The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」まとめ
- "Mobile marvels"(原文)→ 「携帯電話の驚異」(日本語要約)
- "Eureka moments"(原文)→ 「発見の瞬間」(日本語要約)
- "The mother of invention"(原文)→ 「発明の母」(日本語要約)
- "Up, up and Huawei"(原文)→ 「上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)」(日本語要約)
- "Beyond voice"(原文)→ 「声を越えて」(日本語要約)
- "Finishing the job"(原文)→ 「仕上げ」(日本語要約)
The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」のまとめ、第3弾である。コストがかけられず、インフラも整わない途上国で、どのようにして携帯電話通信網が整備されていったのか。「必要は発明の母」、途上国で生まれた革新的なビジネスモデルを紹介している(以下、図をクリックすると、原文のウェブサイトに飛ぶ)。
The mother of invention 「発明の母」
貧困世界の通信事業者は革新的な方法で、コスト削減と利用者増を実現している
開発途上国で携帯電話サービスを提供するには、先進国とはまったく異なる難しさがある。まず基地局を動かすために必要な電力網が信頼できない。あるいは電力網そのものがまったくない。このためディーゼル発電機で動かすことになる。そうすると遠隔地へ燃料を補給するという込み入った問題が生じる。
各国の ARPU(average revenue per user)は図5の通りであり、携帯電話が安くなると、さらに ARPU は下がっていく。こういう状況の中で、通信事業者はどうやって利益をあげるのか。
貧困国での通信事業者は「インド・モデル」("Indian model"、インドで最も浸透しているビジネスモデルなので、こう呼ばれる)として知られる画期的な方法でコストを削減した。インドでは ARPU が $6.50、1分あたり $0.02 の通信料金であるにもかかわらず、インドの通信事業者は 40% もの粗利益という、欧米の事業者に匹敵するオペレーションを行っている。
Indian model
「インド・モデル」では徹底的なアウトソーシング("managed capacity")と、通信インフラストラクチャ(インフラ)の共有("tower sharing")が特徴的である。
インド最大の通信事業者 Bharti Airtel によって実現されたアウトソーシングが、インド・モデルの本質である。Bharti 自体はマーケティングと戦略に集中するために、すべての IT 運営は IBM へ、通信ネットワークの運営は Ericsson と Nokia Siemens Networks(NSN)へ、顧客サポートは IBM とインドの会社へアウトソースしいる。アウトソースするのはネットワークの運営だけではない。ネットワークの構築も「管理された容量」("managed capacity")というスキームのもとにアウトソースしている。
Bharti は新しい地域に入り込むにあたり、ベンダーに対して、ある一定の通話容量と、容量単位当たりの価格を決めてそれを3ヶ月後に支払うことをリクエストする。ベンダーは基地局の設置などネットワークの設計にあたって、できるだけ倹約するようになる。これにより通信事業者は必要とされる容量以上に余分にお金を払わない仕組みである。ベンダーは複数の通信事業者のネットワークを構築・運営することで規模の経済を獲得する。ベンダーである Ericsson は、25% 少ないスタッフで運営することを可能とし、また通信事業者側の出費は、自身でネットワークを構築・運営するのに比べて、約15% 低く抑えられ、また IT コストも約30%低くなる。
インド・モデルの支えとなっている二つ目は、インフラストラクチャの共有である。ここでは複数の通信事業者が、アンテナや関連機器・発電機などを置く鉄塔(metal tower)を共有する。たとえば 2007年には、Bharti、Vodafone Essar、Idea Cellular という3つの事業者が 100,000本の塔を一つの会社 Indus Towers にプールした。すべての事業者がすべての塔を使っている訳ではないが(一つの塔を平均 1.5 事業者が共有)、それぞれの事業者が自分で新しい地域を開拓して塔を立てるよりもコストは抑制されている。さらに Indus Towers は余剰の塔を他の事業者にリースしている。
