Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

写実性が高く洒脱なデザイン性もある渡辺省亭の凄さ。画廊訪問を機に、作品集を読み直している(加島美術)

加島美術という画廊(古美術商)で開催されている渡辺省亭の企画展を見る。

ドガなどフランスの画家たちを唸らせた卓越した技術。まるで生きているかのような写実性の高い花鳥画。そして上品で洒脱。渡辺省亭は官展から距離を置いたからか、海外で評価が高いのに、日本美術史の中では長い間忘れられてきた画家である。しかし近年、再評価されて復活してきている。

2021年に東京藝術大学大学美術館で開催された初の回顧展がその象徴であった。何を隠そう、この僕もこの展覧会で渡辺省亭の魅力に取り憑かれてしまった一人である。

www.museum.or.jp muranaga.hatenablog.com

Webサイトから今回の企画展の概要と、渡辺省亭がどういう人だったかという解説を引用する:

宴 Vol.3 The SEITEI について

明治から大正時代に活躍をした孤高の日本画家・渡邊省亭の珠玉の名品が一堂に会する企画展「宴 Vol.3 The SEITEI」を開催いたします。渡邊省亭初の大型画集『渡辺省亭画集』に所載される花鳥画や歴史画、美人画仏画、風景画、動物画に節句画など多彩な24点を中心に、省亭の妙なる魅力をご紹介いたします。

明治期に日本画家として初めてパリに渡り、印象派の画家たちをはじめ西欧の人々を魅了した絵師・渡邊省亭。フェノロサ岡倉天心からも認められていたにも関わらず、晩年は画壇に属さず、弟子もとらず、市井の画家として画業に専念したため、類稀なる実力と海外での評価とはうらはらに、近代美術史の中でその名は埋もれていました。しかし、2021年、東京藝術大学大学美術館にて国内美術館初となる大規模な回顧展「渡辺省亭—欧米を魅了した花鳥画—」が開催され、さらに省亭の全貌に迫る初の大型画集『渡辺省亭画集』が小学館より刊行されるなど、国内外の日本美術の研究者や愛好家を中心に、再評価の機運は高まり続けています。

加島美術では、近年の省亭再評価の一端を担うべく、2017年以降国内外の皆様に省亭作品をご紹介してまいりました。本展では、『渡辺省亭画集』所載の名品24点を中心に明治初期から大正にわたって描かれた多彩な作品を展示いたします。会期中には、省亭関連書籍の店頭特別販売や、日本美術継承協会の企画による渡邊省亭の再評価に深く関わる山下裕二氏、古田亮氏のトークイベントを行います。

渡邊省亭とは

明治から大正時代にかけて活躍した日本画家。16歳の時に歴史画家・菊池容斎に入門し、筆使いや写生力を磨きました。明治8年に就職した美術工芸品輸出業を営む起立工商会社からの派遣により日本画家として初めてパリに洋行留学を行ない、ジャポニズムの影響を受けたエドガー・ドガ印象派の画家と交流を深めます。西洋の洒脱なセンスと日本画の伝統様式、写実表現が合わさる独自の洗練された作風を切り開き、万国博覧会への出品やロンドンでの個展にて花鳥画を中心に発表するなど国際的に活躍。迎賓館赤坂離宮・花鳥の間、小宴の間に飾られる濤川惣助の手掛ける七宝工芸の図案も手掛けました。晩年は自ら中央画壇と距離を置き、市井の画家として注文に応じての制作を行いました。海外での評価は高く、メトロポリタン美術館、フリーア美術館、大英博物館をはじめとする名だたる美術館が省亭作品をコレクションしています。

今回の企画展は、画廊ということもあって小規模なスペースながら、人影も少なく、ゆっくり 24点もの作品を見ることができる。この作品が収められた大型画集も置いてある。高価なので購入していないが、今回、1ページ1ページめくりながら、じっくり眺めることができた。

この画集を編纂したのが、山下裕二・古田亮、二人の先生方である。「日本美術応援団」である山下裕二先生は、渡辺省亭の再評価を旗振りして、古田亮先生は数年前の初の回顧展を企画している。その背景には、古田先生のパートナーである古田あき子氏(美術史家)による研究がある。

昨日、古田あき子『評伝 渡辺省亭』を買い求めたばかり。省亭の画業や生涯を丁寧に調べている。じっくり読みたい本である。

muranaga.hatenablog.com

大型画集は高価だが、山下・古田二人の先生が監修・執筆した『渡辺省亭 花鳥画の絢爛』(別冊太陽)は、その魅力的な作品を多数掲載し、生涯や画業についてもコンパクトにまとまっており、省亭を知る画集としては最適だと思う。

この中で、日本美術史を論じる時に、画家をどこかの流派に位置づける固定概念があるが、省亭は流派を超越している。省亭は日本美術史を書き換える起爆剤になると論じている。

古田亮『日本画とは何だったのか』では、渡辺省亭について「世界基準の日本画」と位置づけて、コラムが書かれている。その卓越した描写や特異な画業が再評価されている最大の理由を、「省亭作品の持つ時代を超えた普遍性」としている。マネの弟子やドガを感嘆させた絵画表現が、日本的で異国情緒に富んだものだったからではなく、「世界的な絵画基準に照らして十分に評価し得るものであったから」こそ当時のパリで注目された。

そして省亭作品の魅力を、その特異な画風にあるとする。「西洋的な写実表現が、日本のどの伝統流派とも違っていたという新鮮さ」があり、当時の日本の画壇に衝撃を与えると同時に、西洋のジャポニズムからはそれが「際だって日本的であると映った」両面を持つ。明治時代に西洋画の影響を受け、ともすれば奇怪になりがちな新派系日本画や江戸時代さながらの旧派系日本画と違い、「省亭の様式は率直な写生に基づき、かつ洒脱で粋なデザイン性」を見せていると讃えている。

2021年の回顧展のガイドブック(図録)も『渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画』として、市販されている。子の図録をめくるたびに、心揺さぶられた展覧会を思い出す。

回顧展の数年前、2017年に出版された画集『渡辺省亭 花鳥画の孤高なる輝き』もある。今や渡辺省亭の画集の表紙に採用され、省亭を語る時のアイコンとなっている《牡丹に蝶の図》は個人蔵だが、この画集に掲載された対談において、実はそれが山下裕二先生が買い求めたものであることがわかる。「あまりにも素晴らしいのに、あまりにも安いので、なかば義憤にかられて買ったようなもの」とのこと。

そして、かつてゲテモノ扱いだった伊藤若冲・曾我蕭白・長沢蘆雪が、辻惟雄『奇想の系譜』で初めて評価され、今や完全に江戸時代を代表する評価となっているように、渡辺省亭が「この時期の一番すごい画家なんだ」と将来認識が変わる、いや僕が変える、そのためには日本の美術館で大回顧展開催を実現する、と気勢を上げている。

面白い。渡辺省亭が再評価され、日本美術史はアップデートされていくにちがいない。

muranaga.hatenablog.com muranaga.hatenablog.com