Muranaga's View

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サントリー美術館の名品(ときどき、迷品)コレクションを楽しむ

ゴールデンウィーク最初の美術館巡りは、六本木方面。サントリー美術館から泉屋博古館東京、そして麻布台ヒルズまで足を延ばす。

「サントリー美術館コレクション展 名品ときたま迷品」が開催されている。展覧会の概要を Web サイトから引用する:

「メイヒン」と聞いてまず思い浮かべるのは、国宝や重要文化財に指定され、その芸術的な価値の高さを誰もが認めるような「名品」ではないでしょうか。しかし「メイヒン」とは、それだけにとどまりません。これまでほとんど注目されず、展覧会にもあまり出品されてこなかった、知られざる「迷品」の世界もまた、同時に広がっているのです。そしてたとえ「迷品」とされるようなものであっても、少し視点を変えるだけで、強く心を惹かれる可能性を秘めているかもしれません。そうした時、「名品」と「迷品」を分ける明確な基準はないといえるでしょう。

そこで本展では、「生活の中の美」を基本理念とするサントリー美術館コレクションの「メイヒン」たちを一堂に会し、さまざまな角度から多彩な魅力をご紹介します。作品にまつわる逸話や意外な一面を知れば、「迷品」が「名品」になることも、「名品」が「迷品」になることも——目の前にある作品がどちらであるのか、それを決めるのは「あなた次第」。自分だけの「メイヒン」をぜひ探してみてください。

漆工、絵画、陶磁、染織と装身具、茶の湯の美、ガラスの 6つの章から構成される。いくつか写真に収めたので、説明文とともに紹介する:

鞠・鞠挟(江戸時代)

蹴鞠は鹿皮製、鞠挟の架台は黒漆塗に蒔絵で渦巻きと上がり藤の紋を散らしている。

国宝 浮線綾螺鈿蒔絵手箱(鎌倉時代 13世紀)

蓋や胴の張りが強く表された量感のある手箱。表面は金粉を密に巻いた地とし、螺鈿による遠景の浮線綾文を等間隔に配す。北条政子が愛蔵した手箱の一つと言われている。

重要文化財 泰西(たいせい)王侯騎馬図屏風(桃山時代 17世紀)

初期洋画風の名品。オランダ・アムステルダムで刊行された世界地図の、周囲に描かれた図を拡大して彩色を施し、大画面へと仕上げられた。描かれているのは右よりペルシア王、エチオピア王、フランス王アンリ4世とされる。左端の人物はイギリス王など諸説ある。

おようのあま絵巻 上巻(室町時代 16世紀)

一人貧しく暮らす老法師の草庵に日用品を商う「御用の尼」という老女が訪れ、身の回りの世話をする若い情勢を紹介しようと言う。しかし結局は自分が老法師の妻になると言う悲喜劇。絵は建物の遠近法が無視され、すべてがアンバランス。このいびつさによって物語に滑稽味が増している。

重要文化財 染付松樹文三脚(みつあし)大皿(有田・鍋島藩窯 江戸時代)

鍋島とは佐賀藩の藩窯「鍋島藩窯」で焼かれた日本最高級の磁器で、主に徳川将軍家への献上品とされた。本作は盛期鍋島の染付尺皿で、見込には縁に沿って屈曲する松樹が巧みに図案化されている。外側面に木蓮の折枝文が丁寧に描かれ、蛇目高台の三方には葉形の脚が付く。

重要文化財 色絵花鳥文八角大壺(有田 江戸時代)

胴の四方に窓を設け、2羽の鳥が遊ぶ梅の樹と、池に枝を伸ばす桃の樹といった中国風の図様を交互に配す。黒の細線と赤・黄・緑・紫と金彩で描き出した本作は、ヨーロッパ輸出用の古伊万里金蘭手大壺のうちでも早い時期の作で、最上手の色絵を施した名品である。金蘭手(きんらんで)とは、藍色の染付を下地として、その上に色絵具で文様を描き、金彩を焼き付けたもの。しかし本作は染付が全く使われていないというものになる。

色絵梅枝垂桜文徳利(古清水 江戸時代 18世紀)

細くなめらかに伸びた頸に青い梅花文が散らされ、緑釉の下部も花形に演出されている。また貫入と呼ばれるひび模様が入る卵色の胴には、青と緑で枝垂桜が描かれる。現在、古清水(こきよみず)と呼ばれる初期京焼の一つ、御菩薩(みぞら)焼の作例である。

色絵桜文透鉢(すかしばち)(古清水 江戸時代 18世紀)

胴は円筒形で六角形の鍔縁(つばぶち)を付ける。見込に桜の枝を配し、花と枝は青、葉は緑の絵具を用いて柔らかな筆致で描く。鍔縁上面の角に桜花を配し、その間に緑の唐草を描く。側面には木瓜文(もっこうもん)を透かし、同外面の透かしの間に花菱文、七宝文、菊葉文、笹文を緑色で描いている。

