Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

出光美術館がジョー・プライス氏のコレクションを購入!

出光美術館がジョー・プライス氏の江戸絵画コレクションの一部を購入するというビッグ・ニュースが入ってきた!

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ジョー・プライスは、かつての日本では評価されていなかった伊藤若冲を発掘した人だ。建築家フランク・ロイド・ライトとともに訪れたニューヨークで、若冲の『葡萄図』と衝撃的な出合いを果たし、その後、若冲をはじめとする江戸絵画の世界的なコレクターになった。

若冲になったアメリカ人 ジョー・D・プライス物語

若冲になったアメリカ人 ジョー・D・プライス物語

出光美術館と言えば、昭和の香り漂う古いビルの一角にあり、照明を落とした展示室が印象的である。日本の書画や中国の陶芸品がメインだが、ここにジョー・プライスの江戸絵画コレクション、約 190点が加わる。伊藤若冲「鳥獣花木図屏風」や円山応挙の屏風絵、酒井抱一の花鳥図も含まれており、来年に展示するとのこと。とても楽しみである。

数年前(2017年3月)、NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」で、クリスティーズの敏腕オークション・スペシャリスト山口桂氏を取り上げた時に、ジョー・プライス・悦子夫妻と、そのコレクションの一部を日本に買い戻す話を進めていると言っていたが、「その時の話がこれだったんだー」と、納得です。

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若冲原寸美術館 100%Jakuchu! (100% ART MUSEUM)

若冲原寸美術館 100%Jakuchu! (100% ART MUSEUM)

東京都美術館「クリムト展 ウィーンと日本 1900」で、クリムトの美しい絵を堪能する

週末の金曜日。会社帰りに「クリムト展 ウィーンと日本 1900」東京都美術館)に行く。平日にもかかわらず、チケットを買って入場するまで20分もかかるくらい並んでいた(チケット待ちで並んでいる間にオンライン・チケットを買えばよかった)。会場内も混んでいて、絵のすぐ前まで行くのには並んで時間がかかるので、主に2列目からの鑑賞となり、忘れずに持って行った単眼鏡が活躍した。とはいえ、図録の表紙にもなっている『ユディト I』のような作品を観る時は、一番前まで行って、そのタッチをじっくり眺めてきた。

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切り落とした敵将の首を恍惚の表情で持つ未亡人ユディト。『ユディト I』は金を使った装飾性の高い絵である。そして絵だけでなく、額縁にも要注目である。『ユディト I』の額縁は、クリムト自身がデザインして、弟が製作した。

日本美術やビザンチン美術に影響を受けて、クリムトが金を使うようになったのは、『ユディト I』が初めてだと言う。濃淡・陰影をつけられない金を使うと、平面的な絵になる。西岡文彦『簡単すぎる名画鑑賞術』によると、立体的な絵は「どう見えるか」を描き、より写実的になるのに対し、平面的な絵は「どうなっているか」を描く。この平面性・装飾性がクリムトの特徴である。これも日本美術の影響かもしれない。クリムトが収集していた日本美術の中に、小原古邨の金魚の版画を見つけた時はちょっと嬉しかった。小原古邨の肉筆と見紛うほどの繊細な版画は、日本よりもむしろ海外で評価されていたのである。

『女の三世代』『ヌーダ・ヴェリタス 裸の真実』も必見。クリムトは生涯結婚しなかったが、14人の子供がいた。自分の近くにいた女性を数多く描いている。そして芸術家仲間と分離派を設立、その会館の壁画『ベートーヴェン・フリーズ』の原寸大の複製展示も、迫力満点である。第九交響曲をモチーフに製作されている。

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国立新美術館で開催されていた「ウィーン・モダン クリムト、シーレ、世紀末への道」展、そして千足伸行『もっと知りたい世紀末ウィーンの美術』を読んでおいたことが、クリムトやシーレ、マーラーの生きた19世紀末のウィーンという歴史的な背景を予習するいい機会になった。

簡単すぎる名画鑑賞術 (ちくま文庫)

簡単すぎる名画鑑賞術 (ちくま文庫)

