『ストーリーとしての競争戦略』(参考:再読のためのノート)の著者、楠木建教授(オフィシャルブログ)の経営にまつわるエッセイを新書にまとめた本が『経営センスの論理』である。もともとは日本版ハーバード・ビジネス・レビューのオンラインサイトに掲載されていた「楠木建の週刊10倍ツイート」と「楠木建 ようするにこういうこと」の記事が元になっている。

- 作者: 楠木建
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/04/17
- メディア: 新書
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先生の講演を一度聞いたことがあるが、話し上手で面白過ぎて、「経営漫談」を聞いているような気になってしまうところもあった。その話術も含めて、随所で先生の洞察力・論理、そして本書のテーマであるセンスが感じられる本となっている。
たとえばイノベーションについては、次のようなことを語っている:
- イノベーションを成功させるためには、「(技術的に)できる」ことと、「(大多数の顧客がかならず)する」ことの違い、を理解しているのがアップル。
- 非連続性を追求しているように見えるアップルだが、顧客がかならず「する」ことに対しては、非常に保守的であり、連続的である。
- 取り組むべきは今そこにあるニーズ、将来出てくるであろうニーズではない。
取り上げられているのは、経営者、戦略、グローバル化、日本、よい会社、思考、といったテーマである。
- 経営者:
- スキルではなくセンスの問題。センスは育てられない、育つ商売の場を与える。
- 優れた経営者はハンズオン、事業・商売を自分事としてとらえている
- 経営者に「〜せざるを得ない」と言われると脱力する。経営は自由意志。誰も頼んではいない。
- 戦略:
- 分析ではなく綜合、「数字」よりも「筋」。
- 戦略は外からは見えにくく、わかりにくい。
- 新聞記事になるような要素(葉)ばかり見ていないで、それをつないだ木こそが戦略。自分の頭でじっくり考えないとわからない。
- イノベーションの本質は非連続性。「次々にイノベーションを生み出そう」というかけ声はイノベーションを誤解している。
- グローバル化:
- グローバル化で直面するのは「言語」「多様性」「非連続性」という三つの壁
- 経営とは商売をまるごと動かすこと。その意思と能力のある人でないとグローバル・オペレーションはできない。
- 日本:
- 「日本の」ものづくりとか「日本的」経営とかヘンな話。戦略は個別企業の問題。
- (とは言いながら)強い日本企業には専業度が高いという傾向がある。
- つまりポートフォリオ経営に向いていない。ポートフォリオの本質は過去を忘れること。これが日本人はできない。
- よい会社:
- 就職人気企業ランキングは「ラーメンを食べたことのない人によるラーメン屋ランキング」。よい会社の尺度は、コミットメントの強い従業員によるものがよいだろう。
- GPTW(Great Place to Work) の「働きがいのある会社」ランキングが参考になる。
- 「働きがいのある会社」と「戦略に優れた会社」(「ポーター賞」受賞企業)は重なっている。
- 思考:
- 抽象と具体とを往復する思考様式が実践的。その振り幅・頻度・スピードが「地アタマの良さ」。
- 情報をインプットする目的は二つ。一つはインプットそれ自体、もう一つはアウトプットを生むため。前者は「趣味」、後者は「仕事」。
- 自分が達成したいアウトプットがあり、それが注意のフィルターになる。
- 「ハッとする」論理の面白さがわかるようになれば、勉強は苦にならない。
- インプットした時にいつもその背後にある論理を考えてみる。そのうちに論理の面白さを感じるようになる。面白がる力が鍵。
興味深く感じた要素や、個人的に耳が痛かった話をいくつか挙げてみたが、やっぱりこれだけでは本書の面白さは伝わらない。手っ取り早く、かいつまんでみてもダメなのだ。要素ではなく、それをつなぐストーリーが大切。これは戦略と同じということなのだろう。一度手に取って、その生き生きとした語り口を楽しんでもらえたら、と思う。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
- 作者: 楠木建
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2012/05/10
- メディア: 単行本
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- 作者: 和田彰
- 出版社/メーカー: 中経出版
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