インド・モデルには以下の要素も含まれる:
- 「終身」("lifetime")プリペイドのスキーム:一度お金を払ってしまえば、通話を受けることは無限にできる。
- ペーパレスの通話料補充:引換券配布コストを減らす。
- トラフィックの減る夜間、機器を自動的に電源オフすることによるエネルギー消費の削減
- マイクロ・コールセンター:都市圏の大きなコールセンターを、小さな田舎のコールセンター群に置き換えることによる人件費抑制
- グリーン("green")基地局:太陽光・風力発電とディーゼルのハイブリッド
Dynamic Africa
アフリカ最大の通信事業者 MTN のコスト抑制イノベーションは、通話料金表を動的に変えること(dynamic tariffing)である。顧客は携帯電話上でディスカウント料を知ることができる。午前4時は 99% ものディスカウントがある。これにより日中以外に、午前1時という新たなピークを生んだ。
また「国境なしローミング」("borderless roaming")が Celtel(今の Zain)により、2006年に導入された。ケニヤ、タンザニア、ウガンダ間ではローミング料が無料であり、どの国でも通話料を補充することができる。これは異なる国でも通信事業者間には直接光ファイバー接続がされているために可能となった。
インドとアフリカの事業者のやり方は、欧米の事業者にとっても参考になる。たとえば2009年3月、Vodafone と Telefonica が4つの欧州の国で、鉄塔を共有する協定が結ばれた。また Sprint は日々のネットワーク運営を Ericsson にアウトソースしている。
一方、市場の成長スピードがよくわからないままに、"managed capacity" モデルを導入して失敗した事例もある。成熟した市場では通信容量が予測できるので、事業者自身が自分で通信容量を増やしていく方がよい。
これまでに述べてきたすべてのコスト抑制方法が、世界の残り30億人に携帯電話を行き渡らせるために適用できるかが大きな課題である。インドでは最も遠隔地のエリアでも、携帯電話の商用化が成功する間際にあると思われているので、周波数のオークションでも、国からの補助金が少ない、あるいは逆に支払う事業者が応札した。事業者間の競争の激しさを反映している。
中国では塔の共有は法律により義務づけられている。3つの携帯電話通信事業者は国が保有しているので、拡張は中央により調整されている。China Mobile は2012年までに98%もの田舎のエリアをカバーすることに同意した。
その他の途上国の地方・田舎への拡大も進んでいる。インド最大の事業者 Bharti とアフリカ最大の事業者 MTN との間で合併交渉がされているのは、そのよい印である。インドとアフリカの間で、低コスト運営の専門的な知識の移行が加速されると考えられる。アフリカでアウトソースが、インドで動的な通話料金表が使われるようになる可能性がある。
Spreading the word
インドの事業者は中東にもそのモデルを広げる野心を持っている。中東の事業者、たとえば Zain は低コストの運営経験がなく、アフリカ進出はめだった成功していない。このため、46%の株をインドとマレーシアのコンソーシアムに渡すとの交渉中である。またインド第2位の事業者 Reliance は MTN と合併交渉を昨年行っている。
インドは車産業、鉄鋼産業で外国の会社を大胆に合併してきた。テレコム(通信)産業でもその先例に従うことになると、インドの低コストモデルは、明らかに競争優位性を持っており、より多くの人に携帯電話が行き渡ることになるだろう。
The Economist(September 26th, 2009)特集「新興市場におけるテレコム産業」まとめ
- "Mobile marvels"(原文)→ 「携帯電話の驚異」(日本語要約)
- "Eureka moments"(原文)→ 「発見の瞬間」(日本語要約)
- "The mother of invention"(原文)→ 「発明の母」(日本語要約)
- "Up, up and Huawei"(原文)→ 「上へ上へ、そして遠くへ(Huawei)」(日本語要約)
- "Beyond voice"(原文)→ 「声を越えて」(日本語要約)
- "Finishing the job"(原文)→ 「仕上げ」(日本語要約)