Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

「東京藝術大学 スーパークローン文化財展」:高精度な複製技術により時空を超える(そごう美術館)

伝統的な熟練の模写・模造技術と、最新のデジタル技術・2D/3D 印刷技術を融合させることにより、高精度な複製を作り上げる「クローン文化財」技術が、東京藝術大学で開発された。素材・質感・技法・文化的背景・精神性…。さまざまな観点から文化財の精巧な複製を作り上げ、失われた文化財を継承していくのが、「スーパークローン文化財」プロジェクトである。壁画や仏像など 50点ものスーパークローンを展示した展覧会が、横浜のそごう美術館で開催されている。

まるで本物を見ているかのような高精度な複製・復元を見ていると、「時空を超える」という言葉が頭に浮かんでくる。本物に優るものはないかもしれないが、現地に行かなくても当時の文化の一端に触れることができる。そして既に破壊されたり失われたりした文化財については、その忠実な復元によって継承していくしかない。

f:id:muranaga:20200808102452j:plain
東京藝術大学 スーパークローン文化財」展


スーパークローン文化財 〜失われた文化を蘇らせる 東京藝術大学COI拠点

タリバンによって破壊されたバーミヤンの大仏。その大仏の天井壁画が復元されている。1970年代に撮影された写真のポジフィルムのデジタル化、壁面の 3D データなどから、微妙な凹凸までも再現した構造体を成型した。原寸大まで解像度を高めた復元画像データをインクジェットプリンタで印刷して、成型した構造体に貼り付ける。さらにオリジナルの壁画の質感に近づけるべく、ラピスラズリなど同素材の絵具による彩色を加えている。ここでは日本の伝統的な模写技術と、デジタル技術の融合が行われている。

f:id:muranaga:20200808103526j:plainf:id:muranaga:20200808103627j:plain
バーミヤン東大仏天井壁画

古来より中国と西域をつなぐシルクロードの要衝であった敦煌敦煌莫高窟では 4世紀ごろから 1,000年にわたって連綿と石窟が開削されてきた。世界文化遺産となっているが、年々増大する観光客による文化財の劣化が懸念され、一部の窟では拝観が制限されている。第57窟は唐代初期の開削とされる。祈りの空間である洞窟内部の臨場感を表現するべく、その原寸大での再現が試みられた。微妙な壁面の凹凸まで記録された 3D データと、高精細撮影のデータをもとに、3次曲面に合わせた撮影画像の高解像度化などの画像処理を行っている。そして如来坐像、菩薩立像がスーパークローン文化財として再現された。

f:id:muranaga:20200808104326j:plainf:id:muranaga:20200808104508j:plain
敦煌莫高窟 第57窟

ミャンマーバガン遺跡は、11世紀から13世紀の間に栄えたミャンマー最初の統一王朝であるバガン王朝の首都バガンに築かれ、カンボジアアンコール・ワットインドネシアのボロブドゥールとともに世界三大仏教遺跡の一つと称されている。今回展示されているのは 12世紀に描かれた寺院の壁画であり、数多くの楽器や優雅な舞踊が描かれている。壁画の下地には石粉粘土を使用、壁画の表面となる絵画層には和紙が用いられている。和紙は凹凸面に貼り込む際によく馴染む。その凹凸のできた面に、描かれた壁画のタッチを盛り上げていく。そしてその和紙に、何度も位置を確認しながら印刷を行い、印刷した和紙を粘土板に貼り込む。その後、実際と同じ絵具を用いて、手彩色を行う。

f:id:muranaga:20200808104817j:plainf:id:muranaga:20200808104804j:plain
ミャンマーバガン遺跡壁画

日本の醍醐寺五重塔の連子窓の羽目板絵として、平安時代 951年に制作された 2枚の板絵。本物と酷似した木材の表面に槍鉋をかけ、エイジング加工した木肌をつくった。その上に原作の高精細画像を印刷、さらに補彩色を施している。

f:id:muranaga:20200808104946j:plainf:id:muranaga:20200808104957j:plain
醍醐寺五重塔壁画断片:板絵著色天部像

法隆寺金堂壁画は 1939年にその保存のため模写事業が開始された。しかし 1949年に法隆寺金堂は火災に見舞われ、模写の完成を待たずして原本そのものが失われてしまった。1967年に、写真を印刷した特注の和紙に彩色する方法により、模写が完成し堂内に納められた。現在もこの昭和時代の再現模写が、金堂内部に配されている。

そして平成・令和と、模写はスーパークローン文化財へと進化。伝統的な模写の弱点である図様の正確さと時間短縮をデジタル画像技術で実現、そこに伝統的な質感の再現や彩色仕上げを用いる模写技術の継承を組み合わせて、わずか半年で再現壁画が制作されている。

f:id:muranaga:20200808105158j:plainf:id:muranaga:20200808105204j:plain
法隆寺金堂壁画の再現模写

法隆寺釈迦三尊像も高精度に再現・復元されている。3D スキャナと CCD デジタルカメラにより高精度な 3D データを作成、それを 3D プリンタで出力し、金剛仏の鋳造原型を造形した。中尊のロウ型をつくり、ブロンズを鋳型から注ぎ込んで仏像の鋳物を完成させる。3D プリンタの造形には地図の等高線のような積層痕が残るので、それをキサゲや特注のこてヤスリなどで除去、表面を仕上げる。その上に彩色を施していく。

f:id:muranaga:20200808105249j:plain
法隆寺釈迦三尊像の再現・復元

f:id:muranaga:20200808105307j:plain
法隆寺釈迦三尊像の 3D 造形

最後は西洋画。ゴッホの《オーヴェルの教会》、そして日本の浮世絵を模写した 2枚の絵がクローン文化財として再現されている。歌川広重の《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》と《名所江戸百景 亀戸梅屋敷》の模写を、さらに複製したことになる。キャンバスの上にモノクロで画像を印刷、油絵具の粘りを利用して、ゴッホのタッチを再現している。表面は印刷によって着色するため、素地加工は白色の絵具のみでタッチを再現する必要があり、絵具の高さ情報を画像から読み取って、人の手で再現している。

f:id:muranaga:20200808110338j:plain
ゴッホ《オーヴェルの教会》のクローン文化財としての複製

f:id:muranaga:20200808110423j:plainf:id:muranaga:20200808110440j:plain
歌川広重にインスパイアされたゴッホの絵の複製

こうしてスーパークローン文化財により、時空を超えた後は、そごう横浜のレストラン街にあるアルポルト・クラシコにてパスタ・ランチ。

f:id:muranaga:20200808113958j:plainf:id:muranaga:20200808114029j:plain

デパートでは、夏休みということもあってか、アニメアートやぬいぐるみ動物園の企画展も行われていた。

f:id:muranaga:20200808121657j:plainf:id:muranaga:20200808123810j:plain