『ウェブ時代5つの定理 この言葉が未来を切り開く!』の感想を続ける。
著者の直接のメンターである Gordon Bell や、一つの章を費やしている Google 経営陣を除くと、Steve Jobs のことばが多い。なかでも Stanford 大学の卒業式の祝辞は格別である。トランスクリプションを読んで僕が下線を引いたところがそのままこの本に引用されている。梅田さんと同じところに感銘を受けたと言える。Steve Jobs のことばは普遍的で万人の胸を打つ。
その一方で、文脈から切り出されたことばだけでは、受け取り手によってさまざまに解釈される可能性がある。たとえば P.126 にある Steve Jobs の "product-oriented" ということば --- 梅田さんはこれをモノづくりにこだわる技術者の視点を紹介するために引用している。しかし僕はこの箇所を読んだとき、"product-oriented" を「技術志向」に陥りがちなエンジニアへの警鐘として受け取った。ユーザを忘れたために製品にならなかった技術はたくさんある。だから僕は商品化を前提とした技術開発やプロダクト・マーケティングの重要性を強調した戒めのことばだと解釈したのである。
もちろんこの意味・解釈については当然梅田さんもよく理解している。P.157 でさらに続きを引用して、プロダクトと技術の違いを説明している。
文脈から切り出されたことばだけだと、このようなことが起こる。引用されたことばについて考えるには、やはり原典にあたるのがいい。文藝春秋のサイトに原典へのリンク集がある。
- 作者: 梅田望夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/03/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本のちょっと違った楽しみ方は、原文と日本語文を比べることだろう。「なるほど、こういう風に訳すのか」と、梅田さんの翻訳の素晴らしさを実感する。原文の力強さが日本語になってもまったく損なわれていない。
ちなみにこの本の翻訳のお手伝いをした上杉隼人氏は Roger Pulvers の著書を数多く訳している。このペアの仕事としては『ほんとうの英語がわかる』シリーズが有名である。また GetUpEnglish というブログで使える英語表現を毎日紹介している。このブログの過去分は『日めくり現代英語帳』というタイトルで単行本化されている。