Muranaga's View

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今さらながら、エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)を学んでいる

諸般の事情から、エンタープライズアーキテクチャ(Enterprise Architecture, EA)を、今さらながら学んでいる。10数年前、2000年代中頃に流行った IT 戦略策定のフレームワークである。

もともと僕は、ERP のような企業内の基幹系情報システムよりも、Web やデジタルマーケティングなどの事業側、フロントエンドのデジタル・ITの世界にいた人間なので、EA という言葉は知っていたが、中身を勉強したことはなかったのだ。

EA という言葉はなんだか久しぶりに聞いた気がする。そもそも EA は、今の IT 業界ではどのように位置づけられているのだろう?過去の遺物みたいな扱いなのだろうか?米国 Gartner による「デジタル時代に改めて脚光浴びる EA」という 2017年11月の記事があるが、そこでは「2010年ごろに欧米でも、EA は瀕死状態に」なったとある。「EAの関心事が IT アーキテクチャだけになってしまった」「2000年代後半にはクラウドコンピューティングやモバイルデバイスなどが登場し、IT部門にすればEAよりも、これらの新しいITに取り組む必要」があったのが、EA がいったん死んだ理由であると言う。

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しかしデジタルの進歩により、ビジネスとテクノロジーがより緊密になっており、もう一度、EA が見直されているというのである。ITアーキテクチャだけの EA は終わったが、事業戦略とテクノロジーを結びつけるビジネス・アーキテクチャをしっかり考えるために、顧客志向・ビジネス駆動の EA が必要とされているとのこと。なるほど。

EA について簡単に復習すると、4層に分けて業務をモデリングする考え方。その4層とは

  1. ビジネス・アーキテクチャ(BA)
  2. データ・アーキテクチャ(DA)
  3. アプリケーション・アーキテクチャ(AA)
  4. テクノロジーアーキテクチャ(TA)

であり、この視点から As-Is を可視化・分析、将来の To-Be の姿を描き出し、そこへの移行計画を作成していく。「業務と情報システム全体の見取り図のようなもの」(前出 Gartner 記事)である。

企業のIT戦略を考えるうえで、この4つの視点から整理していくのは分かり易い。ただし、それを徹底的にやるのはしんどそうだし、ビジネスモデルの変化に柔軟に対応できるかが鍵になりそうだ。もともと経産省エバンジェリストとなっていた時期もあるが、官公庁のように業務が大きく変わらないのなら、しっかりアーキテクチャを設計するのもいいだろう。しかし事業変化に対応しなければならない企業の場合、一度アーキテクチャを固めたとしても、ビジネス・業務はどんどん変わっていく。それに柔軟に対応できるようなアーキテクチャは可能なのか。

EA を学ぶにあたって、最初に手にとった入門書は、出版年月が新しい順に、次の 3冊である:

AI時代のエンタープライズ・アーキテクチャ

AI時代のエンタープライズ・アーキテクチャ

『AI時代のエンタープライズアーキテクチャ』(NTTテクノクロス著)は、2017年4月刊行で、EA を今の視点で語っている。「AI時代の」と謳っているが「クラウド時代の」EA を解説した本である。3部構成になっており、第1部、第2部で AI の応用と実践例としての、第3部でクラウド時代の EA を説明する。著者は元 NTTソフトウェア、現 NTT テクノクロス。その次に挙げた『よくわかる最新エンタープライズアーキテクチャの基本と仕組み』(NTTソフトウェア著)の続編と言ってもよいかもしれない。

3番目に挙げた『かんたん!エンタープライズアーキテクチャ』は、UML (Unified Modeling Language) を使った業務・情報システムの最適化を謳っている。BA・DA・AA・TA、それぞれのアーキテクチャ設計でのアウトプットが例示されているので、EA 設計の仕事の中身をイメージしやすい。現行EA、将来EA の作成、現行から将来への移行計画の作成、RFP への活用、EA の運用・保守、社内標準作成など、EA 設計の流れの順番に従って解説されている。

より詳しく学ぶには『企業情報システムアーキテクチャ』という本があり、上記『AI時代のエンタープライズアーキテクチャ』からも、ところどころ参照されている:

企業情報システムアーキテクチャ

企業情報システムアーキテクチャ

この本では、企業レベルの情報システムのアーキテクチャを、俯瞰的・包括的に「広く浅く」論じている。情報系の大学・大学院の講義レベルであり、CIO となったら身につけるべきビジネス・アプリケーション設計・構築の基礎知識を復習することができる。ER (Entity - Relation) を使ったデータモデリング(概念、論理、物理)、アプリケーション分割(プレゼンテーション層、ビジネスロジック層、データベース層)、モジュール間連携、可用性や性能・セキュリティなどの非機能要件、運用管理、移行計画など、情報システム設計のポイントを解説している。残念ながら 2009年の本なので、技術的には少し古びたところがある。WebサービスSOASaaS について入門的な説明はあるものの、クラウドコンピューティング時代に必要となる IT アーキテクトとしての知識は、別途詳しく学ぶ必要がある。

余談だが、EA の中の BA を扱う時に、「ビジネスモデリング」という言葉をよく見かける。この言葉が、事業経営で使う「ビジネスモデル」とは異なるニュアンスで使われているのを理解するのに、少し時間がかかった。経営とか事業に携わっていると、「ビジネスモデル」と言えば、「収益モデルを含めたビジネス・事業の仕組み」ととらえるのが一般的である。「ビジネスモデル」を創出する・変革する、というと、たとえば「ビジネスモデル・キャンバス」のような俯瞰図を使って、議論することが多い。

ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

一方、EA の世界での「ビジネスモデリング」とは、業務の流れを UML (Unified Modeling Language) や BPMN (Business Process Modeling Notation) などのような言語を使ってモデル化することを意味する。つまり「ビジネス=事業」のモデリングではなく、「ビジネス=業務=ワーク」のモデリングということになる。下記の著書のタイトルにあるような「ビジネスモデル設計」という言葉も、業務のモデル化・ワークフローの設計を指すのであり、新しい事業モデルを構築することを指すのではない。ビジネスという言葉の多義性が生む、ちょっとした誤解ポイントのような気がする。(こんなところに引っかかるのは、僕だけかもしれないが。)

www.bpm-portal.jp