Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

「ブラック・スワン」が現れる「果ての国」を扱うフラクタル理論

ブラック・スワン』()は、リスクを取り扱った本である。正規分布に従う国を「月並みの国」、ベキ乗分布に従う国を「果ての国」と呼び、後者では「ブラック・スワン」が現れる可能性がある。富の分配は「果ての国」の話である。ロング・テールもそうだ。市場では予想もしない形で「ブラック・スワン」が現れ、そこに富が偏在するようなことが起こるため、その衝撃は大きい。人間は後づけでその異常なものの出現が予測できたことにする傾向があるが、実際にはその出現は予測できない。こういう「ブラック・スワン」(よいものも悪いものもある)にどう対処していくべきか。非常に示唆に富んだ本である。

読み進むにつれ、「果ての国」つまりベキ乗分布に従う世界の、理論的なベースを作ったのは、かのマンデルブロであることがわかる。20数年前にベストセラーになった『フラクタル幾何学』マンデルブロである。マンデルブロは経済・金融という複雑な現象と莫大なデータを相手にして、フラクタル理論を発展させた。これにインスパイアされて、物理学の方法を経済学に適用する「経済物理学」(Econophysics)という学問もあるらしい。

少し興味がわいたので、一般向けに書かれたマンデルブロ『禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン』高安秀樹『経済物理学の発見』、ブキャナン『歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』に目を通してみることにする。

ただ気をつけなくてはいけないのは、『ブラック・スワン』の著者タレブが指摘するように、過去のデータを扱うモデル・数式を、未来を予測するために使うことはできないということだ。「複雑系の理論から私たちが学ぶべきことは、現実を厳密にモデル化したものから科学的な主張が出てきたら疑ってしかるべきだということだ。複雑系の理論で白鳥がみんな白くなったりはしない。複雑系の理論は白鳥を灰色にする。灰色にしかならない。」(『ブラック・スワン』下巻、P.173)


ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質 ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質


禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン 経済物理学の発見 (光文社新書) 歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)