小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトリーダ、JAXA の川口淳一郎教授の講演を聴く機会があった。サンプルリターンの科学的・技術的意義に始まり、「はやぶさ」プロジェクトの計画から運用における随所での臨機応変の対応が紹介された。
小惑星サンプルリターンは、「NASA さえもためらうようなハイリスク・ハイリターンのプロジェクト」であったこと、それを NASA に初期のアイディアを持っていかれたことをきっかけに、半ば破れかぶれ、ロクな計算もなしにはったりで構想を打ち出したというのが印象的だ。
結果として世界初、日本が誇れる成果を残せたのは「技術あっての根性(意地と忍耐)」があったからだと言う。チーム全員が「地球に帰ってくることがゴールだ」という強い共通認識を持っており、次々とふりかかる危機に技術者として全力を尽くした。
これからはサンプルリターンを成功させることができた「運を真の実力に活動の必要性」が重要である。「はやぶさ」で培った技術をしっかり定着させて、次のプロジェクトに活かしていかなければならない。
そして今後日本が取り組むべきは画一的な教育ではなく、「Inspiration for Innovation」。そのためには個性的・独創的な人材を育成していくことが大切であり、それにはネガティブな面を強調するのではなくポジティブなことを積み重ねていく、現状の不安を抱え込むのではなく将来の展望を見渡していく、そういう考え方が必要であると説く。
講演の最後を「高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない。」ということばで締めくくられた。まさに未踏の領域に達した川口先生ならではの重みのあることばである。
時折ユーモアを交えながらの1時間半の講演はあっという間であった。人間を宇宙空間に送り込むことの技術的な可能性と意義などが質疑応答で聞かれたが、非常に洞察に富む答え方をされていた。そして「はやぶさ救出のために、専門を問わずアイディアを募ってブレストを行い、やるべきことはすべてやった。」と自信を持って言い切られた。そういった力強いことばを通して、粘り強い技術者魂と誇りを持った方であることが肌で感じられた講演会であった。
小惑星探査機「はやぶさ」関連のエントリ
- 2010.7.3:『はやぶさ --- 不死身の探査機と宇宙研の物語』
- 2010.10.10:小惑星探査機「はやぶさ」を知る
- 2010.12.17:涙なしに読むことができない『はやぶさ、そうまでして君は --- 生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話』
- 2010.12.24:小惑星探査機「はやぶさ」を知る DVD
- 2011.1.19:「はやぶさ」本の決定版:川口淳一郎『小惑星探査機はやぶさ --- 「玉手箱」は開かれた』
- 2011.2.15:「はやぶさ」プロジェクトリーダ、川口淳一郎教授の講演を聴く
- 2011.2.16:減点法に毒されている自分に気づく:川口淳一郎『「はやぶさ」式思考法』

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