Muranaga's View

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『クラウドの未来』を読んで

2週間前の週末、超ショートノーティスで宿題が降ってきたのだが、それは「リーダーたちの集まる某国際会議にて、某トップが発言する内容についての情報インプット」というものだった。慌てて昔読んだ本を読み直したり、新たに文献を読んだりしたのだが、その中の一冊、小池良次『クラウドの未来 超集中と超分散の世界』は、クラウドとそれに接続される端末の未来を考える上でとても参考になった。超分散化された端末が、クラウドにつながることにより、あらゆる情報がクラウドに超集中する(著者は「クラウドブラックホール」と呼ぶ)というコンセプトは、僕自身がふだん思っている感覚と方向性などが合っている。

クラウドの未来─超集中と超分散の世界 (講談社現代新書)

クラウドの未来─超集中と超分散の世界 (講談社現代新書)

著者はシリコンバレーに10年以上暮らすジャーナリスト。ようやくシリコンバレーというインナーサークルのロジックを踏まえて記事を書くことができるようになったという。

シリコンバレーでは、クラウドを「イノベーション」そのものととらえ、既存の製品・サービス・制度・価値観を壊すものとしてとらえる。クラウドはコンピューティング、コミュニケーション(通信)、デバイス、サービスと4段階の進化を遂げると著者は考えており、クラウドというイノベーションの大局観を持って生活しているシリコンバレーと日本とを対比させ、さらにはシリコンバレーと同じような見方・時代観を共有すべく、この本を書いている。

以下、メイン・アイディアを抜出してみる。

  • クラウドの本質は「超集中と超分散の複合モデル」。さまざまなコンテンツ・アプリ・データがクラウドに集約(超集中)する一方、利用する端末はPC・スマートフォン・家電・自動車など多岐にわたり場所も機器も問わなくなる(超分散)。そしてこの二つを結びつけるモバイル&ブロードバンドネットワークが重要になる。
  • クラウドに集約されるのは、分析・ロジック・アルゴリズム・協調処理・ビッグデータ・最適化・パーソナライゼーションなど。桁外れの情報が集約し、数万台のサーバに載った一つのアプリケーションが情報処理を行う。
  • クラウドにすべてが集約する「クラウドブラックホール」とでも呼ぶべきこの現象により、デバイスとアプリケーションの設計は、大きく異なるものになる。クラウドバイスには、入出力・表示といったユーザインタフェース機能だけが残る。デバイスは、TV、ラジオ、DVR、デジカメ、ファックス、プリンター、プロジェクター、時計、照明、空調などが直接クラウドにつながって動く。
  • アプリケーションは、デバイスを超えて一つのサービスを提供する。デバイス間を渡り歩くユーザに対して、一つの最適なサービス、より高いライフスタイルを提供することが、アプリケーション設計の前提となる。(デバイスだけの製造販売は成長が望めず、サービスとデバイスの融合設計が必要となる。)
  • クラウドイノベーションそのものである。既存のメディアは使命を終える。既存マスメディアは単体サービスにとどまるのに対し、インターネットはさまざまなコンテンツとサービスが相乗りする多重化サービスモデルである。
  • クラウドを支えるのは、無線ブロードバンド、全IPネットワーク化による高度な放送と通信融合のインフラになるだろう。クラウド・メディアも放送・通信に分けられず、情報の送り手と受け手の区別がない。コンテンツとアプリが一体化し、情報の編集・消費の区別もない。

米国での家庭用テレビという端末については、Google TV を例に、従来の放送・ケーブルテレビとの両立の難しさ(コンテンツ供給の制限や制度改革の遅れ)を論じている。

またクラウドにおける情報の取り扱いという観点から、「オープン vs クローズド or セミクローズド」というモデル比較を行っている。

  • ウェブ・オープンモデル:
    • 汎用ブラウザによるウェブ、双方向、公開、自由流通。
    • 有料商業コンテンツとの調和点を見出だすのが難しい状態。
  • SNS クローズドモデル:
    • 片方向リンク、情報流通に制限。個人情報を扱う。
  • (モバイル)アプリケーション・セミクローズドモデル:
    • iPhone/Android の Apps
    • ウェブとは片方向リンク、位置など利用者を特定する情報を扱う。

オープンモデルの弱点は、プライバシーの問題。個人情報の流通に対して無力であること。これに対して SNS はその運営業者(例:フェイスブック)の管理体制だけをユーザは監視すればよい。そのために SNS がある。

この新書は、米国の事情・市場、日本との違いをふまえながら、クラウドとその端末の未来像を描く本として、一読の価値がある。

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