また事前に西岡文彦『簡単すぎる名画鑑賞術』で、クリムトの絵の見るべきポイントを確認しておいたこともよかった。実をいうと、こんな予習をしないで、虚心坦懐に、新鮮な気持ちで絵画に向かう方がいいのかもしれない。まずは感じる。そのうえで知識を使って見る。考える。右脳と左脳で絵画を楽しむことは、サントリー美術館「information or inspiration?」展が教えてくれた。さまざまな展覧会に行ったこと、美術の本を読んでいることが、少しづつ有機的につながっていくようで楽しい。

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『五感でわかる名画鑑賞術』にみる美術鑑賞の極意

西岡文彦『五感でわかる名画鑑賞術』は、『簡単すぎる名画鑑賞術』の続編に相当する。前作はタッチの変遷に焦点を当てた興味深い鑑賞ガイドとなっていたが、本作は著者自身の個人的な経験をふまえたエッセイの要素も持っている。

第1章で紹介されている美術鑑賞の極意をまとめておく。作法に縛られず、リラックスした状態で、自分らしい感覚と感受性で作品を鑑賞するための極意である。

極意その1 画家の名前を見ない

  • 絵のそばについている名札そのものを見ない。
  • たいせつなのは、他人の決める「よしあし」ではなく、自分でもわかる「好き嫌い」に忠実な目で絵を見ること。
  • 名札で名前を確認したくなるのは、「好き嫌い」より「よしあし」を優先する心理のあらわれ。
  • まず絵を見ること。

極意その2 好きな順、好きな速さで見る

  • 見たくもない絵で満腹してしまい、目あての絵の味までわからなくなってしまう。
  • 大切なのは、自分なりのペースで絵と向かい合う時間を、日々の暮らしの中に見出すことである。

極意その3 額縁に、わき見してみる

  • 画集ではわからなかった名画のドラマが見えてくる。
  • 絵の持ち主や買い手の存在が実感されて「ライブ」な迫力が加わる。
  • モナ・リザ』は額縁にのサイズに合わせて、名画の左右のふちを切断したという説まである。
  • フェルメールの『レースを編む女』が額縁の面積が、絵そのものよりも上回っている。

極意その4 ともかく近くに寄って見る

  • 絵の具の凹凸、筆のあとから生身の画家の手法や手腕が見えてくる。
  • これでもかと絵の具を盛り上げるゴッホの試行錯誤のプロセス。あるいは塗り残しがリアルな臨場感を見せる。
  • 一見筆のあとの見えない『モナ・リザ』やフェルメールにも、画面のすみを見ると大胆なタッチが残っている。

極意その5 なるべく、あちこちから眺める

  • 彫刻は全方位からチェックしたうえで、ベストの角度をさがすのが鑑賞の醍醐味。

極意その6 必ず飲み食いをする

  • 味や香りと結びつき、いつまでも鮮烈によみがえる名画の記憶が刻まれる。

極意その7 必ず買い物をする

  • 絵はがきもカタログも自分が自分に買うおみやげ。迷ったら、とりあえず買っておくのが正解。

極意その8 いちばん好きな絵を選ぶ

  • 作品の「よしあし」の世評や批評はどうであれ、自分の「好き嫌い」でベストをみつけて帰る。
  • ともかく会場では好きな絵だけを見る。その後にもう一度全体を見回して、いちばん好きな作品を見つけて帰りたい。

極意その9 好きな理由を考える

  • 好きなものには必ず理由がある。その理由がわかれば自分自身がよくわかる。
  • 自分なりのマイ・ベストがたまり、自問自答するうちに、色や形や風景への好みがわかってきたりする。

極意その10 必ず誰かと話してみる

  • きちんと自分の話を聞いてくれる人との会話から、自分も知らなかった自分自身が見えてくる。
  • 正解を求めて合意に達するための話し合いではない。むしろ意見の対立や平行線を楽しむくらいの気持ちで話してみたい。

「極意その4 ともかく近くに寄って見る」ために、画家の筆致に迫る道具が、単眼鏡である。僕にとって、美術鑑賞には必携のアイテムになった。

また『原寸美術館』のシリーズも、画家の手元を見る画集としては必携である。

原寸美術館 画家の手もとに迫る

原寸美術館 画家の手もとに迫る

原寸美術館 日本編 画家の息吹を伝える

原寸美術館 日本編 画家の息吹を伝える

若冲原寸美術館 100%Jakuchu! (100% ART MUSEUM)

