Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

石田晴久先生の訃報に接し、K&R を本棚から取り出してみる

昨日、石田晴久先生が亡くなった(訃報)。大学で直接教えを受けたことはないが、K&R (カーニハン & リッチー)による『プログラミング言語C』の翻訳者としてお世話になった。先生は C 言語に代表される Unix の文化、Unix プログラミング環境を日本に紹介した先駆者である。

今も僕の手元には K&R の初版本がある。大学時代、Lisper であった僕は、会社の研究所に入って初めて C 言語を学んだ。会社では、VAX というミニコンの上で Unix エミュレータ(Eunice)を動かし、その上の Franz Lispガリガリ自然言語構文解析機(パーサー)や知識表現システム(フレームとかルールとか)を開発していた。こういうアプリケーション・プログラムを書きながらも、OS やコンパイラといったシステム・プログラミングに憧れ、「システム記述言語」としての C を K&R で独学したのである。

新入社員だった当時、この本を通勤電車の中で読んでいた。必要にして最小限、簡潔な記述によるプログラミング言語の本であり、正直に言ってこの本だけで C 言語を理解するのは大変だった。ポインタ、配列、構造体、と章が進むにつれ難しくなり、赤鉛筆で引いた線や、自分の理解を確認するための書き込みが増えていく。一回読んだだけではなかなか理解が進まなかった。しかし世の中に C 言語に関する本は、この K&R のみ。どんなに難しくてもこの本に食らいついていくしかなかった時代である。

思えば、日本における Unix の黎明期であった。石田先生が訳した K&R を読み、石田先生が書いた『UNIX』や、カーニハンによる『UNIXプログラミング環境』で、C 言語と Unix を学んだ時代である。

プログラミング言語 C』の後には、同じくカーニハンによる『ソフトウェア作法』を勉強するのが定番であった。ファイルのコピー、文字列処理、エディタなどシステム・プログラミングの基礎を、美しく記述されたソースコードで学ぶのである。Ratfor と呼ばれる Fortranプリプロセッサで書かれたコードだが、それはほとんど C 言語でシンプルに書き換えられるものであった。

石田晴久先生の訃報に接し、K&R 本を本棚から取り出し、20数年前の Unix 文化の黎明期を懐かしく思い出した。日本での先駆者である石田先生の著書・翻訳書には、さまざまなところで本当にお世話になった。石田先生のご冥福をお祈りしたい。


プログラミング言語C ANSI規格準拠 UNIX ソフトウェア作法