1ヶ月ほど迷った末に、とうとう Kindle (Global Wireless) を買ってしまった。しかも革製のブックカバー付きである。11月2日に Amazon.com で注文、何とその2日後には米国から届いた。既にぼくの名前でセットアップされていた。
E ink 社の電子ペーパーの白黒画面が美しく、文書がとても読み易い。「読みたくなったら 60秒で本を買える」という基本コンセプトに絞り込んだ設計になっており、今まで Amazon.com を使っていた人ならば、あまり難しい設定をしなくても本が買えるようになっている。ワイヤレスでの常時接続、通信料無料が Kindle の最も重要なポイントである。読書という目的を追求した設計であり、IT やガジェットに不慣れなシニア層もユーザとして取り込めているようである。
一方、iPhone に使い慣れたユーザから見ると、もう少し機器として改良されてもいいんじゃないかと思うところはある。たとえば Kindle は手元のボタンでメニューを選択する一昔前のインタフェースになっているが、ついスクリーンにタッチしてページをめくろうとしてしまう。タッチスクリーンの方が直感的な操作だからだろう。また性能面でも、もっときびきびした動作や、もう少し速い通信速度を求めたい。
以前、梅田望夫さんに Kindle DX を見せてもらったことがある。梅田さんならでは卓見だと思ったのは「本当に読む時になってから、買えばよいことに気づいた。」と言われた時である。なるほど。紙の本は手に入りにくくなることもあるから、当面読まなくても興味がある本はすぐに買ってしまうが、Kindle だとそうする必要はない。本当に読みたくなる時まで待って、その時に買えばよいのだ。「積読」という概念が、電子書籍では存在しなくなる。Amazon が実質、自分の読みたい本の本棚になってしまうからである。
Amazon にしてみれば在庫という概念をなくすために Kindle のような電子書籍を始めたのだと思うが、読者からすると、いつでも入手できる安心感が生まれた。したがって紙の本に比べると、電子書籍は購買量が抑えられる側面があるかもしれない。もしかしたら Kindle のような電子書籍には、「売り切れ」や「期間限定販売」といったプロモーションが必要になる時代が来るのかもしれない。
Amazon という膨大な本棚への入り口を手にした今、書き込みをするような本は別として、ペーパーバック系の洋書、小説などは、すべて Kindle でもいいかな、と思う。しかし肝腎の Kindle 対応の本の品揃えが、米国に比べると少ないようだ。たとえば "SuperFreakonomics"(『ヤバい経済学』の続編)や "Googled: The End of the World As We Know It" の Kindle 版は日本では買えない。また Wall Street Journal も購読できない。このようにわりと話題性の高い新著の Kindle 版が買えないのは残念である。日本で翻訳が進行している関係からだろうか?
ちなみにぼくが最初に買った記念すべき Kindle の電子書籍第1号は、自分でもどうかと思うが、"The Hacker's Dicionary" であった。そして "The Cathedral and the Bazaar"。さらに "The Numbers Behind NUMB3RS: Solving Crime with Mathematics"。つまり、山形浩生の『訳者解説』で紹介された本(『伽藍とバザール』、『数学で犯罪を解決する』)の原著なのであった。
さて、Kindle for PC がダウンロードできるようになったので、Kindle 端末がなくても、PC 上で Kindle 対応の電子書籍を読むことができるようになった。
また米国の iTunes Store から Kindle for iPhone を入手すれば、通勤電車内ではこちらを使う方が便利である。Kindle は家での読書用、通勤電車では Kindle for iPhone という使い分けになる。Whispersync という技術により、Kindle、Kindle for iPhone、Kindle for PC 上で、どこまで読んだかというマークや下線、書き込みが共有・同期される。ただし Kindle で購読中の新聞や雑誌を iPhone で読むことはできない。
Kindle 対応の電子書籍の品揃えが米国並みになってくれば、洋書は Kindle で読むことになりそうだ。それだけの利便性が、Kindle には感じられる。日本の出版社も早く電子書籍化を進めて欲しいものである。「いつでも買える」という安心感と共に、文庫や新書の本棚が部屋からなくなるだけでも、圧迫感が緩和されて心にゆとりが生まれ、さらに豊かな読書生活が送れそうな気がする。
Kindle ノウハウ・リンク集
Kindle ノウハウへのリンクを以下に挙げる。ただし at your own risk で。
- Kindle for iPhone の入手方法:「日本に居たままAmazon KindleをiPhoneから利用する方法」
- 日本では買えない Kindle 本の入手方法:「USのクレジットカードなしで『Kindle』の電子書籍を買う方法」
Kindle に関するエントリ
- 2009.2.18:「Amazon の Kindle は出版・新聞・雑誌業界の iPhone/iPod となるか?」
- 2009.2.19:「電子ブックは Kindle を待つまでもない、iPod touch で十分行ける」
- 2009.3.7:「iPhone と iPod touch 向けに Kindle アプリケーションが出た」
- 2009.10.7:「Kindle 国際版発売で、ぼくの英文読書生活は変わるか」
- 2009.11.14:「わが家に Kindle がやって来た」