若冲原寸美術館 100%Jakuchu! (100% ART MUSEUM)

そして「極意その5 なるべく、あちこちから眺める」の実践、さまざまな角度から彫刻を見るということでは、横浜美術館で開催された「ヌード NUDE」展でのロダンの『接吻』を思い出す。

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その他、この本に示されている美術鑑賞の上で参考になるポイントをメモしておく。

  • モネは刻々と変化する風景の印象を残すために、光線の具合が変わるたびにキャンバスを変えて連作を残した。光の粒子をまぶしたような描写が明るいアウトドア感覚を生む。
  • 17世紀のフェルメールの時代がバロックと呼ばれるのに対し、18世紀の美術様式はロココと呼ばれる。スペインやオランダに代わってフランスが世界の覇者になりつつあり、宮廷美術が開花する。その中でも市民生活の一コマを描くシャルダンのような画家もいた。
  • 職住分離のこの時代から父親不在の絵画となる。また静物画には、宗教的な題材に見えないものの寓意として描き込んだものが登場する。たとえばザクロはキリスト復活、葡萄は最後の晩餐のワイン、麦の穂はパンを意味している。
  • シャルダンのパンの粉をふいたような質感、立体としての実在感が素晴らしい。その極致がコップの水を描いた作品。モノトーンながらコップに輝くハイライトが水を美味しそうに見せている。
  • 19世紀の印象派を可能にしたのは、チューブ入り絵の具の発明。モネは屋外に油彩の道具を持ち出して、光の印象を連作として残した。マネは「こんなところで、こんなヌード?」という衝撃の『草上の昼食』で物議をかもした。
  • 油彩と水彩では「もの」としての迫力が違う。厚塗りできる油の持ち味は、まず画面に近づいて実感すべきである。絵の具を油で溶く手法はルネサンスの少し前に絵画に応用され始めた。それまではテンペラという卵の黄身で絵の具を解く技法や、フレスコという漆喰に水溶性の絵の具で描く手法がとられていた。
  • 油彩ならではの写実技法を完成させたのは、フランドル絵画の巨匠ファン・アイク兄弟であり、その細密描写はレオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとする後世の画家に多大な影響を与えている。画期的だったのは重ね塗りであり、微妙な陰影表現を可能にし、さらにはハイライトの光点を打つことで、宝飾品や衣服の質感をみごとに描き出している。
  • レオナルド・ダ・ヴィンチは薄い絵の具を重ね塗りして、写真のようななめらかなぼかしを表現した。油彩のぼかしを極限まで追求し、その境地に到達してしまった史上最高の画家と言える。『モナ・リザ』では塗り一回ごとに乾燥を待って薄塗りを繰り返すことで、筆の跡を残さず無限の階調を見せている。この技法は「グレーズ(graze)」と呼ばれるが、レオナルドの場合「スフマート(sfmato)」、すなわち煙のような微妙なぼかしと称される。
  • 生乾きの漆喰に水溶性の絵の具で描く技法がフレスコである。壁画は漆喰の乾燥とともに耐水性を持つ。乾燥する前に描くことになるので、画家はは迅速な描写力と決断力が求められる。大作は「ジョルナータ」と呼ばれる区画に分割して描かれた。『最後の審判』は 14m x 12m、約 450 のジョルナータからなる。ミケランジェロは 5年と数ヶ月の長い年月の間、5日間で一つのジョルナータを完成していたことになる。超人的な持続力の持ち主。
  • 一方、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は 4.5m x 9m。絵画の制作に思索と試作の長い時間をかけるレオナルドは、フレスコではなく油彩を使った。しかしこれが大失敗で、完成後数年もしないうちに、壁から剥がれ落ち始めてしまった。
  • 絵の具の選び方だけでなく、下地も大きな影響を与える。板に描くか、キャンバスに描くかも大きな違い。ボッティチェリ『春』と『ヴィーナスの誕生』を比べるとよくわかる。同じテンペラで描かれながら、板の上の『春』には無数のハッチングが見える。これに対してキャンバスに描かれた『ヴィーナスの誕生』の陰影・色調は微妙で、ハッチングのあとはあまり見られない。キャンバスの表面の弾力が表情に富んだ描線をもたらし、表面を筆でこすると布目の凸部に絵の具がついて、点描の効果を上げる。線描のハッチングとは比較にならない、微妙な階調を生む。
  • そして驚くべきことに『モナ・リザ』は木の板に描かれている。キャンバスの効果を借りずに精妙な描写をし得たレオナルドの真価がわかる。

