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ハーバード・ビジネス・レビューの IoT (Internet of Things) 特集

HBR (Harvard Business Review) 2014年11月号は IoT (Internet of Things) / IoE (Internet of Everything) の特集号であった。このほどその翻訳が日本版「ハーバード・ビジネス・レビュー」2015年4月号として刊行された。日本語版では村井純先生が寄稿されている。

Harvard Business Review 2014年 11月号 [雑誌]

Harvard Business Review 2014年 11月号 [雑誌]

すべてのモノがインターネットにつながる IoT (Internet of Things) 時代。マイケル・ポーターの論文 "How Smart, Connected Products Are Transforming Competition" では、IoT を構成する「クラウドへの接続機能を持つスマート製品」(Smart, Connected Product)がもたらす競争戦略について、業界構造の変化をファイブ・フォーシズのフレームワークを使って分析し、さらには企業戦略への影響・意味合いを、10項目の選択肢にわたって解説する。この論文の続編にて、IoT のバリューチェーンへの影響と、組織運営の課題が取り上げられる予定。企業が直面する戦略の選択肢は下記の通り:

  1. 接続機能を持つスマート製品の機能や特性のうち、どれを追求するか / Which set of smart, conneceted product capabilities and features should the company pursue?
  2. 製品とクラウドに、それぞれどのくらいの機能性を持たせるべきか / How much functionality should be embedded in the product and how much in the cloud?
  3. 開放的なシステムと閉鎖的なシステム、どちらを追求すべきか / Shoud the company pursue an open or closed system?
  4. 接続機能を持つスマート製品の機能とインフラすべてを内製すべきか、それともベンダーや事業パートナーに外注すべきか / Should the company develop the full set of smart, connected product capabilities and infrastructure internally or outsource to vendors and partners?
  5. 製品やサービスの価値を最大化するには、どういったデータを確保、分析する必要があるか / What data must the company capture, secure, and analyze to maximize the value of its offering?
  6. 製品データの使用権とアクセス権をどう管理するか / How does the company manage ownership and access rights to its product data?
  7. 流通チャネルやサービス網の一部または全部を中抜きすべきだろうか / Should the company fully or partialy disintermediate distribution channels or service networks?
  8. ビジネスモデルを手直しすべきだろうか / Should the company change its business model?
  9. 製品データを第三者に販売して利益を得るタイプの新規事業に乗り出すべきだろうか / Should the company enter new businesses by monetizing its product data through selling it to outside parties?
  10. 事業の範囲を拡大すべきだろうか / Should the company expand its scope?

「(クラウドへの)接続機能を持つスマート製品」/ "Smart, Connected Products" は四つの機能を持つとし(モニタリング、制御、最適化、自律性)、それを構成する技術スタックの図や、業界の事業領域を再定義する図は、よく整理されていると思う。

また GE の「インダストリアル・インターネット」(Industrial Internet)の解説論文 "Digital Ubiquity: How Connections, Sensors, and Data Are Revolutionizing Business" では、箱売りからサービス・ソリューション提供者へ変貌を遂げつつある GE について、ここ数年の事業運営・組織・人の変革の内容を具体的に描いている。2011年から GE はインダストリアル・インターネットの構想に数10億ドルの投資をしている。もともと強くなかったソフトウェア技術へのシフト、GE ソフトウェアを立ち上げ、そこで共通基盤ソフトウェア Predix と Predictivity を開発、難航しながらもその共通ソフトウェア基盤 Predix を全事業ユニットへ展開、「箱売り」から顧客の課題を解決あるいは顧客の業績を上げる売り方への転換、そういったソリューション提案のための営業のためのソリューション・アーキテクトの強化、クラウドソーシングなどのオープン・イノベーションの実施、あえて競合とも提携するなど、かなり苦労して変革を推進したと考えられる。

インダストリアル・インターネット構想の実現に向けて、GE 外から新たなソフトウェア技術者を集めつつも、既存のハードウェア技術者を切り捨てずに、優秀なソフトウェア技術者と組ませることで価値創出・回収を狙うことの重要性が、改めて強調されている。

ポーターの論文で頭の整理した後に、GE の論文を読むと、企業がどのように新しいビジネスへ変革していったかが具体的に書いてあり、非常に興味深かった。

いずれの論文も IoT によって実現される単なるプロダクト売りではない、サービス・ソリューションの事例・ビジネスモデル変換の事例が数多く紹介されており、新しいビジネスを考えていくうえで参考になる。

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