Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

英語の小説を原書で読むために --- 真野泰『英語のしくみと訳しかた』

英語の小説・文芸作品を読むと、難解で意味が取れないことが多い。語彙不足もその要因の一つだろうが、それ以前に文の構造自体が把握できない時がある。省略されていたり、倒置されていたり、仮定法が何気なく使われていたり。大学入試クラスの知識ではなかなか解読できない。そんな読者のために、英文法とその日本語への翻訳を指南する本が出版された。真野泰『英語のしくみと訳しかた』である。著者は大学で英文学を教え、イアン・マキューアンやグレアム・スウィフトなど現代の英国作家の翻訳でも知られる。

英語のしくみと訳しかた

英語のしくみと訳しかた

まず文章が親しみやすいのがいい。著者自身の経験・エピソードを交えながら、軽妙な文章で、ときおり何気ないジョークを忍ばせつつ、難しい内容を説明してくれる。二部構成になっていて、第一部が文法編、第二部が翻訳編になっている。

文法編では、多くの例文を挙げて、英文法を解説する。そして随所で辞書を読むことの大切さが繰り返されている。重要なことは、英文の構造をきちんととらえること。これは翻訳編への準備でもある。著者自身があとがきで述べているように、「よく読めなければ、よく訳せない。よく読めても、よく訳せるとは限らない。」よく読めるようになるために、僕たちは英文をたくさん読む必要がある。しかしどんなに多読したとしても、母語でない以上量が限られてしまうので、それを補うためにも、体系的な英文法の知識が必要になる。英語のプロである著者自身がかつて悩み、「ああ、そうだったのか!」とわかったことが紹介されている。

そして翻訳編では、真野泰という翻訳家の思考過程を覗くことができる。しかもグレアム・スウィフト(Graham Swift)の短編 'Our Nicky's Heart' を、原文と真野訳両方で全文読めるというお得感。辞書を引きながら丁寧に原文を読み、もし可能であれば自分で訳して真野訳と対比してみると、力がつくのではないだろうか?

著者のスタンスは、「できるだけ原文の形が透けて見える翻訳」である。原文の語順、文の順番や数にこだわると同時に、説明し過ぎない、そして情報を先取りしない「我慢する翻訳」という姿勢を貫いている。もとの原文とは異なる日本語の文章にすることをよしとしないその姿勢は、翻訳により元の作品を知る読者から見ても好ましく思える。その中にあって英語と日本語の違いに悩み、苦心する翻訳家の姿を垣間見ることできる。

英語が好きで、英語をもっと学びたい人にとって、一度は手に取るべき必読の書である。

英語学習・辞書 関連エントリ