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美術鑑賞がますます楽しくなる『簡単すぎる名画鑑賞術』

『いちばんやさしい美術鑑賞』はアマチュアならではの鑑賞ガイドがわかりやすかったが、逆に美術のプロフェッショナルが、中学生にもわかる簡潔で明快な絵画の読み解き方を指南する本がある。西岡文彦『簡単すぎる名画鑑賞術』。題名の通り、とても分かりやすい西洋美術ガイドである。多摩美術大学の教授で版画家でもある筆者が、その愛してやまない絵画の魅力を、力強い筆致で伝えている。

著者は柳宗悦門下の版画家を師匠に伝統的な「合羽刷り」の刷り師として入門して10年修業を積んだ。その後、美術誌の編集の仕事に携わっている。そんな経歴の持ち主だから、本質的な言葉で、わかりやすい文章を書くのかもしれない。

簡単すぎる名画鑑賞術 (ちくま文庫)

簡単すぎる名画鑑賞術 (ちくま文庫)

画家の絵筆・タッチの違い、その変遷の解説が詳しい。口絵にカラーの拡大図も掲載されており、タッチの美術史をルネッサンスから現代アートまで、辿ることができる。絵に近づいて観る時のポイントが、少しだけわかったような気がする。

モナ・リザ』の「!?」マーク

  • 実物を見た時の無感動、むしろ失望には理由がある(意外と小さい、複製のよう、何が描きたいのか不明)。
  • 画集やテレビの画面などで大きく見えることは、むしろ名画の証。
  • 複製のように見えるのは、筆の跡を消すダ・ヴィンチの神業。溶き油で薄めた「つゆ」状の絵の具を何度も塗り重ねている。
  • モナ・リザ』は美術史上はじめて登場した「人物画」。肖像画でもなく礼拝像でもない。「ある女性」の似顔絵ではなく「女性というもの」のイメージを描いた。

モネのムラ塗り

  • モネの魅力は絵の具のムラにある。パレットではなくキャンバスの上で、直接絵の具を混ぜているところも多い。
  • 1874年の第一回印象派展(「嫌な予感の印象派展」と語呂合わせ)の『印象 日の出』が印象派命名の由来。歴史的に意義のある場面を写実的に描く正統な絵画に対して、刻々と様相を変える外界の光の印象を描いたため、酷評された。
  • チューブ入りの絵の具の発明が、風景画の屋外制作を可能として、印象派を生んだ。
  • モネは見る人の目の中で、絵の具を混ぜた。
  • 日本人のモネ好きは、モネが影響を受けた日本の美学(黒を使わない配色は、影を描かない浮世絵の影響)を逆輸入しているから。

マネのベタ塗り

  • 神話・聖書・歴史の一場面、ストーリーの都合上無理なく裸になるというのが従来のヌード絵画の言い訳。一方、マネが1863年(「いや無味乾燥なマネの裸」)に制作した『草上の昼食』『オランピア』は、同時代の女性の裸を描き、大スキャンダルになった。
  • マネの特徴は絵の具のベタ塗りにある。その絵の具の塗り方のルーツは、スペイン王室の看板画家ベラスケスの大胆にしてツボをおさえた筆使いにある。
  • 下地の乾かない薄い色の上に、濃い色を太い筆で塗るのは、濃い色の上に明るい色を重ねる従来の技法とは正反対。最後に黒をベタ塗りして、画面全体に輝きを与えている。それはダーク・スーツの美学が生んだマネの黒とも言える。
  • 内容も、明暗を強調した塗り方も、大胆な筆使いも、印象派たちに影響を与えたが、マネ自身は印象派から尊敬されることには、迷惑していた。

