。ゴッホが手紙に書いた色と、実際の絵の色が違っていると言うのである。2010年の科学調査の結果、ゼラニウム・レーキというピンクがかった赤い絵具の色素が、経年変化により抜け落ちていたという事実が判明したとのこと。

ja.wikipedia.org

muranaga.hatenablog.com

公式図録は400ページ近い大部であり、学芸員による「松方コレクション 百年の流転」など、非常に読み応えのある記事で最新の研究成果がわかる。

f:id:muranaga:20190814135909j:plainf:id:muranaga:20190814140439j:plain
公式図録表紙、モネ《ウォータールー橋》《チャーリング・クロス橋》

f:id:muranaga:20190814140509j:plainf:id:muranaga:20190814140558j:plain
モネ《雪のアルジャントゥイユ》、シスレー《サン=マメス 六月の朝》

「青い日記帳」の Tak さんが単眼鏡を使っての「松方コレクション」の鑑賞について語っている。

www.kenko-tokina.co.jp

日本人に本物の西洋美術を見せたい。美術館を創りたい。その夢のために絵画を収集した松方幸次郎。戦時下のフランスでそのコレクションを守り抜いた日置釘三郎。「松方コレクション」を巡るドラマについては、原田マハ『美しき愚かものたちのタブロー』を読みたい。

美しき愚かものたちのタブロー

美しき愚かものたちのタブロー

そごう美術館「北斎展」にて、『冨嶽三十六景』『富嶽百景』全作品をみる

横浜のそごう美術館で「北斎展」が開催されている。葛飾北斎の展覧会と言えば、今年の初めに行われた「新・北斎展」が圧倒的であったが、今回は複製画による展覧会であり、『冨嶽三十六景』全作品(ベロ藍を使った主版「表富士」36作品+墨で摺られた追加版「裏富士」10作品)、およびその数年後の『富嶽百景』全作品が展示されている。北斎ならではの大胆な、しかし計算された構図を楽しむことができる。

f:id:muranaga:20190813101034j:plain

f:id:muranaga:20190813111328j:plainf:id:muranaga:20190813102713j:plain

主な作品については、解説も詳しい。そして複製画ということで、写真撮影も可能となっている。夏休みの課題をやるためか、小中学生が多く、少々賑やかな会場となっていたのが、残念ではある。

カラー版 北斎 (岩波新書)

カラー版 北斎 (岩波新書)

大久保純一『カラー版 北斎』によると、『冨嶽三十六景』は北斎 71歳の頃から刊行が始まり、名所絵の揃物として異例のヒットとなり、当初の36図ではなく46図まで刊行される。その史的意義は、まずベロ藍(ブルシアン・ブルー)の濃淡と、北斎らしい幾何学的な構図により奥行きのある表現を実証したこと。次に名所絵が錦絵の人気分野になったこと、そして次世代の揃物の画帖化につながったことが挙げられる。

『冨嶽三十六景』より:

f:id:muranaga:20190813101140j:plainf:id:muranaga:20190813101215j:plain
『凱風快晴』『山下白雨』

f:id:muranaga:20190813101126j:plainf:id:muranaga:20190813102513j:plain
『神奈川沖浪裏』『東海道品川御殿山ノ不二』

f:id:muranaga:20190813101702j:plainf:id:muranaga:20190813101723j:plain
甲州石班澤(かじかざわ)』『甲州三嶌越(みしまごえ)』

f:id:muranaga:20190813101752j:plainf:id:muranaga:20190813101821j:plain
『駿州江尻』『東都浅艸本願寺

f:id:muranaga:20190813102030j:plainf:id:muranaga:20190813102243j:plain
『礫川雪ノ旦(こいしかわゆきのあした)』『東海道程ケ谷(ほどがや)』

f:id:muranaga:20190813102555j:plainf:id:muranaga:20190813102645j:plain
東海道金谷ノ不二』『諸人登山』

