両親を訪ねる前に、現代日本美術を専門とする郷さくら美術館に寄って、特別展「中野嘉之の世界」を観る。ふだんは桜の花を中心にした常設展示が行われる小さな美術館だが、今日は中野嘉之氏の作品のみが展示されていた。
実はこの美術館に来るのは初めて。びっくりしたのは、作品との距離。すぐ近くまで寄って、そのタッチや色彩を子細に見ることができる。再訪して、常設展示の桜の日本画作品も、観てみたい。
両親を訪ねる前に、現代日本美術を専門とする郷さくら美術館に寄って、特別展「中野嘉之の世界」を観る。ふだんは桜の花を中心にした常設展示が行われる小さな美術館だが、今日は中野嘉之氏の作品のみが展示されていた。
実はこの美術館に来るのは初めて。びっくりしたのは、作品との距離。すぐ近くまで寄って、そのタッチや色彩を子細に見ることができる。再訪して、常設展示の桜の日本画作品も、観てみたい。
トーハクで古代日本に思いを馳せた後は、東京都美術館まで足を伸ばし、ハマスホイというデンマークの画家と、彼につながる 19世紀のデンマーク絵画を紹介する特別展「ハマスホイとデンマーク絵画」を観る。
ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864 - 1916)。初めて聞く画家の名前である。2008年に日本で初めて展覧会が開催され、その特異な作品に魅了された人は多いと聞く。1900年前後に活動した画家だが、17世紀のオランダ風俗画に影響を受けていることから「北欧のフェルメール」と称されることもあるらしい。デンマークの絵画もほとんど見たことがないし、興味津々で出かけた次第。
展覧会では、19世紀のデンマーク絵画が年代順に並べられ、ハマスホイは最後にまとめられている。ハマスホイの時代、1900年前後というと、ポスト印象派が登場し、象徴主義、キュビズム、表現主義など新しい試みが生まれた時代である。しかしパリにおけるそうした主流の動きから離れて、ハマスホイは独自の絵画を追求した。
ハマスホイの作品が展示されている部屋に入ると、それまでのデンマーク絵画とは一味違った絵画作品が並んでいる。部屋の中ばかりではなく、人物画、風景画、古い街並みや建物を描いた作品もある。しかしやはり目を引くのは室内画。グレーを基調とした抑えた色使いの調和の中に、柔らかな光が描かれている。室内画では家具だけではなく、後ろ向きの人物、画家の妻も描かれているが、表情が見えないため、あまり生命感を感じさせない空間となっている。静謐、という言葉がぴったりな世界。
《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》は国立西洋美術館に常設されている。当然、一度は目にしたことがあるはずなのに「ただ漫然と眺めていたんだな」と痛感する。それと同時に、こうやって特別展が開催されることで、ハマスホイという画家の魅力にも気づかされたし、その名前を改めて覚えることができた。
この展覧会に合わせて、ハマスホイの画集が2冊、発売されている。一つは2008年の展覧会を企画した佐藤直樹氏、もう一つは今回の展覧会を企画した山口県立美術館の萬屋氏の手によるものである:
ヴィルヘルム・ハマスホイ 沈黙の絵画 (220) (コロナ・ブックス)
日本書紀成立1300年の特別展「出雲と大和」をトーハクに観に行く。
日本書紀の冒頭にある国譲りの神話では、国津神が天津神に国を譲り、国津神であるオオクニヌシは出雲へ鎮座する。神々を司る「幽」を祀る出雲と、現実を司る「顕」を祀る大和。それぞれの世界を見ていく展覧会である。入り口の横で放映されている10分足らずの概要紹介のビデオを見てから会場に入るのが、オススメである。また事前に予習するなら、『時空旅人』の「出雲と大和」特集号を勧めたい。この展覧会に関する解説に加えて、出雲や大和の遺跡・神社など現地を巡る旅について、楽しく読み進めることができる。