ドラクロワの色彩

  • 『民衆をひきいる自由の女神』などドラマティックな画風のドラクロワ。激しい画面を安定させるピラミッド構図が使われている。
  • 『ダンテの小舟』の水滴は、ルーベンスの水滴をさらに大胆な色使いにして、赤・黄・緑・白の独立した点で描かれ、離れてみると見事に融合して一つの水滴に見える。キャンバスの上で絵の具を混ぜる印象派の手法のルーツ。
  • その大胆な色使いは、補色を対比させることで生まれており、ゴッホを心酔させた。
  • 画家の主観的な感情を表現する筆づかいの元祖がドラクロワゴッホムンクの描線につながっていく。

レンブラントの陰影

  • レンブラントの感動は、厚塗りにある。指で絵の具をこすったり、パレットナイフをコテにして盛り上げたり、大胆な筆づかいだが、距離をおいて眺めると写実のきわみを見せる。当時の無理解から、作品にニスが塗られてしまい、後年の修復でニスが洗われ、鮮やかな色彩が出現した。
  • ダ・ヴィンチが薄塗りで写実の頂点をきわめて以降、厚塗りによるタッチの到達点がレンブラントと言える。
  • 極端に暗い背景により、「レンブラント光線」と呼ばれる劇的な光を演出する。暗い影との対比で光の明るさを描くのではなく、明るい色にさらに明るい色を重ねる技法は、影を描かない浮世絵に影響を受けた印象派の登場を待つことになる。
  • 絵画芸術は、イーゼルにのる持ち運びサイズになって個人化した。礼拝の対象ではなく、美の感覚の喜びを提供する。絵画が個人の内面を映し出す鏡の役割を獲得したのも、まさにこの時代(17世紀バロック)。
  • レンブラントは個人性を追求、不遇の中でも晩年、売れない自画像を描き続けた。そこにはダ・ヴィンチをも超える人間的な表情の描写がある。日々自分と対峙して、厚塗りとなぐり描きという手法で描かれた自画像こそ、レンブラントの心の痕跡として残っている。

スーラの点描

  • 目の中で混色する技法はドラクロワやモネの試みをさらに徹底したものだが、モネがうつろいゆく外界の色彩を素早く画面に描きとめようとしたのに対し、無数の習作で科学者のように実験を重ねた後に、作品を完成させるのがスーラ。
  • 光学と色彩理論の時代が生んだ点描。印刷のアミ点を先取りした原色の点による混色を探究する。
  • 後期印象派の画家たちは個性的な造形を探究した。ロートレックの流麗な線、ゴーギャンの明快に区切られた色面、ゴッホの渦巻く描線、そしてスーラの点描。

ゴッホの渦巻

  • 生前に売れたゴッホの絵は1,600点中わずか一点。不遇と無理解につきまとわれた人生だった。ゴッホは芸術する精神のボクサーだった。
  • 工業化し人間性が押しつぶされていく社会にあって、野放図な感受性や生命力を感じ表現するゴッホの絵は、近代人すべてが心に抱えていた不安を表出するものであり、心の病気の肩代わりでもあった。
  • 写実という他者へのサービスではなく、作り手が自分の手の動きのままに楽しむことで、心を静めることができる。ゴッホ以降の近代絵画は芸術療法となり、「美しい」作品はほとんど見当たらなくなった。
  • せっかちな性格で盛り上げた絵の具の超厚塗り、その集大成が『ひまわり』。
  • 晩年はのたうつ筆づかいがさらに極端になり、不安にゆらぎ、どうどう巡りに渦巻く描線となる。追いつめられた中でなお個性を発揮しようとする抗いが、見るものの共感を誘い、不思議と元気にさせる。

