「模造品」という言葉からは「偽物」とか「本物ではない」と言ったあまりよくないイメージがある。そこで文化財の保存・継承のために作られる複製については「再現模造」という言葉が用いられている。材料・構造・技術において、オリジナルに忠実な模造というプロセスを通して、宝物が作られた時の卓越した技術を研究し、後世に伝えていく。
サントリー美術館で開かれている特別展「よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―」は、奈良・正倉院の宝物の再現模造を集めた展覧会である。美しく心惹かれる逸品がたくさん集められている。オリジナルは滅多に観ることができないし、色も褪せ、劣化が進んでいることだろう。模造により、1200年前当時の美しい姿が再現されており、その魅力がビビッドに伝わってくる。
歴史の教科書にも出てくる「螺鈿紫檀五絃琵琶」(らでんしたんのごげんびわ)は、8年かけて再現模造が作られた。玳瑁(たいまい)と夜光貝の螺鈿細工が美しい。2019年にトーハクで開催された特別展「正倉院の世界 皇室がまもり伝えた美」でも展示されていたので、再会したことになる。丸い胴の琵琶「螺鈿紫檀阮咸」(らでんしたんのげんかん)と共に、当時の写真を再掲しておく。
楽器だけではない。伎楽の面、仏具、染織、調度品、刀や武具、筆墨など100点を超える品々が集められている。
図録も must buy だ。数々の美しい宝物模造の写真と解説の他、模造の製作ノートが記されており、模造の製作者たちによって材料調達や技法研究に関わる苦労が語られている。今の日本では入手困難な材料も多い。構造・技術については、作ってみて初めてわかる。だかこそ模造というプロセスを通して、研究が進むということなのだろう。
今回の展覧会の様子がわかる予告編映像や、正倉院事務所長・西川明彦氏による講演会「正倉院の再現模造の魅力」の映像を掲載しておく: