Muranaga's View

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新興市場における携帯電話の驚異(5)--- 声を越えて

The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」まとめ

  1. "Mobile marvels"(原文)→ 「携帯電話の驚異」(日本語要約)
  2. "Eureka moments"(原文)→ 「発見の瞬間」(日本語要約)
  3. "The mother of invention"(原文)→ 「発明の母」(日本語要約)
  4. "Up, up and Huawei"(原文)→ 「上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)」(日本語要約)
  5. "Beyond voice"(原文)→ 「声を越えて」(日本語要約)
  6. "Finishing the job"(原文)→ 「仕上げ」(日本語要約)

The Economist(September 26th, 2009)「新興市場におけるテレコム産業」特集のまとめ、第5弾である。通話以外の携帯電話の使い方として、モバイル・マネー、モバイル・バンキングなどのサービスが紹介されている(以下、図をクリックすると、原文のウェブサイトに飛ぶ)。

Beyond voice 「声を越えて」
携帯電話の新しい使い方が新たな発展の波を生む可能性がある


Beyond voice

アフリカのウガンダに Farmers Friend というサービスがある。テキスト・メッセージで、農業の相談に乗ってくれるサービスだ。「米についたアブラムシ」「トマトの病気」「バナナをどう植えるか」といったメッセージを送ると、データベースを検索して応答する。複雑な質問は人間の専門家に転送されて、15分以内に電話で返答する。特に難しい問題については、4日以内に回答することを約束する。こういった人間の回答がまたデータベースに蓄えられる。

Farmers Friend はアフリカ最大の事業者 MTN と Google、Grameen 財団の AppLab("Application Laboratory")が6月に始めたサービスの一つである。農業だけでなく、健康(医者を探す、よくある病気の症状を説明する)や市場情報のサービスも提供している。

Google Trader は、農産物や日用品の売り買いを仲介するテキストベースのシステムである。このサービスを使ってブタを売って学費を捻出した人もいる。これらのサービスは一回あたり $0.05、Google Trader は $0.1 である。最初の5週間で、これらのサービスは 100万以上もの問い合わせを受け付けた。

A web of sorts

Grameen 財団は、携帯電話を使った情報サービスのモデルを作り、他の国にも展開しようとしている。通話と違ってローカライズが必要なため、各国でのパートナーとの協業が必要である。「村の電話オペレータ」と同様、携帯サービスにアクセスして、必要に応じてテキストを読み、翻訳して説明する「共同体の知識ワーカー」("community knowledge worker")のアイディアを実験している。

Trading up

農業、市場、健康情報を提供するサービスは他にもある。インドには農夫に天気と価格情報を日に4-5回テキストベースで伝えるサービス(3ヶ月購読で $4.20)Reuters Market Lite があり、125,000人のユーザがいる。

Nokia 独自の情報サービス、Nokia Life Tools もインドで6月に開始された。教育・娯楽の他、農業、天気などを Nokia の携帯電話で呼び出すことができる。

農夫を支援するサービスは中国でも広く受け入れられており、ニュース、天気とともに政府の方針を伝える ChinaMobile のサービスには既に 5,000万人のユーザがいる。ChinaMobile はさらにウェブサイト 12582.com を運営しており、農夫に栽培の技術や害虫駆除、市場価格などを伝える。これは月額 $0.30 のサービスであり、一日あたり 1,300万のテキストメッセージが送信され、4,000万人のユーザがいる。ガーナで 2005年に始まった TradeNet はアフリカにおける農産物の売り買いのマッチングを行う。バングラデシュの CellBazaar はテキストベースの求人広告を提供している。

携帯電話はヘルスケアの分野でも使われている。結核HIV 感染の患者へ薬の服用を促すテキストメッセージを毎日送るサービスがある。また携帯電話を使って、紙の記録よりも速く正確に健康情報を集めて、薬の在庫管理を支援している。カメラ付きの携帯電話で写真を送り、遠隔地にいる医者の診断を仰ぐのにも使われている。

ガーナの社会起業家は、偽薬の問題に対処する mPedigree というサービスを立ち上げた。販売されている薬のうち 10-25% は偽物であり、ある国ではそれが 80% にも上る。ナイジェリアとガーナでこのサービスは始められ、そこでは薬のパッケージのコードを特別な番号にテキストで送信すると、本物の薬かどうかを検証してくれる。

これらのサービスは、携帯電話があらゆるところに普及することで実用的になった。テキストメッセージのため、フル・インターネットアクセスには及ばないが、最も基本的な携帯電話のユーザに対しても社会的・経済的に便益をもたらす可能性を秘めている。

Money talks

最も明確に経済的に便益のある携帯電話サービスは、送金(money transfer)、すなわちモバイル・バンキング(厳密に言うと銀行ではないが)である。

離れた村にいる家族に送金する仕組みは以下の通り:

  1. まず携帯電話の通話料を補充する引換券(top-up voucher)を、送金したい金額だけ購入する。
  2. 家族のいる村の「村の電話」オペレータもしくは引換券を扱う店主に電話して、引換券のコードを読み上げる。
  3. これによりオペレータないし店主に通話料が貯まる。彼らは 10-20% の手数料を除いた分だけの現金を、送金先の家族に渡す。

