Muranaga's View

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新興市場における携帯電話の驚異(4)--- 上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)

The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」まとめ
  1. "Mobile marvels"(原文)→ 「携帯電話の驚異」(日本語要約)
  2. "Eureka moments"(原文)→ 「発見の瞬間」(日本語要約)
  3. "The mother of invention"(原文)→ 「発明の母」(日本語要約)
  4. "Up, up and Huawei"(原文)→ 「上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)」(日本語要約)
  5. "Beyond voice"(原文)→ 「声を越えて」(日本語要約)
  6. "Finishing the job"(原文)→ 「仕上げ」(日本語要約)

The Economist(September 26th, 2009)「新興市場におけるテレコム産業」特集のまとめ、第4弾である。成長著しい中国のネットワーク機器メーカー Huawei と ZTE を描く(以下、図をクリックすると、原文のウェブサイトに飛ぶ)。

この記事のタイトルは "Up, up and Huawei" である。これが "Up, up and high" にかけてあるのか、それとも "Up, up and far away" にかけてあるのか、はたまた全然別のものなのか、僕の英語力ではわからなかった。とりあえず far away と考え、「遠くへ」と訳している。

Up, up and Huawei 「上へ上へ、そして遠くへ」
中国はネットワーク機器で長足の進歩を遂げた

1960年代に日本から輸出されてくる製品は安かったが品質も悪かった。しかし今は高品質であり、トヨタは製造業におけるモデルとなっている。同じようなことを中国が望んでいる。今の中国の製造業は、40年前の日本のように考えられているが、品質は着実に改善され、イノベータとして捉えられつつある。中国最大の通信機器会社である Huawei が、その新しいハイテクの中国を体現している(図6)。


In the big league

  • Huawei:1988年創業。通信機器世界第4位。光ネットワークでほぼ2位。モバイルネットワークで3位。
  • ZTE:1985年創業。中国第2位、世界第8位の通信機器メーカー。携帯電話端末では世界第6位で5年以内に3位になることをめざしている。

この二つの中国メーカーのグローバル市場でのシェアはまだ小さいが、通信テレコム産業における影響は巨大である。彼らが 50% ものコスト削減を主導したことで、業界の経営統合を次々に引き起こしている。それは Alcatel と Lucent、ネットワーク機器における NokiaSiemens、そして2009年1月の Nortel の経営破綻と Ericsson への資産譲渡である。

この2社は 2009年から2011年にかけて590億ドルの投資がされる、中国の 3G 携帯電話ネットワークにおいて、ネットワーク機器の最大のシェアを握りつつあり、参入を狙っていた欧米のベンダーをがっかりさせている。

The Chinese are coming

Huawei と ZTE は海外進出も果たしている。1990年代には固定回線機器をアジアとアフリカに販売した。ここは欧米のベンダーの関心が低く、価格も高かったところである。次に無線ネットワーク機器を中東、南西アジア、アフリカ、ラテンアメリカへ販売した。労働人件費がはるかに安いうえに、GSM の標準規格が決まっていたことが有利に働いた。GSM 標準の開拓者である Nokia や Ericsson が技術開発に何年もかかったのに対し、ZTE は6ヶ月で最初の無線基地局を開発することができた。

ヨーロッパに最初に進出したのは Huawei である。最初は小さな通信事業者相手だったが、今では Vodafone、Telefonica、T-Mobile、BT といった大手事業者に供給している。2004年から2006年の間に、突然中国のベンダーが認識されるようになった。その規模だけでなく、技術イノベーションでもよい評判をかちとっている。

Huawei と ZTE は "remote radio-head" 技術の開発をリードしている。基地局の中の無線回路とアンテナの間を光ファイバーに置きかけ、無線回路をアンテナ自体に持たせることにより、パワーロスを取り除き、電力消費量を 1/3 にし、機器のサイズを小さくした。

