Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

梅田望夫『グーグルに淘汰されない知的生産術』を読んで

梅田望夫さんのブログ・エントリ『グーグルに淘汰されない知的生産術』は、ウェブ時代における大量の情報をどのように整理して、思考とアウトプット(書くこと)につなげるかについて、その独自の方法を具体的に紹介したものである。非常に理にかなった方法であり、一読を勧めたい。

梅田さんが一貫してこだわっているのは「時間」である。ウェブや本にあふれる大量の情報の整理をどのように行えば、その時間投資に見合う知的作業となるのか。グーグル(Google)が担わない知的生産術という位置づけで、梅田さんが実践しているミクロとマクロ、二つの方法が述べられている。

  1. 情報の「肝」を書き出す
    • グーグルが扱うよりも粒度の高い単位での情報整理を、情報処理の時点で行う。
    • 大量に目を通す本の中から優れた本のみについて、精選・凝縮した内容を抽出して書き出す。
  2. 自分の立場を俯瞰的に見る
    • 自分の固有な経験が活き、誰も手がけていないこと、他の人と違うことにパラノイアのようにこだわるためには、自分の立場を俯瞰的に見たマクロな判断が必須。
    • 大量の蔵書を俯瞰するために、年に一度、大規模な配置替えを行う。
このようにして梅田さんは「グーグルに淘汰されない」自分だけの情報空間を作り出しているのだ。

梅田さんのこの技術は、大量のインプットを行うことによって支えられている。大量のインプットの蓄積なくしては、自分を俯瞰的に見ることはできないし、高速なフィルタリング(「肝」以外を捨てること)もできない。高速に処理できるから、さらに多くインプットすることができ、大量にインプットするからさらに速く処理できる。この相乗効果により、知的生産のサイクルがどんどん加速されていく構図である。そしてこのサイクルの中で、膨大な量の情報が処理され、自分を俯瞰的に見る視点・情報をセレクトするセンスが養われていく。

新たな分野に取り組むときに、研究者は大量の論文・本を読む。これによって対象とする分野を見渡す視野と、他人がやっている研究内容を細かく区別する目を持つ。このサーベイ(survey)をやって初めて、他の人のやっていない研究に取り組むことができるようになる。梅田さんが紹介する情報整理術は、まさにこのプロセスを先鋭化したものだと思う。ここを出発点として独創的な知的活動が始まるのである。

梅田さんは自分の時間を戦略的に切り出して、研究活動にあてている。大量のインプットの蓄積とその凝縮を日々繰り返し、誰にも負けない自分だけの知的資本を作っている。

翻って自分はどうなのか?

梅田さんのエントリにもあるように、何よりも大切なのは、自分に残された「時間」を意識すること、そして自分が「他人と違うところは何か」を意識することである。

今までは幸運なことに、自分のやりたいこと・やるべきだと思うことを、大組織の広い機会空間の中に適合させることが可能だったので、自身のキャリア戦略といったものについてほとんど無頓着に過ごしてきた。だが梅田さんと1歳しか違わない僕にとって、しかも会社勤めの僕にとって、残された時間は梅田さんよりもずっと少ない。技術がわかる事業経営者として(あるいは事業がわかる技術者として)、日々の仕事をこなす中で、自分ならではの価値をどういう形にしていくのか。さらに言えば「大組織適応型」の人間として、組織力をどう活かして何を創り出していくのか。

「好きな本の感想をブログに書いている時間はないはずだ」と叱咤されているような気がした。