クリムトの平面

  • 実際の黄金よりも、レンブラントの描く黄金の方が価値が高い。クリムトの金の多用は時代に逆行するもの。金という素材を使った世紀末の装飾性は、写実描写と根本的に対立する。
  • 金粉でも金箔でも濃淡の表現は不可能、写実的な陰影表現はできない。
  • 日本美術の金を使った造形仕様、平面性がクリムトの手本となった。文様が正面向きに描かれている『見返り美人』。そうした文様もクリムトは参考にしている。
  • 立体表現では「どう見えているか」を描くのに対し、平面表現では「どうなっているか」を描く。陰影を描かない浮世絵のフラットな画面も、色がどう見えるかではなく、色そのものを描く。日本美術の平面性を、クリムトは積極的に導入し、装飾的な画面を構成した。
  • 世紀末のクリムトは、同時代のマーラーの音楽に似ている。音楽で言えば旋律、絵画で言えば形が、この二人の場合、全体を貫くような大きさに欠けている。どっしり感がない。骨太な全体感に欠けたところが、クリムトの魅力の本質てあり、その造形の限界となっている。

セザンヌの立体

  • セザンヌ美大入試の定番。その基本画風は「面取り」。ものの形を面の集合体としてとらえて、立体感を強調する手法である。今では絵画描写の基本中の基本となった描き方だが、発表当時は笑いものにされてしまうほど理解されなかった。形体の表現に熱心なあまり、質感を切り捨ててしまっている。美しさではなく、どういう形をしているかということに関心がある。
  • うつろいゆく光や変わりゆく色彩の描写をめざした印象派は、実体としての「あり方」よりも光線の反射による「見え方」を表現する。それは形体の喪失という危機に直面した。それに対するセザンヌの回答が、面取りであった。風景を描くにしても、目の前に広がる平面的な絵としてではなく、深さと奥行きを探究した。
  • 『トランプをする人々』では、カードをする人物の形体のみがわかり、物語性は失われている。「文学性の拒否」、すなわち挿絵であることをやめたのがセザンヌであり、これこそが現代絵画の最大の特徴となっている。セザンヌは現代絵画の父ともいうべき画家である。
  • セザンヌの試みを大胆に推進したのが、ピカソやブラックのキュビズム、「立体派」の画家たちである。直方体と円筒で自然をとらえるべきとしたセザンヌの描写を、極端なまでに徹底した。そしてさらにキュビズムでは、同じ画面に異なった角度からみた立体の描写が共存している。この時から、絵画は「美」の象徴から「自由」の象徴となった。

ピカソの自由

  • ピカソは下手うまの元祖。子供時代ラファエロのように描けたが、子供のように描けるようになるのに半生を要したと、ピカソ自身が言っている。
  • 哀愁に満ちた「青の時代」、人体の造形のみに興味を絞って描いた「桃色の時代」、立体をさまざまな方向から眺めたキュビズム、包装紙や壁紙や新聞紙をキャンバスに貼り絵するパピエ・コレ。カメレオンとあだ名された多彩な画風を持つが、学生時代のデッサンは神がかった写実の腕を見せている。ダ・ヴィンチのような巨匠と並べても、その存在感・正確性はひけをとらない。
  • 自由を求めた破壊の確信犯であり、絵になる形と色を知り尽くした巨匠である。ピカソ以降、現代アートは美そのものや芸術そのものを否定するようになるが、ピカソの作品は、どれほど大胆な試みをしていようとも、最後の最後、絵を描くと言う感覚の喜びを捨てることはない。
  • ピカソの魅力を伝える本が、結城昌子『ピカソの絵本 あっちむいてホイッ!』である。

ピカソの絵本―あっちむいてホイッ! (小学館あーとぶっく)

ピカソの絵本―あっちむいてホイッ! (小学館あーとぶっく)

モンドリアンの厳密

  • モンドリアンによって幾何学的な抽象絵画は確立された。絵画から形を除いて幾何学的な形体を描くモンドリアンカンディンスキー。一方で絵の具を叩きつけるような野生的な抽象絵画もある。モンドリアンは理性の極致で絵画の新地平を開いた。
  • 垂直と水平の線にのみ整理して、三原色だけで抽象絵画の最高峰に到達したのが『赤・黄・青のコンポジション』。1930年の作品だが、以降幾何学的な抽象画でこの作品を超えるものは出ていない。
  • 考え抜かれて単純化した配色と構成、対角線を極端に嫌う。
  • 厳格なプロテスタントであるカルバン派の家に生まれ、父ゆずりの造形的な潔癖性をもって、十字架の影響を受け反発しつつも、水平線と垂直線という構成要素にこだわった。
  • 機械化した感受性のために、厳密で理知的なモンドリアンの画面は、叙情を奏でる。
  • 抽象絵画の魅力を伝える良書は(先日亡くなった)本江邦夫『○△□の美しさってなに?』。