富嶽百景』より:

f:id:muranaga:20190813105012j:plainf:id:muranaga:20190813105104j:plain
海上の不二』『七橋一覧の不二』

f:id:muranaga:20190813105418j:plainf:id:muranaga:20190813105451j:plain
『鳥越の不二』『村雨の不二』

f:id:muranaga:20190813105428j:plain
『網裏の不二』

muranaga.hatenablog.com

北斎決定版 (別冊太陽 日本のこころ)

北斎決定版 (別冊太陽 日本のこころ)

www.sogo-seibu.jp

日本橋の展覧会を巡る:「日本の素朴絵」展(三井記念美術館)と「山口蓬春展」(日本橋高島屋)

上野の美術館を巡る予定だったのだが、何と車のバッテリーが上がってしまっていた。急きょ JAF を呼ぶ。幸い、1時間ほどで来てくれて、とりあえずエンジンがかかる状態になった。そうこうして出遅れてしまった間に、上野の駐車場は満車になってしまったようなので、予定を変更、日本橋の美術館を巡ることにした。

日本橋三越の駐車場も満車ではあったが、15分ほどで入ることができた。ここで 2,500円以上の食事をすると 3時間分、駐車料金が無料になる。2ケ月前に来たばかりなのに、またしても、ランドマークにて「大人のお子様ランチ」を頼んでしまう。

muranaga.hatenablog.com

f:id:muranaga:20190811114849j:plainf:id:muranaga:20190811114835j:plain

ランチの後に向かったのは、三井記念美術館の「日本の素朴絵」展。緩やかで大らかに描かれた素朴な絵・作品を集めている(出品目録:PDF)。府中市美術館で観た「へそまばり日本美術」展に、通じるものがある展覧会。無名の絵師、庶民による作品から、僧侶に代表される知識人、そして光琳、乾山、若冲といった著名な絵師による素朴絵、さらには円空や木喰による仏像が展示されている。

f:id:muranaga:20190811114916j:plainf:id:muranaga:20190811114956j:plain
三井記念美術館の趣きのあるエレベーター

三井記念美術館を後にして、無料バス「メトロリンク」を利用して、日本橋高島屋で開催されている「山口蓬春展」に向かう。1年ほど前、葉山にある山口蓬春記念館を訪ねているが、そこに所蔵されている作品や二階堂美術館の作品を中心に、モダンな日本画の世界を堪能する。

www.takashimaya.co.jp

muranaga.hatenablog.com

高島屋から三越までは、徒歩で戻る。日本橋の上に架かる首都高速を見上げつつ。

f:id:muranaga:20190811135224j:plainf:id:muranaga:20190811135322j:plain
日本橋

f:id:muranaga:20190811135204j:plainf:id:muranaga:20190811135247j:plain
日本橋の上に架かる首都高速

muranaga.hatenablog.com

www.mitsukoshi.mistore.jp

www.hinomaru.co.jp

眼鏡のレンズを新調した

久しぶりに高価な買い物をした。眼鏡のレンズだ。7年前に作ったデスクワーク用の眼鏡の度が合わなくなり、スマホの画面もわざわざ眼鏡を外して見ることがほとんどになった。Excel の細かい文字も眼鏡越しでは読むことができない。そんなこともあって、改めて視力を測定して、眼鏡を作り直すことにした。10数年にわたって、パリミキで眼鏡を買っているのだが、今回およそ1時間かけて検査をした。その結果、右目・左目両方とも近視が 1-2段階進んだ一方で、乱視の度合いは弱まっていることがわかった。

muranaga.hatenablog.com

僕はふだん3つの眼鏡を使っている。近くから遠くまでをカバーする遠近、デスクワーク用でPC画面をみる中近(ブルーカット)、そしてゴルフ・ドライブ用に色のついた遠中(遠近より少し近くの度合いを弱めたもの)の3種類の累進レンズの眼鏡である。当初、最もよく使うデスクワーク用の中近のみを替えるつもりでいたのだが、実際に測ってみると度も進んでいることだし、この際思い切って3つの眼鏡すべてのレンズを一気に入れ替えることにした。

