Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

タクシー王子、超凡思考、海堂尊、法律力、科学入門、無邪気な脳

ここ数週間は、わりと軽めの本を何冊かまとめて読んでいる。

川鍋一朗『タクシー王子、東京を往く。―日本交通・三代目若社長「新人ドライバー日誌」』

タクシー王子、東京を往く。―日本交通・三代目若社長「新人ドライバー日誌」

小学生の次男も含め、家族全員が読んだ初めてのビジネス書(ビジネス書以外であれば『ハリー・ポッター』シリーズがある)。それだけ易しく面白く、タクシー業務の舞台裏を描いている。社長自身が現場を体験することで、将来の経営へのヒントを探す旅。タクシー運転手ならではの裏事情や乗客のおりなす人間模様が楽しい。文章からにじみ出る3代目らしい育ちのよさ、まっすぐで誠実な性格。こういう人なら従業員に好かれ、皆ついていくだろう。負債1,900億を抱えた2代目の父親に対して愚痴の一つもこぼさない。大胆なリストラを実施して大変つらい思いをしたと考えられるが、今は日本随一の「選ばれるタクシー」を都内に走らせている。この本を読むと、日本交通のタクシーに自然と乗りたくなる。川鍋社長に「してやられた感」のある書。

ちなみに横浜市内だと 三和交通のタクシーのサービスがすばらしい。僕は必ずここを選ぶ。三和交通の東京営業所は、日本交通のグループ会社になっているようだ。

岩瀬大輔伊藤真『超凡思考』

超凡思考

今を時めく強力な頭脳の持ち主である岩瀬大輔伊藤真という「師弟コンビ」による対談。彼らが工夫してきた思考法・仕事術が書かれているが、そのこと自体に目を奪われるのではなく、その根底にある考え方が参考になる。彼らは自分の内なる心に素直に従い、泥臭い努力をして、彼らならではの方法を編み出していった。彼らのすごいところの一つは、全体像を把握して構造化する思考力。したがって自分自身を客体化してとらえることができること。これがなかなか僕にはできない。そしてジェネラリストとしての道を歩んでいる僕の心に最も突き刺さったのは、「個人としてその人間が面白いかが重要、その時の武器はだれにも負けない、ぶっちぎりの専門性以外ない。(P.44-45)」という文章であった。

海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて』

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

海堂尊自身による「海堂尊ファンブック」である。買ってすぐに一気読み。ジェネラル・ルージュの伝説が生まれた天才外科医・速水の新人時代を描く表題の短編の後、著者の生い立ち、著作の舞台裏が、自身の手で明らかにされる。死因究明のために画像診断を導入することがライフワーク、その一環で一般社会に訴求するために小説という手法を選んだことがわかる。それにしても、なぜこんなに速く多く書けるのか?

荘司雅彦『六法で身につける 荘司雅彦の法律力養成講座』

六法で身につける 荘司雅彦の法律力養成講座

リーガルマインドとでもいうのだろうか。「法的思考力」と「法解釈力」の入門書。「六法」を理解するのに必要な基本的な法律の考え方を、コンパクトな一冊に収めている。この本の中で何度も繰り返されるのは、「個人の権利は最大限尊重されるべきものであり、各個人は他者の権利を害さない限りいかなることをも行う自由を有する」ことがすべての法律の基礎をなす大原則であるということだ。

入門書として、さらに勉強したい人へのブックガイドが懇切丁寧で詳しい。ちなみにどんな本でも索引が大事と言いながら、この本自体には索引がない。コンパクトな本なので何度でも読み返して欲しい、という著者の気持の表れかもしれない。

戸塚洋二『戸塚教授の「科学入門」 E=mc2 は美しい!』

戸塚教授の「科学入門」 E=mc2 は美しい!

ノーベル賞級の業績を上げながら、昨年、惜しくも亡くなった実験物理学者による科学入門。理論物理ではなく実験物理の視点から科学を語ることにこだわられたとのこと。死の直前に行われたインタビューや、ブログ に残された文章がベースになっている。子供のころの生い立ち、学生時代の話は面白い。植物の話に代表されるように、日常目にする何気ない光景からいろいろな疑問を持つ科学者の姿が浮かび上がる。

黒川伊保子・古森剛『「無邪気な脳」で仕事をする』

「無邪気な脳」で仕事をする

脳科学の研究者である黒川氏と、人事コンサルタントである古森氏との対談。無邪気であること(根拠のない自信)、利他的であること(他人のことを思う)、脳の身体性を理解することが強調される。どこか『超凡思考』の二人の意見に通じるところがある。

小脳は知覚と運動機能を統合し、空間認識も担う。語感などは運動能力である。だから「腑に落ちた」時は小脳がつかんだ時に感じる。左脳の言語野が記号的な意味としてつかんだというのではなく、空間的なものと身体的なものに根ざしてつかむ。しかも小脳と小腸が連動していることが最近わかったので、小脳が何かをつかむと小腸が反応する。まさに文字通り「腑に落ちる」わけである。これが脳の身体性の一つの例となっている。