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Amazon の Kindle は出版・新聞・雑誌業界の iPhone/iPod となるか? (The Economist, February 14th, 2009)

The Economist(February 14th, 2009) が、Amazon の新しい Kindle について社説と記事を書いている:

Kindle 2 Kindle 2 Kindle 2

Kindle は「本の iPod」と称され、iPod/iPhoneiTunes とのアナロジーで語られることが多いが、出版業界は音楽業界よりオーガナイズされているし、iPod により CD の売上が減ったのに対して、電子ブックは出版業界にとって新たな売上を生む可能性がある。音楽業界では、Apple が唯一無二の音楽配信プレーヤーであったが、出版業界における AmazonKindle は配信チャネルのひとつに過ぎない。

もともと Steve Jobs は「人々は音楽は聴くけど本なんて読まない。米国で去年1年間で読んだ本が1冊以下の人が40%を占める。」と、Kindle を一言のもとに切り捨てていたが、実は iPhoneiPod 上の Stanza、eReader、Classics といった電子ブックリーダ・ソフト(e-book software)を使う人が、Kindle の利用者数よりも多くなっている。

Kindle は $359、これを買う人は若者でもアーリー・アダプタ(early adopting technophiles)でもない。より年齢が上の、本の愛好家をターゲットとしている。Kindle は従来の読書を置き換えるものではなく、改良することを狙ったガジェットである。取りまわしの面倒なケーブルはついていないし、PC なしでも使える。あとで通信料を請求されるような複雑な料金プランもない。読みたいと思い立ったらほんの1分で1冊ダウンロードされ、1,500冊もの本をいつも手元に置いておける。電池も2週間持つし、E Ink電子ペーパー・ディスプレイは長時間、しかも直射日光の下でも読める。

こういう状況の中、もし本格的に電子ブック・リーダーの市場が立ち上がるならば、構造不況に陥っている新聞・雑誌業界が新しい販路として活路を見出せるかもしれないと、The Economist 誌は指摘する。紙の新聞・雑誌の購読は減り、無料 Web サイトの小さな広告収入へ依存せざるを得ない業界にとって、電子ブックへ新聞・雑誌を配信して新たな購読料収入を得ることに期待が高まっているという訳だ。

僕も以前からネットと機器の連携による新たな価値提供という視点で Kindle のもたらしたビジネスモデルに興味があるし、単なる一ユーザとして読書用ガジェットとしての Kindle にも興味がある。Kindle 2 の薄くスマートなデザイン(Kindle 2 に対するインプレッション集 by Gizmodo)を見ると、日本でも出版・新聞・雑誌業界と Amazon が提携をして、Kindle 2 が売られないかな、と期待する。ただ日本では新聞業界はインターネットを自らに対する破壊者として警戒しているので実現は難しいかもしれない。

今、僕は iPodポッドキャスト配信される CNN や ABC ニュース(映像)を夜中にダウンロードして、翌日の通勤電車の中で視聴している。それと同じで、新聞も電子化されたら、朝の食卓で新聞を大きく広げなくても済む。小さな端末をテーブルに置いておくだけでよい。しかも読み終わった古新聞や古雑誌の束も生じず、紐で縛って捨てる手間がかからない。図書館の活用に関するエントリでも書いたが、場所をとらないというのも電子ブックの魅力である。Kindle 1台があれば、1,500冊分もの本棚を増やす必要がなくなる。

今ある文庫や新書が全部 Kindle に入ってしまったら…。これはスペース的にはありがたいことだが、家族それぞれが何を読んでいるのかがわからなくなることに気づいた。家族同士で本を薦めたり、同じ本を話題にしたりする機会が減るのかもしれない。

電子ブックに関するエントリ