f:id:muranaga:20190809010759j:plain
手前から「遠近」「中近」「遠中」眼鏡

累進レンズにもピンからキリまでいろいろあって、実際に見え方を比較してみると、その視野の広さや歪みの少なさという点でかなり値段が違う。当然、見えやすいものほど値段も高くなる。「たかが眼鏡、されど眼鏡。」だいぶ悩んだのだが、NIKON の視野の広い累進レンズを選ぶことで、3つすべての入れ替えは、かなり高額な買い物になってしまった。本当は眼鏡のフレームも新調したかったのだが、それはあきらめ、レンズのみを入れ替えることにした。

フレームを新調しなかったので、高い買い物の割には気分一新という訳にいかなかったが、ゴルフ・ドライブ用の遠中レンズを、周囲の明るさに合わせて色の濃さが変化するレンズにしたのが、機能的には楽しみである。累進レンズも高価ではあったが、確かに今までと違って視野が広く、また歪みも少ない。

www.nikon-lenswear.jp

www.nikon-lenswear.jp

実は、僕は4つ目の眼鏡も持っている。これは Zoff で作ったフードを着脱できる花粉対策の眼鏡である。これも遠近両用だが、眼鏡とレンズ一式合わせて、今回の NIKON のレンズ一式よりも安い。この時も視力を測定したが40分くらいで終了、1時間もかけるパリミキとは全く違う購入体験だった。

パリミキで買うのはフォーマルな眼鏡、Zoff で買うのはカジュアルな眼鏡。そういう使い分けもできると思うが、一消費者として複数の眼鏡を使い分けるのなら、Zoff の方が財布に優しい。パリミキのような眼鏡店は、ZoffJINS との棲み分け、生き残りが大変だろうと感じる。

muranaga.hatenablog.com

www.paris-miki.co.jp

www.zoff.co.jp

www.jins.com

眼鏡に関するさまざまな知識の紹介。ちょうど眼鏡のレンズを買い替えたところであり、買い替える前に読んでおきたかった…。今回はフレームを替えなかったから、ま、いいか。

東北新幹線から東海道新幹線への乗り継ぎは面倒だ

夏のゴルフ旅那須からの帰途、新横浜に用事ができたので、東北新幹線から在来線ではなく、東海道新幹線へ直接乗り換えようとしたのだが、これがなかなか面倒だった。

改札内にある自動券売機で乗り継ぎの切符(新横浜までの乗車券と新幹線自由席券)を買おうと思い、ここまでの東北新幹線の切符を入れようとするのだが、受け付けてくれない。自由席券だけは買えるのだが、新横浜までの乗車券が購入できない。係員のいる窓口でしか、東海道新幹線へ乗り継ぐ切符が買えないのだ。しかも夕方という時間帯もあって、その窓口が長蛇の列でいつになったら買えるかわからない。結局、いったん改札を出て、外にある自動券売機で新横浜までの乗車券を買う羽目になった。

そんなこんなで時間を要したので、発車直前の「こだま」の自由席にぎりぎり駆け込むことになった。結局、在来線を乗り継いで新横浜に行くのと比べて、15分くらいしか早くならなかった…。まぁ疲れた体で、在来線の乗り換えでキャリーバッグを引きずりながら歩かずに、座っているだけで済んだのだから、よしとしようか。JR東海JR東日本の仲の悪さは、昔からよく知られている訳だが、せめて新幹線の乗り換え口にある自動券売機で、乗り継ぎ切符が購入できるくらいには、仲良くして欲しいものである。