青い釉薬「桜」を描くのは何とも奇妙。京都で作られた古清水は、赤を基調とする肥前・有田の金欄手との競合を避け、青と緑を多用したと言われている。

色絵赤玉雲龍文鉢(有田 江戸時代 17-18世紀)

口縁(こうえん)が鐔上に開いた厚手の大鉢。見込には中国風の雲龍を染付・赤・黄・金彩で描き、外側には赤字に唐草を巡らして、四方に丸く鳳凰と草花を交互に配す。本作は中国・明時代後期の金欄手や五彩磁器を模したもので、国内市場向けの高級品であった。

白泥染付金彩薄(すすき)文蓋物(尾形乾山 江戸時代 18世紀)

緩やかな方形の蓋物。表側には白泥・染付・金彩で武蔵野を想起させる薄(すすき)文様を描き、内側には白土を塗った白化粧地に染付で染織文様を施して、外側との強いコントラストを作り出している。尾形乾山琳派を代表する絵師・尾形光琳の弟で、京焼に多くの新機軸をもたらした。

緋綸子(りんず)地葵藤牡丹扇面模様打掛(江戸時代 18世紀)

緋色の綸子地に、糊置きや絞りで扇面、藤、葵、牡丹の形を白抜きにし、紫、萌黄、緑、金の糸で詩集を施した打掛。扇面には文様や花鳥などが表されており、扇の形は末広がりの吉祥文様として好まれた。祝いの席にふさわしい華やかな衣装である。

平四目(ひらよつめ)紋革羽織(一番組よ組)(江戸時代 19世紀)

松葉などを燻した煙で革を染め、模様を白抜きにする燻革(ふすべがわ)の技法が用いられた革羽織。襟に「よ組」の文字を表し、背中に「田の字」の紋章を配していることから、江戸に48あった町火消の一つ、一番組の「よ組」で使われた家事装束であったとみられる。

色絵七宝繋文茶碗(野々村仁清 江戸時代 17世紀)

京焼を大成させた野々村仁清(にんせい)による茶碗。碗型に整形した後、胴下部を八角に削って姿を引き締めている。口縁の外側に銀彩の帯を巡らせ、胴の中段に赤・青・緑の8個の七宝文を、下段に8個の蓮弁文を連ねる。七宝文と蓮弁文は白釉地に色絵で表し、金彩で輪郭を描く。

下地となる白の釉薬の上にさらに黒の釉薬を塗り、白抜きした部分に文様を施すと言う非常に手の込んだ表現方法がとられている。こうした華麗な作品は、今日の公家よりもむしろ武士、特に江戸や地方の大名が求めたものであった。

赤楽茶碗 銘 熟柿(本阿弥光悦 江戸時代 17世紀)

本阿弥光悦は 1615年、徳川家康から洛北・鷹峰(たからがみね)の地を拝領した頃から本格的に作陶を始めたとされる。本作は豊かに張った丸い形の赤楽(あからく)茶碗で、丈の低い手づくねによる歪んだ姿、胴に沈み込んだ低い高台はまさに「熟柿」の名にふさわしい。

藍色ちろり(江戸時代 18世紀)

伸びやかさと清々しさを兼ね備えた、凛々しい佇まいのちろり。胴の下半分を型に吹き込み、上半分は中空で成形されて、ふくよかな丸みを持つ。把手(はしゅ)はガラスを捻って作られている。本来、ちろりは酒を温める金属製の容器で形状も異なる。本作は冷酒用なのであろう。

薩摩切子 藍色被船形鉢(薩摩藩 江戸時代 19世紀)

正面に翼を広げた蝙蝠を、後方には陰陽勾玉(まがたま)巴文を配した大型の船形鉢で、良質なガラスと乱れのないカットが薩摩藩の技術の高さを物語る。蝙蝠の羽の部分は凸レンズ上に研磨され、藍色ガラスが美しいグラデーションを見せている。

飾枕(籠枕)(江戸時代 18世紀)

竹を編んで枕の形にした籠枕。風通しが良いため夏の昼寝などに用いられた。籠枕は中国の南方地域で使われていた抱き枕「竹夫人(ちくふじん)」を小型化したものともされ、江戸時代に長崎に伝わって広まったと言う。夏の季語ともなった。

一見素朴な籠編みの枕と思いきや、縁には精緻な文様が彫られ、象牙製の小さな扇の飾りが嵌め込まれている。秋田の久保田藩主・佐竹家の家紋であり、箱には佐竹家より到来したと記されている。

サントリー美術館の名品コレクションを堪能した後は、いつものように HARBS でランチ。毎回同じパスタを頼んでいる気がするので、今日は趣向を変えてみた。

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