Muranaga's View

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分子生物学・生命科学入門

昨年読んだ分子生物学の本の中で最も面白かったのは、『生物と無生物のあいだ』 である。「生物とは何か?」この本質的な問いに答えるべく、一人の分子生物学者が自身の研究を通してたどり着いたものは?科学のありようを美しい文章でつづったこの本がベストセラーになったのは至極当然なのかもしれない。

理系に進んだとは言え、受験科目として「生物」を選択しなかったために(カタカナの物質の名前を覚えるのが苦手だったのだ)、僕にはその基本的な知識がない。そういう理工系の学生向けの分子生物学生命科学の教科書の一つが、東大の先生たちが書いた 『生命科学』 であるわけだが、残念ながら僕には難しくとっつきにくかった。細胞レベルで起こっている世界には、やはり見慣れないカタカナの名前の物質が多く、なかなか頭に入ってこないというのが正直なところだ。

最近になって同じ著者グループの手による 『文系のための生命科学』という教科書が出版された。こちらは人間や社会との関わりに重点を置いて生命科学が記述されており、(したがってカタカナも少なくて)よりわかり易い本となっている。脳、老化、健康、病気、感染といった身近なテーマが、生命科学の視点からどのように見えるか概観できる。

ただ残念なことに、この二つの『生命科学』の教科書には、文献リストがついていない。より深く知りたいと思ったテーマについて、さらに本を読みたいと思ってもそのガイドがない。教科書であるならば次に読むべき本のリストを提示して欲しいと思う。

文系の大学生向けの講義録として読み易いのが、『生命科学』の著者の一人でもある石浦教授による『遺伝子が明かす脳と心のからくり』『生命に仕組まれた遺伝子のいたずら』 の2冊。記憶力ややる気を高める遺伝子、病気と遺伝子との関係、性差による脳の違い、はては血液型B型の分布と元寇の関係など、遺伝を中心とした生命科学にまつわる興味深い話が語られている。