最近では「再構成可能な基地局」(reconfigurable base-station)を売り始めた。ハードウェアではなくソフトウェアで機能を実現するので、異なる無線技術に対応するためにすぐに構成を変えたり、同時に複数の無線技術をサポートしたりすることができる。多くの通信事業者は 2G と 3G を別々の機器で動かしているが、これを置き換えることができる。ラテンアメリカの事業者は Huawei のこの基地局SingleRAN)を導入することで、電力消費量を 50%、容積を 70% に抑えることができた。ZTE の同様の基地局も香港の事業者に納入され、電力消費量を 40% 減らすことができた。どちらの機器も LTE、4G にも適用するようアップグレードできる。

Huawei は低コスト・メーカーという認識であったが今はイノベーターとなりつつある。海外に 100を超える事務所を構え、中国以外にはヨーロッパ、アメリカ、インドに研究センターを持つ。そして2008年には国際特許出願でトップとなった。

A TD-S diversion

もともと中国政府は 3G ネットワークを TD-SCDMA / TD-S と呼ばれる方式で開発する計画であった。ヨーロッパの W-CDMAアメリカの CDMA2000 に対して、中国政府は独自の 3G 技術で対抗し、アジア進出することを狙っていた。

しかし TD-S の開発には時間がかかりすぎ、通信事業者への 3G のライセンス発行が遅れた。その間 TD-S の助けがなくても、2008年までに Huawei と ZTE は海外市場で頑張り、またグローバルなテレコム産業も LTE 標準ベースの 4G への移行を視野に入れていた。HuaweiLTE 開発の最前線におり、世界初の LTE 接続では Huawei の機器が使われていた。しかしながら TD-S は政治的な投資であるために中国政府はあきらめるわけにはいかない。China Mobile にこの1月に 3G ネットワークのライセンスをした時に、TD-S を使うことが条件づけられた。

China Mobile としては、TD-S の携帯電話が存在せず、また既存の携帯電話を TD-S 用に設計し直さなければならないため、TD-S で 3G のサービスがうまくできるかを疑問視している。2009年末までに 1,000万人の TD-S 利用者を目標としていたが、2009年6月現在で 959,000人に留まっており、そのうち半分は通話用ではなく、ラップトップ PC のデータ通信に利用している。中国以外でも TD-S が採用される見込みはなくなってしまった。

そういう中、China Mobile と Huawei、ZTE は、顔をつぶさない形での TD-S からの出口戦略を考案した。TD-S と互換性がないにもかかわらず、TD-LTE という名前を冠して、TD-S の進化形という形での LTE の普及促進である。Vodafone と Verizon は TD-LTELTE 標準とスムースにつながる努力をしている。そうなると LTE の携帯電話は中国の TD-LTE ネットワーク上でうまく動き、China Mobile は TD-S にその歩みを制限されなくて済む。

Huawei に関する懸念は、その不透明なオーナーシップである。創業者が軍出身であり、軍と密接な関係があるという噂が絶えない。

Huawei と ZTE は、欧米のライバルたちと比べて、サービス面では弱い。インドのアウトソースに見られるように、機器だけでなくそれを運用するサービスはさらに重要になり、またコモディティ化する機器よりもサービスの方が利益率が高く、契約期間も長い。今後 10年というスパンで考えると、ネットワーク機器分野では Ericsson と Huawei だけが残る可能性も、業界の多くの人の間で信じられている。一方の ZTE は携帯電話そのもので上位をめざす考えだ。現時点では通信事業者ブランドで売られているが、ZTE ブランドを欧州で押し出していくつもりである。


Up, up and Huawei

The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」まとめ

  1. "Mobile marvels"(原文)→ 「携帯電話の驚異」(日本語要約)
  2. "Eureka moments"(原文)→ 「発見の瞬間」(日本語要約)
  3. "The mother of invention"(原文)→ 「発明の母」(日本語要約)
  4. "Up, up and Huawei"(原文)→ 「上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)」(日本語要約)
  5. "Beyond voice"(原文)→ 「声を越えて」(日本語要約)
  6. "Finishing the job"(原文)→ 「仕上げ」(日本語要約)