現代アートの「!?」マーク

  • ウォーホルはアートのわかりにくさの象徴。ハリウッド女優の顔の版画の連作で、複製の粗悪感を強調、絵画は美しいという感覚を根本から逆なでする作品であったり、キャンベル・スープの缶を描いただけの作品であったり。当のウォーホルは粗悪感により印刷メディアの複製ならではの味わいを強調したり、現代の静物画の対象として日常的な缶を選んだりした。安手に描かれることの方が「有名」の証になり、ウォーホルに描いてもらうから有名人という逆説的な現象も生じた。
  • わからないこと自体が現代アートの特徴であり、「これでもアートか?!」と、その失望や疑問をあらわにすると、自分が時代遅れで美術の素養がない気にさせられる。本来は、制作のための手段だったはずの実験が、作品の目的そのものになっているのは、現代に特有の現象である。
  • たとえば自転車の部品で牛を作ったピカソの実験。便器を美術展に出品したデュシャンの実験。美術品が美術館に展示されているのではなく、美術館に展示されているから美術品なのだという現実をつきつける実験であった。
  • 現代アートの最大のテーマは問題提起にある。デュシャンの問題提起がシャープ過ぎて、「問題提起」自体がアートの様式として定着してしまった。いまだに似たり寄ったりの「美術品とは何なのか?」という問題提起が続いており、現代アートそのものが元気になれない宿命を抱えている要因となっている。現代アートの前では存分に考え込み、場合によっては落ち込んでみても、いっこうに構わない。

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三井記念美術館「円覚寺の至宝」展を観た後は、日本橋三越にて「大人ランチ」

雨の土曜日。あいにくの天候にもかかわらず、クリムト展は混雑しているようだったので、行き先を変え、三井記念美術館の「円覚寺の至宝」展に出かける。

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ウェブサイトに掲載されている、この展覧会の内容は以下の通り:

本展覧会は、大用(だいゆう)国師200年・釈宗演(しゃくそうえん)老師100年大遠諱(おんき)を記念して開催する、鎌倉円覚寺の歴史と文化の総合的な特別展である。瑞鹿山円覚寺は、弘安5年(1282)鎌倉幕府第8代執権北条時宗により、中国から招聘した無学祖元(むがくそげん)を開山として創建された。そして鎌倉に「禅」の興隆基盤を築くとともに、中国との国際的な交流を通して鎌倉独自の宗教、文化、芸術を創造する中心的存在となった。

円覚寺とその一門寺院には、今日まで多くの優れた彫刻、絵画、書跡、工芸品などの作品が遺されている。今回は初出品の作品を多数加えた新たな切り口で、円覚寺円覚寺派寺院の至宝、総点数110点(国宝、重要文化財が約半数、県市指定文化財を含めると約7割を占める)が一堂に会する質の高い特別展である。

小規模ながら、開山当時の品々、鎌倉時代から南北朝時代の仏像、円覚寺やその一派の高僧の坐像などを、ゆっくり観覧することができた。三井記念美術館の入り口の吹き抜けは、いつ来ても素敵な空間である。

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ランチは日本橋三越本店・ランドマークへ。お子様ランチ発祥の地とされるここで、「大人ランチ」を楽しんだ。チキンライス・ハンバーグ・カニクリームコロッケ・ローストビーフ・サラダ・スープ・プリン…。さすがに旗は立っていなかったけれど、子供の頃に出かけたデパートのお子様ランチを思い出しながら、美味しくいただきました。

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www.mitsui-museum.jp

www.mitsukoshi.mistore.jp

数100点にわたる横浜美術館コレクション、そして「横山大観 画業と暮らしと交流」展

地元・横浜で開催されている展覧会を二つ紹介する。

一つは横浜美術館で開催されている「Meet the Collection -アートと人と、美術館」横浜美術館開館30周年を記念して、その所蔵する300点もの作品が展示されている。西洋美術、日本美術、版画、彫刻…。ダリ、マグリットエッシャー奈良美智…。コラボレーション企画として、淺井裕介の展示室いっぱいの大作が印象深い。

