2012年7月4日、新しい素粒子がほぼ発見されたと CERN(欧州原子核研究機構) から発表があった。素粒子に質量を与えるヒッグス粒子の発見だが、もう少しデータの解析に時間がかかるらしい。それにしても何をもって新しい素粒子を「発見」したと言えるのだろう?それがヒッグス粒子だったとして、その発見は物理学的にどういう意味があるのだろう?残念ながら理解するには程遠い世界だが、以下の本を読むことで、その謎の世界に少しだけ迫った気になることができる。
- 作者: 浅井祥仁
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2012/09/03
- メディア: 新書
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CERN の加速器 LHC(Large Hadron Collider、大型陽子衝突型加速器) がどうやって素粒子の挙動を検出しているのか。なぜヒッグス粒子を発見したと言えるのか。なぜその検証に時間がかかるのか。実際に CERN の ATLAS プロジェクト(ヒッグス粒子探査では CMS と ATLAS という二つの検出器があり、競争を繰り広げている)に参加している実験物理学者による解説書である。もともと一般向けの講演がベースになっている本で、図も豊富、比喩も使って説明してくれる。
この本を読んで、新素粒子の「発見」の定義がわかった。LHC で光速近くまで加速した陽子どうしをぶつけることで出てくる無数の現象の中、ヒッグス粒子が存在したと考えられる光の軌跡・信号を検出する。それがヒッグス粒子の質量のところに分布するかどうか。他の既知の現象からのふらつきでない確率と言えるかどうか。1,100兆回に及ぶ衝突の大量データを解析して、そのふらつきが 5σ(σは標準偏差)のレベル(100万分の1以下)になって初めて「発見」とされるとのこと。つまり 99.9999% の確率になった時が発見であり、7月4日の発表では ATLAS、CMS どちらの検出器でも 5σ のレベルに到達したとされている。
- 作者: 竹内薫
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2012/08/23
- メディア: 新書
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浅井先生の『ヒッグス粒子の謎』の理解をさらに深めるべく読む。臨場感は浅井先生の本だが、わかり易さはこの本に軍配が上がる。研究者が当たり前と思っていることの中に、素人が引っかかるポイントがたくさんあることを、竹内薫氏がわかっているからだろう。
- 作者: 中嶋彰,KEK(高エネルギー加速器研究機構)
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/06/21
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2012年7月4日の日経夕刊で竹内薫氏が「コンパクトだが、これ一冊で素粒子物理学の全てがわかる良書」と評している。素人向けに素粒子と、それをめぐる科学者たちの軌跡を描く。そこではヒッグス粒子を探す CERN の LHC の活躍、さらには標準模型を超えて超対称性理論と、暗黒物質の有力候補とされるニュートラリーノやアクシオンが紹介される。南部陽一郎博士が「予言者」と言われた所以もわかる。
- 作者: アミール・D アクゼル,Amir D. Aczel,水谷淳
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/04/21
- メディア: 単行本
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CERN という組織と、LHC 加速器。健全な競争を繰り広げるチームをサイエンスライターが描く。
LHC による検出・発見という話はまだ想像がついてわかった気になるのだが、ヒッグス場からヒッグス粒子を取り出す話、ヒッグス場が他の素粒子に質量を与える話などは難しくてよくわからない(素粒子と場の関係についてはこちら)。量子論・素粒子論そのものの持つ難しさもあるし、tangible でない世界のため、一般人の想像力を超えてしまっているからかもしれない。そんな intangible な世界を先端の数学を駆使してモデル化し、それを単純なものにするためには新たな概念(素粒子)を予測、それを実験で検証して発見する…。われわれの想像をはるかに超えたところで思考している現代物理学者たちの頭脳を改めて凄いなぁと感じる。
ヒッグス粒子の発見により、素粒子物理学の「標準モデル」「標準模型」が実証されたことになる。その理論を非専門家に向けて数式を使わずに解説する本として紹介されるのが以下の本。リー群やゲージ理論の一端に少し迫れるかもしれない。数式を使っていないとは言え、もともと難しい概念を解説するとあって、かなり歯ごたえがありそう。いつか読んでみたい本の一つである。
- 作者: ブルース・シューム,森弘之
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/09/10
- メディア: 単行本
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