Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

『いちばんやさしい美術鑑賞』はアマチュアならではの視点がわかりやすい

年間300もの展覧会を観て、「青い日記帳」を毎日書くカリスマ・ブロガー Tak さんこと、中村剛士さんによる美術鑑賞の入門書が『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)である。玄人はだしでありながら、アマチュアならではの鑑賞ガイドがわかり易い。時代の流れに沿って、西洋美術と日本美術、工芸品を取り上げている。彼のように、セザンヌピカソを面白いと思える境地に、いつかは達してみたいものである。

いちばんやさしい美術鑑賞 (ちくま新書)

いちばんやさしい美術鑑賞 (ちくま新書)

自分の参考になりそうな、美術鑑賞のポイントをピックアップしておく。

西洋美術

  • バロック絵画におけるドラマティックな陰影表現
  • 作家の技量は「手」を見るとわかる
  • 謎の多いフェルメールの魅力、その贋作や盗難の来歴
  • 風景画を明るく仕上げたモネの普遍的な人気
  • 離れて全体を味わったら、近づいて筆致(タッチ)や筆さばき(ストローク)を見る。モネは絵具を混ぜ合わせず原色を画面に置く色彩分割と言う技法を用いた
  • チューブ入りの絵具が開発されて、戸外での制作が可能に。変わりゆく自然の光を画面上に追い求めた
  • 絵画のパラダイムシフトを起こした「近代絵画の父」セザンヌ。写真の発達により、形態ではなく、光を絵画の画面に表現することを選んだ
  • 自然や建物、静物を分解し、作品の構図のために再構成、多視点を取り入れた
  • 消失点のない遠近法、補色を活用した色彩表現
  • 45度の角度で勢いよく重ねられた絵具による躍動感、塗り残し
  • 絵画を読み解く面白さがセザンヌにある
  • そのセザンヌに決定的な影響を受けたのがピカソ。絵画から「リアルであること」を取り払い「理論」で構成したセザンヌピカソは、多視点を一つの作品に取り入れたり、単純な図形の組み合わせとして描いたりする方法を実践している。
  • 綿密な理論で構成された20世紀絵画は、解釈する幅を広げた。やはり作品をひたすら「観る」、そしてさまざまなことを想像する、それしかない。苦手な作家、嫌いな作品を遠ざけない。いずれ訪れる理解の機会や幅を狭めることになる。
  • 何でもありの現代アート。それは「デュシャンのせい」だ。答えの用意されていない問いについて、考えることが現代美術の面白さ。「観る」から「考える」「解釈する」に変わった。
  • 既製品を作品としてしまうデュシャンの「レディ・メイド」。デュシャン自身が手がけてなくても、デュシャンが「選んだ」ものはその作品となる。
  • デュシャンは30代半ばで芸術の道をやめ、チェスプレイヤーへ。

日本美術

  • 雪舟は中国本国(明)に渡り、本場で水墨画を学んだ。
  • 墨の濃淡だけで描かれた水墨画。注目すべきは線。描き直しの効かない一発勝負の世界。対角線の構図。
  • 狩野永徳安土城大坂城聚楽第などの障壁画を焼失し、10作品しか残っていない。47歳で早逝。
  • 屏風は蝋燭の光の中で見ていた。金箔の地は燭台の火の反射させ、金屏風を浮かび上がらせる。
  • 屏風の1枚のパネルは「扇」といい、単位は「曲」。屏風を数える単位は「隻」。二隻一組になっている屏風を数える単位が「双」。たとえば尾形光琳の「燕子花図屏風」は左右それぞれ六曲の扇が二組になっているので「六曲一双」。
  • 琳派は時空を超えた私淑によって成立している。その特徴は洗練されたデザインと鮮やかな色彩による装飾性。
  • 超緻密な伊藤若冲の「動植綵絵」。とことん楽しみたいのであれば『若冲原寸美術館 100% Jakuchu!』に尽きる。

若冲原寸美術館 100%Jakuchu! (100% ART MUSEUM)

若冲原寸美術館 100%Jakuchu! (100% ART MUSEUM)

  • 神が細部に宿っているような絵は、トリミングしても鑑賞に耐える。
  • まだ珍しいプルシアンブルーが使われ、裏彩色という技法を使っている。
  • 信心深い若冲は京都・相国寺に「動植綵絵」を寄進。廃仏毀釈の荒波の中、皇室御物となり三の丸尚蔵館に所蔵されている。
  • 完全な形で残っている「曜変天目」は世界に三つしかなく、しかも3点とも国内にあり、国宝指定を受けている。静嘉堂文庫美術館藤田美術館大徳寺龍光院
  • 茶碗は、上から下へ、口縁→胴→腰→高台と観ていく。そして見込みと呼ばれる内側。
  • 曜変天目福建省建窯で焼かれ、鎌倉時代から室町時代に日本に伝えられた。
  • 明治工芸の超絶技巧を代表するのが並河靖之の七宝焼き。細部までリアルに花鳥、蝶を表現。全体の美しさを味わった後、単眼鏡でモチーフに目をやると、肉眼では判別不可能な細かな意匠が散りばめられている。
  • 柴田是真の漆、正阿弥勝義の金工、海野勝珉の彫金、安東緑山の牙彫なども素晴らしい。
  • 女性という弱い立場で美人画を描き続けた上村松園は、日本画の一発勝負の線の緊張感と魅力を認識していた。何よりもこだわったのは眉の表現。
  • いかに省くかと言う引き算、極力少ない線を引くのが日本画の魅力。さらに高価な岩絵具、溶き方・塗り方によって発色がまるで違う。
  • 同時代のアーティストとして、美人日本画の池永康晟を推す。現代のアーティストはオールドマスターとは付き合い方が違う。

Tak さんのブログ「青い日記帳」、そして Tak さんへのインタビュー記事は以下の通り:

bluediary2.jugem.jp

blog.imalive7799.com

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