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Oracle が Sun を買収 --- 懸念される企業文化の違い・クラウドとオープンソース戦略

結局 Sun を買収することになったのは、Oracle であった(Oracle のサイトSun のサイト)。74億ドルという大きな資本提携であり、業界地図を大きく塗り変える可能性がある。



どちらも古くからシリコンバレーを代表する会社であり、製品としては補完関係にある。かたやサーバ、OS、プログラミング言語。かたやデータベース、企業向けミドルウェアとアプリケーション。OS は Solarisプログラミング言語Java、データベースは Oracle、という使い分けをしてきた利用者も多いし、Sun のサーバと OS、Oracle のデータベースは企業向けには定番の組み合わせと言えるだろう。"Oracle Buys Sun"(Oracle サイトの PDFSun サイトの PDF)というプレゼンテーション資料にあるように、アプリケーションからディスクに至るまで統合された製品をワン・ストップで提供することが可能となる。重複するビジネス・技術資産が少ないという点では、IBM よりはよい資本提携と言えるかもしれない。

しかし両者の企業文化の違いという点において、大きな懸念がある。それは Sun がオープンな戦略の会社であるのに対し、Oracleプロプライエタリなソフトウェア会社であるということだ。

Sun はソフトウェアに関しては、徹底的にオープンな戦略を採用する会社である。企業向けクラウドでもオープンなコミュニティを作り上げる戦略で、クラウド周辺のビジネス・エコシステムを作ることを狙っている。

しかし Oracle は違う。プロプライエタリで、クローズドな技術を囲い込むビジネスモデルで成長してきた会社である。しかもトップはあの独裁的なカリスマ、ラリー・エリソン(Larry Ellison)である。彼は昨年の10月、自社株主の前で「クラウドは役に立たない」「オープンソースと SaaS は儲からない」と公言してはばからなかった。


"I think it's ludicrous that cloud computing is taking over the world," Ellison told about 100 shareholders who attended the meeting at the software maker's headquarters. "We think it's very hard to make money in this thing."

Ellison said open source and software-as-a-service (SaaS) technologies were similarly hyped a few years ago, but neither have become multibillion-dollar industries.<中略>
At the most, Ellison said, Oracle might lease space in the cloud--technology that lets companies and consumers store data on the Internet rather than in networks of computers--but that's it. "I'm not going to build the cloud," Ellison said. "It's the Webvan of computing."

Webvan はドットコム・バブルで倒産した象徴的な会社の一つである。

ラリー・エリソンはこの半年の間に、クラウドオープンソースに対する考えを 180度、転換したのだろうか?それともティム・オライリー(Tim O'Reilly)の警告を受け入れたのだろうか?

オライリーWeb 2.0 とクラウドに関する分析を行って、「純粋にソフトウェア層だけを見れば、クラウドオープンソースは大きな利益は生まないだろう。その点ではラリー・エリソンは正しい。しかしクラウドをプラットフォームとして捉えれば、Web 2.0 の競争優位性を理解して、より多くの人々が参画するネットワーク効果が得られるようにシステムを設計することが鍵となる。それを理解しない会社は消えるかニッチに留まることになる。重要なのはデータベースのソフトウェアではなく、データベースが保持するデータとそのデータに関するサービスにあることを、Oracle はいつの日か理解することになるだろう。」と、ラリー・エリソンに警告している。

肝腎のラリー・エリソンが今回の Sun の買収についてどう述べているか。プレスリリースSun のサイト)によれば、


"The acquisition of Sun transforms the IT industry, combining best-in-class enterprise software and mission-critical computing systems. Oracle will be the only company that can engineer an integrated system applications to disk where all the pieces fit and work together so customers do not have to do it themselves. Our customers benefit as their systems integration costs go down while system performance, reliability and security go up."
だそうである。

このようにメディアキットやプレゼンテーション資料の中では、SPARC のサポートを続けることに言及されているものの、クラウド・コンピューティングについては一言も語られていない。そこには、ラリー・エリソンのクラウドに対する考えが、強く反映されているような気がする。この買収により、Sun の "Open Cloud" は構想だけで終わる可能性も考えられる。

もう一つ。クラウドに比べればマイナーな話であるが、MySQL の行方・サポート体制も心配される。普通に考えれば、今回の買収の後、どこかに売却されることになるだろう。

追記:2009.4.22

そういえば Oracle は以前 MySQL を買収しようとしていたのだった。今回の Sun の買収で MySQL を結果的に手に入れたことになる。企業向けアプリケーションなど、自社開発ではなく競合を買収することでより独占的な地位を築き上げてきたこれまでの Oracle の戦略を考えると、ローエンド・データベースである MySQL を押さえるというのは「あり」である。ローエンド(MySQL)から企業用のハイエンド(Oracle)まで製品ラインナップを整え、ローエンド製品から入ってくる顧客の裾野を広げ、その顧客をハイエンドにコンバートしていくために MySQL を活用するという考え方かもしれない。

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