まずは出雲。48mを超える高さを誇ったという出雲大社を支えていた「心御柱」「宇豆柱」が、展覧会の最初を飾る。直径約 1.3m の大木を 3本 1組に束ねた柱を作り、それに支えられる形で作られた出雲大社。鎌倉時代当時のその大きさが偲ばれる。
圧巻なのは、荒神谷遺跡から見つかった358本の銅剣。加茂岩倉遺跡から見つかった39の銅鐸。銅鐸埋納状況を復元した模型も展示されている。弥生時代、出雲を支配していたのは、どんな人たちだったのだろう。
弥生時代後期には、青銅器祭祀から四隅突出型墳丘墓のような大きな墓を舞台とした祭祀へと移り変わっていく。この特徴的な形状の墳丘は、出雲を中心に日本海側沿岸に分布し、大和とは異なる祭祀文化が形成されていたことを示している。国譲り神話は何を語っているのだろう。
一方、古代日本の王権を担った大和。こちらでは纏向(まきむく)遺跡のシンボル的な箸墓(はしはか)古墳から、前方後円墳が政治権力の象徴となり、王儀の場となる。4世紀中ごろからは、同じ形の前方後円墳とその副葬品が共通規格のように、大阪平野の百舌鳥や古市、奈良盆地の各地に展開されていく。箸墓古墳は邪馬台国の卑弥呼の墓なのだろうか。そしてそもそも邪馬台国は大和の地に存在したのだろうか。
展覧会では、黒塚古墳から出土した画文帯神獣鏡と三角縁神獣鏡すべてが展示されている。ヤマト王権は大陸との交流で技術を習得し、得られた品や模倣品を豪族に与えることで基盤を強めていったが、その代表が三角縁神獣鏡とのこと。
最古の神宮の一つ、石上(いそのかみ)神宮に祭器として伝わる七支刀(しちしとう)も展示されている。『日本書紀』の神功皇后の時に、百済から献上された「七枝刀」(ななつさやのたち)の実物と考えられている。当時のヤマト王権と大陸との交流を示す品である。
実に見応えのある展覧会だった。大量の銅鐸、銅剣、神獣鏡を眺めながら、「出雲や大和を支配していたのはどんな人たちだったのだろう」と、古代の日本に思いを馳せる貴重な時間を過ごすことができた。
さてトーハク東洋館では特別展「人、神、自然」も開催されている。カタール国の王族が収集したザ・アール・サーニ・コレクションの中から、世界各地の古代文化が生み出した工芸品を展示したものである。
21_21 DESIGN SIGHT を訪ねた後、ミッドタウンでランチ、その帰りに山種美術館に寄った。山種美術館が現在の広尾の地に開館して10年、それを記念した特別展「上村松園と美人画の世界」が開催されている。
「西の松園、東の清方」と上村松園と並び称された鏑木清方、伊藤深水らの美人画も展示されている。しかし何よりも際立っていたのは、上村松園。その絵から上品で清廉な女性らしさが伝わってくる。
プロダクトデザイナー、建築家、グラフィックデザイナー、空間デザイナー、照明デザイナー…。さまざまなデザイナーの原画や図面、模型が観られる「㊙︎展 めったに見られないデザイナー達の原画」が、21_21 DESIGN SIGHT で開催されている。
デザイナーにより、デザインするプロセスは全然違うみたいだ。緻密な図を描く人もいれば、ラフなスケッチを重ねる人もいる。共通するのは膨大な手書きのメモだろうか?しかしそれも色分けしながら緻密に記している手帳もあれば、隈研吾さんのように、浮かんだ言葉を鉛筆で紙に書きなぐっているメモもある。
デザイナーの頭の中を、ちょっとだけ覗き見できる気がします。
雪交じりの雨の寒い土曜日。代官山に「ダ・ヴィンチ没後500年 夢の実現」展を観に行く。500年前に亡くなったレオナルド・ダ・ヴィンチは万能の天才。画家として現存する作品は16点、完全な姿で残っているのは4点しかないと言う。レオナルド・ダ・ヴィンチ研究の第一人者である東京造形大学の池上英洋教授がリーダーとなって、未完だったり欠損していたりするすべての絵画を、バーチャルに復元するプロジェクトを進めており、その成果を展示する展覧会である。