横浜美術館は何度も足を運んでいる。「ヨコハマトリエンナーレ」の会場でもあるし、コレクション展は毎年開催されている。ここ数年で特に印象に残っている展覧会・企画展と言えば…:

もう一つは横浜高島屋で開催の「横山大観 画業と暮らしと交流」展。上野池之端にあった横山大観の自宅兼画室、およびその庭園は、横山大観記念館として、大観が遺した作品や所蔵するコレクションの一部を公開している。この展覧会では、その作品や書簡、下絵、画具などを展示し、そこから大観の画業や暮らし、多くの文化人たちとの交流を蘇らせる。

yokohama.art.museum

taikan.tokyo

恒例の人間ドック、今年は「みんなで筋肉体操」をして臨んでみたが…

毎年数値が悪化していくのが悲しい人間ドック。今年も受けてきた。今回は鼻からの胃カメラに加えて、肺CT、PSA、CA19-9CEA マーカーをチェック。腎機能の低下、悪玉コレステロール脂肪肝、石灰化、尿酸値などなど、要経過観察の項目はあるものの、幸い、再検査すべきところは見つからず。

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結論としては、

の2点を実施して、経過観察ということになる。

超音波診断で左腎臓内に 4mm 程度の石灰化、結石の兆候が見られる。また例年尿酸値が基準値以上(痛風一歩手前)。これらに対応するには、腎臓に負担をかけないためにも、1日 2リットルの水分摂取ということになるのだが、この量を毎日摂取するのはなかなか難しい。

正月休みに増加した体重を、2月から家の中でできる「みんなで筋肉体操」を始めて、3ヶ月で何とか目標近くまで持ってきた。基礎代謝は増えたかもしれない。腹回りも 80cm と減っている。しかしながら、CT 映像を見ると、皮下脂肪は少ないのに比べて、内臓脂肪の量が多い。つまり筋トレではなく、有酸素運動による脂肪燃焼が必要とされる。

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有酸素運動も、一駅歩くとか、階段を一段飛ばしで上るとかのレベルではなく、もっとやる必要がありそうだ。どこかで紹介されていた「スクワットしてから 15分歩く」というのをやってみるかなぁ?そういえば、友人たちは一斉にスポーツクラブに通ったり、パーソナル・トレーナーについたりし始めている。うちから歩いて5分のところにスポーツクラブがあり、知人もそこに通い始めた。ベンチプレスなどのマシンを使って筋肉を鍛え、またランニングマシンによる有酸素運動を行っているそうだ。一方、僕自身はあまり運動が好きではないので、スポーツクラブはハードルが高い。走ると足を痛めるし、水泳は疲れるし。

医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本

医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本

鼻からの胃カメラは、鼻に麻酔を入れてからの待ち時間が少なくなっていた。今までは10分ほどかけていたのが、今回は 1-2分。薬を入れてから、わりあいすぐに検査に入った。一番狭い鼻の穴を通る時がちょっときつい。胃の中に血の跡のような傷があったので、「先生、それ何ですか?」と聞いてみたら、何かで傷ついた跡で問題ないとのこと。経鼻内視鏡は、モニターを見ながら先生に質問できる。

受付が始まるまで、検査と検査の間、食事が始まるまで、医師面談が始まるまで、と何度かにわたって待たされる時間は、持参した本を読む。今回、人間ドックの雑誌棚に『脳トレ』本があり、これは時間が経つのも忘れるので、なかなかよかった。数独やニコリのパズルを持ち込むのもいいかもしれない。あぁ、でも難解な数独は鉛筆と消しゴムが必要だからダメですね。二コリの『エニグマ』のようなひらめき系パズルがよさそうだ。ちょうど僕が人間ドックを受診するころに出版されるようだし。

ニコリのエニグマ――直感で解くパズルの本

ニコリのエニグマ――直感で解くパズルの本

ニコリのエニグマ 2――直感で解くパズルの本

ニコリのエニグマ 2――直感で解くパズルの本

ニコリのエニグマ 3――直感で解くパズルの本

ニコリのエニグマ 3――直感で解くパズルの本

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