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ひとめで心を奪われてしまった「渡辺省亭 - 欧米を魅了した花鳥画 -」展(東京藝術大学大学美術館)

かねてより名前は知っていたものの、実物を見る機会がほとんどなかった日本画家・渡辺省亭(1851 - 1918年)。その初めての回顧展「渡辺省亭 - 欧米を魅了した花鳥画 -」が、東京藝術大学大学美術館で開催されており、いそいそと出かけた。そしてその花鳥画をひとめ見て、一瞬で心を奪われてしまった。

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「渡辺省亭 - 欧米を魅了した花鳥画 -」展(東京藝術大学大学美術館)

渡辺省亭は明治から大正時代にかけて活躍した日本画家であり、生涯を浅草周辺で暮らしたが、日本画家として初めてパリに渡航し、印象派の画家たちと交遊した経験を持つ。ロンドンのギャラリーで個展が開催されるなど、グローバルに活躍し、欧米での評価が高い。

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《牡丹に蝶の図》1893年

まず観る者の目を引くのは、描かれている動植物の迫真的な写実表現である。パリに遊学した際に印象派の画家たちを驚かせたと言うその筆致(ドガに直接渡した鳥の絵が展示されている)は、単に上手いというだけでなく、瀟洒な印象を与える。流麗な筆使いと明暗のはっきりしたコントラスト。シンプルな背景の中に、主題がエレガントに浮き立つ。鳥や動物には表情があり、絵からはストーリーを感じる。

「その手に描けぬものはなし」と称された河鍋暁斎も凄いが、ちょっとあざとさを感じるところがある。渡辺省亭の場合、そういった押しつけがましさがなく、その柔らかな絵は観る者を和ませる。床の間を飾り、四季を感じさせる掛け軸は、引きも切らない人気があったと言う。

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《百舌鳥に蜘蛛図》 《金魚図》

日本画の伝統と洋風とを融合させた、これほどの画家が、なぜ日本では忘れ去られてしまったのだろうか?生前はのちに巨匠と呼ばれる画家たちと変わらない人気を誇ったが、後年は美術団体に属さず、展覧会にも出品せずに、画壇との距離を置いたとのことだ。弟子はとらず、ひとり注文に応じて制作を続けた。

焼成前に金属を取り除いてぼかしを表現する濤川惣助の無線七宝は、数々の万国博覧会に出品され海外でも高く評価された。その原画を提供したのが渡辺省亭であることが知られるようになったのは、最近のことだと言う。明治42年(1909年)に完成した東宮御所、現在の迎賓館赤坂離宮には、渡辺省亭原画、濤川惣助による七宝の額が飾られている。

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《懸巣に蔦》 《山翡翠翡翠に柳》

《懸巣に蔦》 《山翡翠翡翠に柳》がその原画である。カケスは振り返ってこちらを見ているようだ。飛ぶ宝石とも言われたカワセミ、そして手前にはヤマセミが描かれている。枝垂れた柳との対比が美しい。

この展覧会の公式ガイドブックは市販されている。このブログの絵は、ガイドブックから転載している。

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公式ガイドブック『渡辺省亭 - 欧米を魅了した花鳥画 -』

ガイドブックには、「原寸で見る省亭の世界」というページがあり、その魅力を伝えている。

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《牡丹に蝶の図》1893年

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迎賓館赤坂離宮 七宝額原画》

会場には大型の『渡辺省亭画集』(65,000円)も置かれていた。Amazon では売り切れている。

渡辺省亭-欧米を魅了した花鳥画-

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  • 発売日: 2021/03/25
  • メディア: 大型本
渡辺省亭画集

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  • 発売日: 2021/03/15
  • メディア: 大型本

美術館の外に出ると、上野公園の新緑が美しい。この回顧展はおそらく僕の記憶にずっと残るであろう。心が洗われた時間であった。

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