「大学生の教育を兼ねたものだろう」と実はあまり期待しないで出かけたのだが(失礼!)、美しく復元された作品満載で、とても充実した時間を過ごすことができた。しかも入場無料。豪華なブックレットも無料。鑑賞ガイドも無料。しかもこの鑑賞ガイドはタブレットで AR(拡張現実)機能つき。東京造形大学、太っ腹である。
《モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)》を現代の技術を使って復元すると、見慣れた《モナ・リザ》よりもずっと明るい色彩で、ちょっとびっくりしてしまう。ポスターやブックレットのモナ・リザの右側が復元前、左側が復元後の色合いである。
レオナルドは薄い絵の具を重ね塗りして、写真のようななめらかなぼかしを表現した。《モナ・リザ》では塗り一回ごとに乾燥を待って薄塗りを繰り返すことで、筆の跡を残さず無限の階調を見せている。この技法は「スフマート(sfmato)」、煙のような微妙なぼかしと称される(西岡文彦『五感でわかる名画鑑賞術』)。このスフマートで描かれた絵が、500年にわたる経年変化・ニスの変色などにより、色合いも変わってしまっている。それを復元したのが、この絵と言う訳だ。
《最後の晩餐》は 4.5m x 9m の壁画。絵画の制作に思索と試作の長い時間をかけるレオナルドは、素早く描かなければならないフレスコではなく油彩を使った。しかしこれが大失敗で、完成後数年もしないうちに、壁から剥がれ落ち始めてしまった。今回の復元は2Fの壁に投影され、目線の高さで観ることができる。
この他、レオナルドの実質的なデビュー作である《受胎告知》、欠損した部分を資料から復元した《ジネヴラ・デ・ベンチ》などがある。《東方三博士の礼拝》のように下絵で終わった作品では、代わりに納められたリッピの彩色を参考に復元している。
画家としてのレオナルドの成果だけではなく、科学者・建築家としての構想をモデル化した展示もある。3D モデリング、3D プリンターといった技術が活かされている。
展覧会を観た後は、お隣りの代官山 T-SITE 蔦屋書店にて、池上先生監修による別冊太陽『レオナルド・ダ・ヴィンチを旅する』を買ってしまった。レオナルドの作品をたどる巡礼の旅、そしてその生涯を美しい写真と図版と共に楽しむことができる本である。池上先生渾身の『レオナルド・ダ・ヴィンチ:生涯と芸術のすべて』も平積みされていた。
レオナルド・ダ・ヴィンチを旅する: 没後500年 (別冊太陽 日本のこころ 273)
蔦屋書店の2階にあるラウンジ、Anjin(アンジン) にてランチ。古い画集や雑誌がアーカイブされていて、それを眺めながら食べることのできる独特なラウンジ・バーである。天候のせいか、人も少なく、ゆったりとした時間が過ごせる。外が寒いこともあって、ビーフシチューが美味しい。
首都高速 K7(北線・北西線)が開通した時の複雑な横浜港北ジャンクション(JCT)の図(動画によるシミュレーション付き)を眺めていたら、ブルーバックス『図解・首都高速の科学』を読み返したくなった。この本では、首都高速を紙上で擬似ドライブしながら、その歴史や技術を学ぶ。都心環状線、東京と横浜を横羽線と湾岸線で往復、さらに中央環状線、山手トンネルと、歴史順に見てまわることで、建築技術の進歩が感じ取れる構成になっている。
複雑なネットワークを構成する首都高。この本は、ジャンクションがどうなっているかなど、非常に興味深い内容となっている。首都高ナビマップのサイトで JCT のガイドマップ・拡大図を見ると、さらに理解が深まる。