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「重要文化財の秘密」を知る(東京国立近代美術館)

連休の最終日は、東京国立近代美術館 70周年を記念して開催されている展覧会「重要文化財の秘密」に行く。

明治以降の近代美術作品が初めて重要文化財に指定されたのは 1955年。現在、国指定の重要文化財は 10,872件あるが、明治以降の絵画・工芸・彫刻に限れば 68件に過ぎない。まだ国宝に指定されたものはない。この展覧会では、その 68件のうち、51件もの作品が集められている。

jubun2023.jp

展覧会の Webサイトからその概要を引用する:

 東京国陸近代美術館は 1952年 12月に開館し、2022年度は開館 70周年にあたります。これを記念して、明治以降の絵画・彫刻・工芸のうち、重要文化財に指定された作品のみによる豪華な展覧会を開催します。

 とはいえ、ただの名品展ではありません。今でこそ「傑作」の呼び声高い作品も、発表された当初は、それまでにない新しい表現を打ち立てた「問題作」でもありました。そうした作品が、どのような評価の変遷を経て、重要文化財に指定されるに至ったのかという美術史の秘密にも迫ります。

 重要文化財は保護の観点から貸出や公開が限られるため、本展はそれらをまとめて見ることのできる得がたい機会となります。これら第一級の作品を通して、日本の近代美術の魅力を再発見していただくことができるでしょう。

展覧会の最初を飾るのは、横山大観《生々流転》である。40m を超える水墨画巻である。YouTube で見ることも可能である。


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そして明治以降の近代美術作品として、日本画、洋画、彫刻、工芸が展示されている。特に日本画や洋画については、重要文化財として指定された時代における評価を表しているのが感じられる。今からすると、たとえば上村松園のような女性の作品が少ないと感じる。

上村松園《母子》1934年、重要文化財指定 2011年

黒田清輝《湖畔》1897年、重要文化財指定 1999年

鈴木長吉《十二の鷹》1893年重要文化財指定 2019年

鈴木長吉《十二の鷹》1893年重要文化財指定 2019年

初代宮川香山《褐釉蟹貼付け台付鉢》1881年重要文化財指定 2002年

そして何より面白いのは、重要文化財の指定に2回、大きな中断があったことである。1955-56年に狩野芳崖、橋本雅邦、菱田春草が指定されてから、次に指定されるまでの 1967年までに 11年の中断がある。そして 1982年の指定から 1999年の指定まで再び 17年の中断がある。

2回目の中断は、日本中がバブルとその崩壊で、重要文化財どころではなかったのだろうか?…というのは素人の浅はかな考えで、その理由は実はわからないらしい。

今回の展覧会の図録に、大谷省吾副館長が「重要文化財の『指定』の『秘密』」という文章を載せており、そこでは 1982年以降、日本の近代美術が西洋美術を巧みに「移植」したかという観点から見た時に、作品が出揃ったと見なされた可能性があるとしている。しかしこの長い中断の間にも、近代日本美術史研究が進み、「明治美術学会」が設立された。アカデミックな研究対象として、近代日本美術が認められるようになり、その研究成果が 1999年以降の重要文化財指定に反映されたのではないかとしている。

この展覧会の図録は、素晴らしい。今回出展された 51件だけでなく、全68件の近代美術の重要文化財が掲載されている。Web サイトから購入することも可能である。

www.mainichi.store

東京国立近代美術館に来ると、企画展だけでなく、必ず充実した常設展示も見てまわることになる。そして「眺めのいい部屋」から新緑に囲まれた皇居を見る。

今回は常設展の中に設けられた「修復の秘密」という企画展示が興味深かった。この修復作業についても、YouTube の映像が参考になる:


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国立近代美術館の弱点は、手頃な価格のミュージアム・カフェがないことだろうか?日曜日ということもあり、よく利用している隣りのパレスサイドビルも閉まっている。やむを得ず、車を丸の内ブリックスクエアに回して、地下のビストロ o/sio でランチをとった。