Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

古代史を学び直す

日本書紀成立1300年の年にあたって、特別展「出雲と大和」を観て古代の日本に思いを馳せたのはいいが、僕の日本史の知識は40数年前の中学・高校時代、1970年代のままで止まってしまっていることに、改めて気づかされた。1984年に発見された荒神谷遺跡の銅剣や、1996年発見の加茂岩倉遺跡の銅鐸については、当然だが習った記憶がない。山陰・北陸に特有の四隅突出型墳丘墓も教科書に載っていたかしらん?ヤマト王権と関わりの深い纏向遺跡箸墓古墳について、そもそも習っただろうか?そういえば邪馬台国の場所論争はどう結論づけられたんだろう?

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最新の山川の高校生向けの参考書『詳細日本史研究』(2017)や『詳細日本史図録』(2017)、『ナビゲーター日本史』(2016)に目を通してみた。『ナビゲーター日本史』は味気ない教科書と違って、物語のように読むことができる。『詳細日本史研究』は教科書よりも、さらに詳しく、深くテーマを掘り下げている。

詳説日本史研究

詳説日本史研究

  • 発売日: 2017/08/31
  • メディア: 単行本
山川 詳説日本史図録 第7版: 日B309準拠

山川 詳説日本史図録 第7版: 日B309準拠

  • 発売日: 2017/02/03
  • メディア: 大型本

最近の考古学の研究成果は、高校生向けの参考書『詳細日本史研究』にちゃんと反映されていた。荒神谷遺跡の銅剣 358本の発見は、当時全国で見つかっていた銅剣の数よりも多かったこと、なぜ大量の銅剣・銅鐸が埋められていたかについてはまだわかっていないことが記載されていた。山陰地方から一部北陸地方にみられる四隅突出型墳丘墓については、弥生時代後期の墳丘墓にはきわめて明確な地域性がみられると説明している。

邪馬台国については、古くから九州説と近畿説とがあり、どちらをとるかにより日本列島における国家形成過程の理解が大きく異なってくるわけだが、従来4世紀と考えられてきた古墳の出現年代が3世紀中葉までさかのぼると考える研究者が多くなり、少なくとも考古学の分野では、近畿説をとる研究者が多くなりつつあるとしている。そして箸墓古墳は出現期最大の前方後円墳と紹介され、その北西方に隣接する纏向遺跡では3世紀前半の大型建物群が見つかり、邪馬台国から初期ヤマト政権への展開を解くカギを握る遺跡だとしている。

隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)

隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)

  • 作者:猛, 梅原
  • 発売日: 1981/04/28
  • メディア: 文庫

実を言うと、日本史の副読本として、梅原猛『隠された十字架』や江上波夫騎馬民族国家』を中学生に読ませるような変な学校だった。1970年代半ばのことである。当時「騎馬民族に征服されたのが大和朝廷」という大胆かつ衝撃的な仮説が提起され、話題を呼んでいたのだろう。

その「騎馬民族征服王朝説」についても、『詳細日本史研究』はしっかり紹介してくれている。4世紀後半、東北アジア系の遊牧騎馬民族朝鮮半島を経由して日本列島に侵入し、統一国家を樹立したと言う学説である。後半期の古墳文化が多数の馬具・金銅製の装身具を伴う騎馬民族的・王侯貴族的なものに大きく変化することをもとに提起された。ただそうした変化は5世紀初め以来、100年の間に次第に進展したもので、騎馬民族の渡来・征服による革命的な変化を想定するのは困難である。むしろ、4世紀後半以降の高句麗の南下に伴う朝鮮半島南部の戦乱に倭国もかかわり、その結果、多数の渡来人が日本列島に来て、その社会や文化に大きな影響を及ぼしたというのが、最近の通説である。

このように『詳細日本史研究』は、高校生レベルの基礎知識を確認するのに役に立つ。日本の歴史に関する展覧会に行くにあたっては、その予習・復習に活用できる。

考古学と歴史学。それをつなぐ科学的な分析があり、新たな発見がある。まだ教科書にはなっていない研究、最新の学説については、ちくま新書『古代史講義』で知ることができる。この本によれば、新しい史料、新しい遺跡の発掘調査、国際関係から見た研究により、日本古代史像は大きく変貌しつつあるという。邪馬台国所在地論争も、考古学的調査結果と絡み合ってますますヒートアップ、吉野ケ里遺跡や纏向遺跡といった弥生時代の遺跡を、卑弥呼の居住地と重ね合わせる論議が代表格となり、さらには出土品の年代測定の精緻化により箸墓古墳の築造が3世紀半ばまで上がってきたこともあって、近畿説論者では被葬者が卑弥呼かその後の壱与かという論争も熱を帯びているらしい。

古代史講義 (ちくま新書)

古代史講義 (ちくま新書)

  • 発売日: 2018/01/10
  • メディア: 新書
考古学講義 (ちくま新書)

考古学講義 (ちくま新書)

  • 発売日: 2019/05/07
  • メディア: 新書

学者ではない方々による著書も興味深い。たとえば出口治明氏や茂木誠氏の本を読むと、最新の学説を参考にしつつ、独自の論考を展開している。これらの本は、世界史の中における日本という地域の歴史に注目して書かれており、当時の日本は、先進国であった中国の影響を大きく受けていたことが、改めてよくわかる。