元ソフトウェア技術者としては、どんなソフトウェアを使って、このシステムが作られているのかが気になる。レヴォーグの 700ページもの電子マニュアルを拾い読みしていると、オープンソース・ソフトウェアのライセンスの項があるのに気づく。そこには、このシステムで使われているオープンソース・ソフトウェアの使用許諾や著作権を確認できる、デンソーの Web サイトへのリンクがある。そう、このシステムはデンソーが開発しているのである。
まず一番最初に出てくるのが何と Linus Tovalds。言わずと知れた Linux の開発者の名前である。Linuxカーネルの vmlinux を圧縮した bzImage ファイルの使用許諾が GPL(Gnu General Public License)であると記述されている。そして Linux 関連のソフトウェアのソースコードとして、ログを取得して管理する dlt-daemon や、Linux の無線 LAN インタフェースのファイルがリンクされている。
この dlt-daemon は、Diagnostic Log and Trace(診断ログとトレース)の略で、欧州の車載ソフトウェアの標準化団体 AUTOSAR(AUTomotive Open System ARchitecture)で仕様が定められた ECU のログ管理プラットフォームであり、GENIVI Alliance という標準化団体が Linux での実装を行っている。
オープンソース・ソフトウェアのライセンスや著作権の記述を眺めていると、GPL、Apache、Mozilla、BSD など、さまざまな条件のソフトウェアが混在していることがわかる。なかには X コンソーシアム(Unix 上の X ウィンドウシステム)の 1987年の Copyright が含まれており、思わず懐かしさを感じてしまった。Linux が作られたのが1991年。僕が Linux や X ウィンドウ、Gnu のソフトウェアをノート PC で動かし始めたのが 1993年頃だ。Linux のバージョンは 0.99 だったと記憶する。オープンソース・ソフトウェアコミュニティーの 30年以上にわたる開発の蓄積が、新型レヴォーグの車載インフォテインメントの実現に、脈々とつながっているのである。
試乗もせずに車を買うという前代未聞のことをやってしまった。新型レヴォーグ STI Sport。2020年8月20日に先行予約販売が始まり、しばらく悩んでいたものの、結局 9月になってから申し込み、12月初めになってようやく試乗。さらにそこから3週間、クリスマスを過ぎてからの納車となった。旧型と比べて、エクステリア・デザインはキープ・コンセプトだが、車の中身は全然別のものになっており、走りの性能と高機能な安全運転支援機能アイサイト(EyeSight)の大幅な進化に魅かれた。
旧型と比較して、新型レヴォーグが大きく変わったのは、運転支援システム「アイサイト」の進化、縦型のセンター・インフォメーション・ディスプレイ、フル液晶メーターを備えたデジタル・コクピット、強化されたボディー剛性と新開発の 1.8L エンジンによる走りの性能である。さらに STI Sport には、電子制御ダンパーによるしなやかな乗り心地、ドライブ・モード選択による「キャラ変」といった魅力がある。
これは慣れるのに少し時間がかかりそうである。この方向指示器のワンタッチ機能を Off することもできるが…。
新型レヴォーグ STI Sport の最大の特徴は、ドライブ・モードの切替えによる「キャラ変」である。エンジン、ステアリング、電子制御ダンパー、AWD、アイサイト、エアコンの特性を変えることにより、Comfort / Normal / Sport / Sport+ という4つのモードに切り替えられるだけでなく、Individual という自分好みの設定を行うことができる。
まだ数日乗っただけだが、その走りと乗り心地の進化にとても満足している。滑らかな加速に加えて、特に Comfort モードのしっとりとした走り、しなやかに道路の凹凸やマンホールをいなしていくサスペンション、静粛性などは、旧型とはレベルの違うものを感じている。そして走りや乗り心地だけではなく、運転支援システム・アイサイトや、インフォテインメントと言われる車載 IT の大きな進歩が印象に残るレヴォーグのフルモデル・チェンジであった。5年も経つと、全然レベルの違う IT システムになる。iPhone のようなデジタル・ガジェットのバージョンが上がる感覚に、少し通じるものがあるかもしれない。