日本企業のオープン・イノベーションを支援する試みとして、経済産業省は「シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト」を行っている。その一環で、2015年に実施した社内起業家をシリコンバレーに送り込む育成プログラム「始動:Next Innovator」から得られた学びと課題を議論するパネル討論「イノベーション創出と新規事業人材の育成」を聴講した(2016年2月17日)。以下は、その時のメモである。
1. 導入
- ソフトウェア・IT の分野での新事業創造・技術開発については、シリコンバレーにかなうクラスターはどこにもなかった。シリコンバレーを真似るのではなく、シリコンバレーとつながることで、大企業のオープン・イノベーションやベンチャー育成を図りたい。
- 今回はそのために実施した「架け橋プロジェクト」からの学び・課題を、パネルセッションという形で紹介する。
2. 自己紹介
- 経産省:石井氏
- 経産省が発起人となり、日産・志賀副会長(産業革新機構CEO)、WiL・伊佐山 CEO、デロイト・トーマツベンチャーサポートと一緒に、シリコンバレーとの架け橋プロジェクトを実施。
- 下記のようなことを実施している:
- 人材を選抜・育成する「始動」プロジェクト
- 機会を提供する MOMENT カンファレンス
- 企業支援:中堅・中小企業派遣
- ベンチャー・エコシステム形成のために、など、日本の企業のオープン・イノベーション、大学改革に取り組んでいる。
- WiL: 伊佐山氏
- シリコンバレー在住 15年。
- WiL のミッション:大企業のオープン・イノベーションを支援、起業家精神を啓蒙して日本をベンチャー大国に、日本とグローバル起業家の架け橋となる。
- シリコンバレーのベンチャー・エコシステムがそもそも違う。"Software Leading World" というトレンドに日本は取り残された。それを変えるには時間がかかる。スピーディにやるために、シリコンバレーに「出島」を作ろう、そこを実験やパートナリングの場としよう。
- 450億円資金調達して下記を実施:
- 日産副会長:志賀氏(産業革新機構 CEO)
3. 「シリコンバレーとの架け橋」プロジェクトをやってみて
- 経産省:石井氏
- 「始動」では、応募のあった数100人の中から 120人を選抜、さらに 20人を選んでシリコンバレーを体験させた。その熱量が継続している。
- 参加者たちのネットワークができた。
- 会社に帰り、その企業文化に影響を与えるきざしが出てきている。
- 日産:志賀氏(メンターとして)
- 日産からも「始動」に参加、別人のようになった。物見遊山ではなく、「チャレンジしない大企業の人間は、組織の最下層」とまで言われて、受けた刺激・大企業の中でイノベーションが起こしにくいモヤモヤ感を、自主的に企業内のグループで共有しつつある。
- シリコンバレーで受けた強烈な刺激 vs. 大企業の組織・日々の仕事 というせめぎあいをどのように乗り越えていくか。
- 大企業の中でイノベーションを起こすには?たとえトップの支持が得られたとしても既存のミドル・マネジメント層が壁になる。個人の力でそれをどう破るか。暖かく見守りたい。それは会社の寛容性・包容力の問題。
- 『アライアンス』という本に、個人と企業の新たな関係が書いてある。企業が従業員に「成長の機会」を与えることで、個人のイノベーション力があがり、ひいては組織自体のイノベーション力をあげることにつながる。
- WiL: 伊佐山氏(シリコンバレーの世話人として)
- シリコンバレーで「洗脳の儀式」で強烈な刺激を与えた。大企業の安定志向マインドは最下層とまで言われ、その刺激を帰国しても維持できている。大きく 5つの成果があった。
- ネットワーキング
- 「始動」に応募する人は、企業の中ではうざいくらいの暑苦しい人たち。それなのに意外と内向き。社内を向いて 20年たつと市場価値がなく、自前主義に陥りがち。外向きの人材・ネットワーキングに価値があった。
- 20人選抜という競争原理
- 仲間であると同時にライバル。競争原理を働かせることで、とがった人をさらにとがらせる。
- シリコンバレーという「大リーグ」世界を知った
- 初日にコテンパンにやられた。「今の会社に退職届を出してきたのか?」「退路を断ってコミットしているビジネスなのか?」
- 自分のビジネスプランがいかにダメかを思い知る。
- Comfort zone から飛び出さなければならないこと。起業の「大リーグ」とはどういうところかを身をもって知ることができた。
- 20人→5人 にさらに絞り、会社に戻ってプロジェクト化した
- 会社に戻り社長に直談判して、実際にプロジェクトとして実践している。
- 残りの 15人もフォローアップ
- 燃料を注ぎ続ける必要があるし、これもワークしている。
4. 課題
- 経産省:石井氏
- 「始動」は中堅向けだが、「イノベーション100委員会」にて、経営トップに企業内イノベーションについてインタビューした。、そこで下記のような課題が挙がっている。これは 2016/2/26 の日本ベンチャー大賞のカンファレンスで発表する。
- 今までの成功モデルから脱却できるか
- 既存事業の短期成果に固執していないか
- 本質的な(表層ではない)顧客ニーズがつかまえられているか
- 現場とトップがつながっているか
- 内部リソースに固執、自前主義に陥っていないか
- これらの課題解決に向けて、下記を提唱:
- 2階建て経営(効率と創造:1F は今、2F は夢)
- 顧客の半歩先
- 現場で実験
- オープンイノベーション
- 日産:志賀氏
- 日本企業は ROE も低いが、従業員・役員報酬も低い。一つの産業が「過当競争」になり、働いた成果のリターンが小さくなっている。
- ノンコアをカーブアウトする、ベンチャーを買収するなど、ダイナミックに事業ポートフォリオを組み替えなければならない(創業事業にこだわっている場合ではない)。
- ベンチャーを、日本の大企業は買収しない。コーポレート VC もうまくいかない。新規事業も「やっています」というポーズで、本気で取り組んでいない。この悪循環を延々と繰り返している。
- Japan Corporation の短期業績・四半期決算にこだわるのも課題。
- 経営者の「心の岩盤」をどう崩すか。大企業の経営者の理解を高めるには?
- WiL:伊佐山氏 大きく 3つの課題がある:
5. 大企業のイノベーションについてメッセージ
- 経産省:石井氏
- 挑戦することを、経営陣が評価・発信する仕組み、若手を伸ばして欲しい。
- 日産:志賀氏
- 企業風土・カルチャーを変える。多様性を重んじる、異なる考え方や意見を受け入れる、とがった人が働けるカルチャーが必要。
- WiL:伊佐山氏
- 若い人のアイディアに、すぐダメ出ししないで、いいところを褒めるべし。欠点を探すのはノーリスクで簡単。
- トライして失敗することを奨励。成功者は必ず失敗している。失敗するから成功の率を高められる。一歩下がって二歩進む。

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