- "Nokia falls into the arms of Microsoft", The Economist online, February 11th 2011
- "Nokia at the crossroads: Blazing platforms", The Economist, February 10th 2011
Microsoft(マイクロソフト)の幹部だった Stephen Elop が Nokia(ノキア)の CEO となり、Microsoft との戦略的な提携と Windows Phone の採用を発表した。このことについて、世界最大の携帯電話メーカーが勢いを失ったというだけではなく、欧州のすべての携帯電話産業に関わる問題であると、The Economist 誌は指摘する。
2007年、Apple(アップル)の iPhone に代表されるスマートフォンの出現により、携帯電話業界は変わった。Nokia は世界中の 1/3 の携帯電話を出荷しているが、世界中の利益の半分は Apple に持って行かれている。
これは、携帯電話がハンドヘルド型のコンピュータになったことを意味する。そこではソフトウェアや情報サービスこそが価値を持ち、米国シリコンバレーにある Apple や Google(グーグル)といった会社が競争力を持つ。その上、シリコンバレーには、起業家やベンチャー・キャピタル、ソフトウェア開発者という比類のないエコシステムが存在して、革新的なサービスを生み出している。
Nokia は Ovi というオンライン・ストアにより携帯電話向けサービスを App Store よりも1年早く始めたが、ハードウェア・メーカーからソフトウェアとサービスの提供者への転換はなかなかうまく行かなかった。ハードウェア・メーカーとして高いレベルで適応している Nokia には、ソフトウェアで必要とされるスピードや協業が実現できなかったからである。Symbian OS をスマートフォン用に転換させることもうまく行っていない。
Nokia がハードウェア・メーカーから脱皮する最後の機会が、Microsoft との提携である。Microsoft Office 製品の責任者であった Elop が、iPhone、Android に続く第3のモバイル・ソフトウェア・プラットフォームを Windows Phone 7 で確立することを急ぐ。MeeGo は研究プロジェクトに格下げとなり、Symbian はローエンドのスマートフォン向けとなるだろう。
これはスマートフォン、そしてその拡張としてのタブレット用のプラットフォームが、すべて米国製になり、より多くの利益が大西洋の向こう側、つまり米国に流れていくことを意味する。ARM や Ericsson、Alcatel-Lucent など欧州勢もがんばっているものの、シリコンバレーのような起業家精神のカルチャーがないことには、欧州勢がこのモバイル業界にフルに復帰することはないだろう、と The Economist 誌は締めくくっている。
この記事が示すように、携帯電話がコンピュータと化したところで、ソフトウェアとネットサービスに競争力を持つ米国の企業が主役になったと言えるだろう。歴史上、コンピュータの OS に代表されるシステムソフトウェアの技術とビジネスは、常に米国が握っている(Google の Android はルーツはフィンランド生まれの Linux ではあるが)。
そしてハードメーカーがソフトウェアとサービスの提供者への転身を図るのは難しいという現実も、Nokia の例は如実に表している。この世界は、ハードウェア単体では決まらず、ソフトウェア、サービス、コンテンツを含む全体のビジネス・エコシステムの構築で決まる。Ovi の苦戦を見て、Nokia は新たな CEO を Microsoft から持ってきた。これは Nokia の前トップ(Olli-Pekka Kallasvuo 氏)の英断と言えるだろう。日本企業でこういうドラスティックなトップ交代はなかなか難しいのではないか?
Nokia がスマートフォン OS として Windows Phone 7 を採用したということは、OS に限らず、ハード、ソフト、サービス全体のビジネス・エコシステムを構築するために、Nokia と Microsoft が戦略的に一緒に動くということである。Google の Android の問題は、ハードウェアの乱立である。ある Android アプリケーションがどの機器で動くのかはアプリケーション開発者が検証しなければならない。Windows Phone の場合、互換性を Microsoft が保証(certify)することができれば、大きな強みとなる。ただ Microsoft もスマートフォン用 OS では出遅れている。Nokia も追い込まれているが、Microsoft もこの点については同様である。そこでハードウェアについては、まず Nokia との提携に動いたと思われる。PC の "Wintel" の世界を、スマートフォンで作れるのか?"Winokia" あるいは "Microkia" 連合がその最初の布石となるのか?
Nokia が Microsoft に買収されるというシナリオも投資家の間では囁かれているようだが(たとえば「ノキアと MS の提携 --- 数々の不安要素と合併への可能性」)、企業文化・国籍の違いなどから考えにくいように思う。Life is beatiful の中島聡さんは、もっと別の予想をしている。こちらのシナリオの方が買収よりも可能性があるように思う。