Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

小川洋子エッセイ『犬のしっぽを撫でながら』

『猫を抱いて象と泳ぐ』を読んだ勢いで、エッセイ『犬のしっぽを撫でながら』も読む。珠玉の作品がどうやって生まれているのか。


作家も小説を書きながら、大いなる矛盾と戦っています。小説は、「言葉にできないくらい悲しい」とか「言葉にできないくらいうれしい」という、その「言葉にできない」部分を言葉にしなければならないからです。人間の悲しみを描こうとするとき、「悲しい」と書いてしまうと、真実の悲しみは表現できません。言葉とはもともとそういう不自由な道具なのです。
小川洋子『犬のしっぽを撫でながら』、P.30


私はストーリーが書きたいわけではありません。私が書きたいのは人間であり、その人間が生きている場所であり、人と人の間に通い合う感情なのです。
小川洋子『犬のしっぽを撫でながら』、P.32


人はただ、目に見える、手で触れる現実の世界のみに生きているわけではありません。人は現実を物語に変えることで、死の恐怖を受け入れ、つらい記憶を消化してゆくのです。人間はだれでも物語なくしては生きてゆけない、私はそう思います。
小川洋子『犬のしっぽを撫でながら』、P.37

犬のしっぽを撫でながら (集英社文庫) 猫を抱いて象と泳ぐ 博士の愛した数式 (新潮文庫)