通話時間(airtime)を携帯電話から携帯電話へテキストメッセージで送ることができる国もある。そこでは送金プロセスはもっと簡単になる。自分の携帯電話に通話料を貯め、それを送金したい相手の携帯電話に送ればよい。

この方法が普及したので、いくつかの会社では通話時間ではなくお金そのものを、携帯電話で送れるようにしたモバイル・ペイメント・システムを実施している。いったんそのシステムの会員になると、利用者は、エージェント(通常は通信事業者の通話料ベンダ)に現金を渡して、携帯電話の口座に入金する。このお金は別のエージェントのところで引き出すことができる。エージェントは口座に十分な金額が残っているかをチェックし、現金を渡してくれる。一方、送金するには、エージェントがお金を引き出せる特別なコードを、テキストメッセージで送金したい人に送ればよい。

モバイル・マネーの仕組みの中には、異なる国の間での送金が可能になったものもある。またモバイル・マネーの口座に紐づけて、デビット・カードを発行しているところもある。現金自動支払い機や銀行の支店の数よりも、携帯電話と通話時間の販売者が多いので、この仕組みは何10億もの銀行のない途上国の人々へ、金融サービスをもたらしたことになる。


Beyond voice

これまでのところ、モバイル・マネーで成功しているのは以下の通り:


中でも M-PESA は最も普及したモバイル・マネーの仕組みである。ケニヤ最大の通信事業者である Safaricom によって 2007年にはじめられた M-PESA は、今では 700万人の利用者がいる(ケニヤの人口は 3,800万人、うち携帯電話ユーザは 1,830万人)。当初は都市部から田舎への送金に使われていたが、今では、学校の授業料からタクシーの支払いにいたるまで、あらゆる用途に利用されている。毎日約 $200万が送金され、取引1件の平均額は $20 である。モバイル・マネーにより、田舎の家計は収入が 5-30% 増えたとされる(エジンバラ大学民族誌学者の調査による)。

A safe place for savings

M-PESA は金利はつかないが、預金口座の形でも使われており、予想外の突然の医療費の出費などに備えることができる。モバイル・バンキングは、貧しい人々にとって株や金を買うよりも安全な貯蓄の方法を提供している。

Safaricom の M-PESA がケニヤで成功した要因は以下の通り:

  • 他の方法での送金のコストが高い。
  • Safaricom(Vodaphone の子会社)の大きな市場シェア(80%)。
  • 正式なものではないが、監督庁(regurator)がモバイル・バンキングを許可した。
  • 2008年初頭の選挙後の暴動 --- 民族間争議に巻き込まれた銀行よりも M-PESA の方がお金を守る手段として安全だと認識された。

M-PESA の成功により、ノンバンクである通信事業者が金融サービスを行うことに対して、銀行や監督庁が認める方向も出てきている。いくつかの銀行は通信事業者と組んで、モバイル・マネーを始めようとしている。なぜなら銀行よりも携帯電話のブランドは、はるかに多くの利用者に浸透しているからである。

監督庁は銀行がモバイル・マネーに関与することにより、いくつかの懸念が取り除かれているという認識である。モバイル・マネーは預金額・送金額を $100 くらいに制限しているのでマネー・ロンダリングの不安を解消している。顧客は会員になる際に身分を証明しなければならないが、それは SIM を買う時よりも改まったものであり、かといって銀行口座開設の時よりは厳しくない。

2009年3月、ウガンダで MTN が Stanbic 銀行と組んでモバイル・マネーサービスを開始、送金の簡単さを訴求するキャンペーンを実施することで、わずか3ヶ月で60%もの人がこのサービスを認知することとなった。4ヶ月で 82,000人の利用者が会員となり、$510万が送金され、しかもその半分の額は最後の月に行われたものであり、サービスが素早くテイクオフしたことを示している。MTN は2010年初めまでに、モバイル・マネーを扱う店の数を 5,000まで増やす計画だ。

Banking for the unbanked

MTN はさらに他のアフリカや中東の 20もの国でモバイル・マネーを始めるつもりである。2009年の終わりまでに、途上国には 120以上のモバイル・マネーがあると言われ、2012年までには銀行口座を持っていない 17億もの人が携帯電話を使い、うち 20% がモバイル・マネーを使うだろうと予測されている。

携帯電話の持つ潜在力を再び示すことになる第二の波として、モバイル・マネーは期待されている。

The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」まとめ

  1. "Mobile marvels"(原文)→ 「携帯電話の驚異」(日本語要約)
  2. "Eureka moments"(原文)→ 「発見の瞬間」(日本語要約)
  3. "The mother of invention"(原文)→ 「発明の母」(日本語要約)
  4. "Up, up and Huawei"(原文)→ 「上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)」(日本語要約)
  5. "Beyond voice"(原文)→ 「声を越えて」(日本語要約)
  6. "Finishing the job"(原文)→ 「仕上げ」(日本語要約)