muranaga-golf.hatenablog.com

muranaga-golf.hatenablog.com

重いボルタンスキー、美しい速水御舟

国立新美術館で開催されている「クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime」展を見る。

f:id:muranaga:20190727121126j:plainf:id:muranaga:20190727121210j:plain

まだご存命だが、大規模な回顧展であり、展覧会場そのものが、インスタレーションという位置づけになっている。展覧会の入り口には DEPART、出口には ARRIVE と表示されている。

boltanski2019.exhibit.jp

写真、電球、衣服などで、個人や集団の記憶を表現している。古着で埋め尽くされた壁。祭壇のように並べられた写真。黒い衣服のボタ山。過去にそこにいた人たちの「死」を感じさせる展示が並ぶ。

f:id:muranaga:20190727123317j:plainf:id:muranaga:20190727123342j:plain

ボルタンスキー展が重かったので、気分のバランスを取るべく、山種美術館「生誕125周年 速水御舟」展に向かう。代表作の『炎舞』をはじめ、写実性の高い美しい日本画が展示されている。

f:id:muranaga:20190727135243j:plain

『翠苔緑芝』は写真撮影が許されていた。

f:id:muranaga:20190727134007j:plainf:id:muranaga:20190727134205j:plain
速水御舟『翠苔緑芝』

この美術館は速水御舟の作品を多数持っており、速水御舟展を数年に1度の割合で開催している。前回は 2016年11月だったから、『炎舞」を見るのは3年ぶりくらいだろうか。40歳という短い生涯ながら、速水御舟はさまざまな技法を取り入れていった画家である。『炎舞』はその細密写実と様式美とが融合した一つの到達点であろう。

早逝の近代日本画家・速水御舟。2016年11月、山種美術館で「速水御舟の全貌」という展示会が開催されている。NHK 日曜美術館で紹介され、結構混雑している。

速水御舟は現状に満足せず、常に自分を向上させることを自分に課した。40歳という短い生涯ながら、その作風・技法は変貌を遂げ続ける。細密写実と様式美の融合する「炎舞」がその一つの到達点。

www.yamatane-museum.jp

「原三溪の美術 伝説の大コレクション」展を見る(横浜美術館)

横浜美術館で開催の「原三溪の美術 伝説の大コレクション」展を見る。

f:id:muranaga:20190720122105j:plain

本牧にある三溪園が好きでよく訪れているが、三渓園を開いたのが生糸貿易で財をなした実業家・原三溪(1868 - 1939)である。古美術の収集家、下村観山をはじめとする日本画家の支援者として知られているが、自らも絵や書を嗜み、茶人でもあった。今回のコレクション展は、そのマルチな才の一端を知ることのできる展覧会であり、「コレクター」「茶人」「アーティスト」「パトロン」の四つの切り口で、文化人としての原三渓を紹介する。

「コレクター」としての三渓が購入した美術品は 5,000点を超えるそうだが、その旧蔵品 150点が今回、横浜美術館に集合した。平安時代後期の『孔雀明王像』は国宝である。「茶人」としての三渓は、茶道具も収集している。「アーティスト」としての三渓は、蓮の花を数多く描いている。「パトロン」としての三渓は、横山大観、下村観山、安田靫彦速水御舟といった同時代の美術家たちに、費用の支援・作品の購入というだけでなく、古美術コレクションを見せて議論するというような機会を提供した。

今回の展覧会の公式図録は市販されている。

原三溪の美術 伝説の大コレクション

原三溪の美術 伝説の大コレクション

harasankei2019.exhn.jp

古い建築物を移築して公開した三渓園は、「建築の博物館」とも評される。日本の美術家を支援する場でもあった。

www.sankeien.or.jp

今日のランチは、ランドマークプラザにある中華・鼎泰豐(ディン・タイ・フォン)にて、小籠包と麺をいただく。

f:id:muranaga:20190720114731j:plainf:id:muranaga:20190720115838j:plain

dintaifung-landmark.gorp.jp