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佐藤勝彦『相対性理論から100年でわかったこと』は、一人の宇宙物理学者の思いを率直に語っている

インフレーション宇宙を提唱した宇宙物理学の重鎮による、非常にわかりやすい現代物理学へのガイドブック。これから物理学を勉強する人に向けて現代物理学をコンパクトに概観する。つまり、相対論・量子論をベースに、最新の素粒子論・宇宙論を案内する。理論の概要を紹介するだけではなく、物理学者の考え方・思いが率直に述べられており、数ある類書とは一味違う。

たとえば以下のような思いを明確に語っている:

  • 物質波の収縮という概念が持ち込まれているコペンハーゲン解釈よりも、波は広がったまま世界が枝分かれするという多世界解釈に好意を持っている。
  • 量子重力理論で脳を語ろうとするペンローズの考え方は奇抜過ぎて賛成しかねる。
  • 相対論と量子論の合体が物理学者たちの悲願である。どちらが書き換えられるか?あくまで直観的だが二者択一するのなら量子論の方が書き換えられると考えたい。
  • なぜなら場の量子論で持ち込まれる「第二量子化」(電子を量子化して「電子波」とし、「電子場」の振動が伝わるものとみなす。さらにこの電子場をもう一回量子化することで、場の量子論における「粒子としての電子」が現れる。)がなんとなく人為的な操作に見え、不満が残るからである。
  • 素粒子物理出身の人たちが中心になって盛り上がっているブレーン宇宙論は何でもありで、昔から宇宙論を研究してきた者から見ると、他の分野に影響を及ぼす何かが生まれていない、いわばオタク的な盛り上がりになっているのではないか。
  • 宇宙論が抱える問題に対して人間原理を安易に適用することは物理学の放棄だと思う。まだ自然の理を探求する道を諦めてはいけない。

最後の読書案内で、現代物理学を真に理解するには、一般教養書ではなく下記のような教科書にチャレンジして欲しいと述べている。

相対性理論 (岩波基礎物理シリーズ (9))

相対性理論 (岩波基礎物理シリーズ (9))

量子力学 (岩波基礎物理シリーズ (5))

量子力学 (岩波基礎物理シリーズ (5))

宇宙論〈2〉―宇宙の進化 (シリーズ現代の天文学)

宇宙論〈2〉―宇宙の進化 (シリーズ現代の天文学)

残念ながら数学ができない僕に、上記のような教科書は読めない。一般教養書・科学啓蒙書で理解した気分になるのが関の山である。相対性理論量子論に始まり、素粒子論・最新のブレーン宇宙論を一気に解説する本として、リサ・ランドール『ワープする宇宙 --- 5次元時空の謎を解く』が勧められている。これは個人的には何年も積ん読になっていた本である:

ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く

ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く

そして、忘れてはならない南部陽一郎の名著『クォーク --- 素粒子物理はどこまで進んできたか』。素粒子物理学の歴史、標準理論・大統一理論の概要をていねいに紹介している本として紹介されている:

クォーク 第2版 (ブルーバックス)

クォーク 第2版 (ブルーバックス)

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