Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

スマート・グリッド構想に垣間見えるガラパゴスへの道

スマート・グリッド(smart grid)の解説として以下の二つの記事を読んだ。どちらの記事も非常によくまとまっている:

太陽光・風力などクリーン・エネルギーに取り組んだとしても、送電・配電網が古いままであれば意味をなさない。センサーと遠隔制御を導入、電力の供給側・需要側で双方向に情報をやりとりすることによって、効率的でかつグリーンなエネルギーの配信を実現するのが、スマート・グリッドである。インターネットがコンピューティングに革新を起こしたように、スマート・グリッドはエネルギー分野での革新と期待され、"an internet for energy" とまで称されている。そこに Google をはじめとする(Google PowerMeter)IT 企業がこぞって参入してきている。その第一歩がスマート・メーター(smart meter)の導入である。


Building the smart grid

この The Economist の図(クリックすると原文に飛ぶ)にまとめられているように、スマート・グリッドでは次のようなことが可能となる:

  1. スマート・メーターにより、電力消費者に現在の電力利用量とコストがわかる。
  2. スマート・メーターと連動する家電(エアコン、洗濯機など)を電力需要が高い時には OFF して、低い時に ON することが可能となる。
  3. 太陽光、風力など広域に分散していて、かつ断続的なエネルギーを、配電網に組み込むことが容易になる。また家庭で余った電力を返すことも可能になる。
  4. スマートグリッドにより多くの電気自動車の充電を調整することができる。

エネルギーを「ビット化」する(「情報化」する)ことによって可能となる世界、まさにデジタル・ビジネスデザインである。

共通に認識されている課題は、スマート・グリッドに関するオープンな標準化である。インターネットがオープン・スタンダードな技術で発達してきたように、スマート・グリッドにもそれが求められる。スマート・グリッド上の情報・制御のやりとりや、スマート・メーターと連動する家電の相互運用可能性が求められる。こういう課題が解決されると、全世界のエネルギー利用効率を上げ、グリーン技術利用を促進するプラットフォームが生まれる。

・・・と、ここまでが米国を中心とする事情。日本では若干趣きが異なってくる。なぜならば、電力が自由化されておらず、スマート・メーターも電力会社のものだからである。しかも米国よりも品質の高い送電・配電網が確立されており、優れた要素技術により、電力需要の変化に耐えられるグリッドが既に出来上がっている。インターネットのようなベスト・エフォート通信を、一瞬の停電も許されないグリッドの制御に応用することにも抵抗感があるだろう。「日本にスマート・グリッドは不要」と言われる理由である。

この構造は、携帯電話の歴史とよく似ている。日本で求められる品質の高い通信網と高機能端末を、通信キャリアが整備した(端末メーカーは通信キャリアが決める仕様通りに端末を開発した)。日本の中で、独自の仕様と機能を追求していった結果、携帯電話はグローバル標準と離れた進化を遂げ、「ガラパゴス」と呼ばれるようになった。高性能な端末を作れるにもかかわらず、日本の端末メーカーは国際的な競争力を失っている。

この通信キャリアを、電力会社に置き換えて考えてみると、同じことがスマート・グリッドでも起こり得ることが容易に予想される。グローバルに自由競争が行われる中で、技術の標準化がなされ、相互に運用可能なスマート・グリッドが構築される。そしてそれをグリーン・エネルギーと連動させていく。全世界がそう動く中、文字通り、ポツンと離れ小島のように、日本だけ独自の送電・配電網が動いている。日本の電力会社を重要な顧客と位置づける電機メーカーは、日本仕様のものを作るものの、世界進出の機会を失い、全世界から見るとグリッド関連の製品はほんのわずかのシェアを占めるだけになる。

そうした事態に陥らないためには、電機メーカーは既に持っている送配電の要素技術を、今のうちから海外でも展開して、スマート・グリッドに適用していく必要があるだろう。日本の市場だけを見て、日本の電力会社だけを顧客としていると、携帯電話と同じ歴史を繰り返すことになる。