Muranaga's View

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高田瑞穂『新釈 現代文』が復刻された

巷では『新々英文解釈研究』など、往年の大学受験の参考書が復刻しているらしい。リタイアしたシニア世代に向けて、ノスタルジーを誘ってのものだろう。何を隠そう、僕もそのマーケティングにひっかかり、ちくま学芸文庫として復刊された高田瑞穂『新釈 現代文』を買ってしまった。現代国語を得意科目の一つにしてくれたのが、この名参考書であった。何より薄い。理系志望の受験生が国語の準備に費やす時間を少なくするには、この薄さは魅力であった。しかも「たった一つのこと」を押さえることで、「肉でも野菜でも、鉛筆でも紙でも、何でも切ることの出来る丈夫なよく切れる一丁のナイフ」(「読者へのことば」より)を手にできるとあれば、飛びつかないわけにはいかない。

そしてそれは報われた。一つ一つ丁寧に問題を解き、その解説を読むことによって、以降、現代国語で失敗することはなくなった。むしろ、理系であるにもかかわらず、国語が得点源になった記憶がある。この本で説かれた「たった一つのこと」は筆者の論旨を忠実に追いかけることである。そして重要なのは、受験国語なのだからその論旨を外さないで解答することなのであった。

復刻した文庫版には石原千秋があとがきを寄せ、師である高田瑞穂の思い出を語ると共に、『新釈 現代文』の原点となった本の内容について解説している。石原千秋は受験国語をいくつかの著作(たとえば『秘伝 中学入試国語読解法』『秘伝 大学受験の国語力』)で整理する中で、国語教育は「学校空間」における道徳教育であると喝破している。そう、受験生は自分の考えを問われているのではなく、出題者が是とする価値観に基づいて答えなければならないのが入試国語なのである。『新釈 現代文』はそのことを教えてくれた、当時としては数少ない参考書だったのである。


新釈 現代文 (ちくま学芸文庫) 秘伝 中学入試国語読解法 (新潮選書) 秘伝 大学受験の国語力 (新潮選書)