Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

平成最後の美術館巡りは、「へそまがり日本美術」展(府中市美術館)から「ドービニー展」(損保ジャパン日本興亜美術館)へ

平成最後の美術館巡りは、府中市美術館「へそまがり日本美術」展。へそまがりな禅画。徳川将軍の下手だけど味のある絵。蘆雪、蕭白若冲ら「奇想の画家」たちが緩く崩して描いた絵。「へたウマ」「ゆるカワ」な絵が楽しい。丁寧な解説を読みながら、肩の力を抜いて観て回れる展覧会である。

公式図録は市販されていて、その表紙を飾るのは徳川家光の兎の絵。ある意味、ちょっと衝撃的な絵である。

へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで

へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで

話題を呼んでいる展覧会らしく、連休中の雨の日であるにもかかわらず、開館時刻を少し過ぎた 10:30 には、最初の方の展示の解説を読む人たちで行列ができていた。無料駐車場も、10:20 過ぎには満車になっていた。その前に滑り込むことができて幸運だった。

併設のカフェでランチを取った後は、甲州街道を東へ上って新宿へ。損保ジャパン日本興亜美術館で開催されている「シャルル=フランソワ・ドービニー展」を観る。ドービニーは印象派の少し前の風景画家であり、バルビゾン派に位置づけられる。実際にはバルビゾンには住んでいなかったが、川辺・水辺の作品が素晴らしい。刻々と変化する水面を素早いタッチで描いたドービニーの作品は、のちの印象派の画家たちに影響を与えたし、また自らもモネらの作品を積極的に評価したとのこと。この展覧会は、印象派の源流となったドービニーの作品をまとめて観るよい機会である。会場で上映されている紹介のアニメーション映像がある:


【東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館】「ドービニー展」紹介アニメーション

この映像でも紹介されているように、ドービニーは船(ボタン号)を入手、アトリエ仕立てにして、川を旅しながら、さまざまな水辺の風景を描いた。重い画材を抱えた移動から解放されての船の旅からは、シリーズものの作品群が作られている。

展覧会の最後には、美術館所蔵のゴッホ「ひまわり」とセザンヌりんごとナプキン」が並べられている。日本において、その筆使い、色使いをいつでもじっくり眺めることができる貴重な機会を提供している。

fam-exhibition.com

www.sjnk-museum.org

ミニチュアの世界観が楽しい「センス オブ スケール展」(横須賀美術館)

朝の連続テレビ小説ひよっこ」のオープニングは、日用品の中に人物のミニチュアを置く映像が印象的だった。その田中達也さんの「見立て」の世界観が楽しめる「センス オブ スケール展」が、横須賀美術館で開催されている。ちょっとした日帰りドライブも兼ねて、出かけてみた。

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田中達也さんの作品は、ウェブサイト Miniature Calendar でも毎日楽しめるようになっている。そしてこの展覧会では、田中さん以外のさまざまな作家のミニチュア作品が集められている。

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横須賀美術館は海に向かって庭が広がっており、ちょっとした憩いの場所を提供している。訪れるのは 3回目だが、初めて屋上まで上ってみた。地形を生かしつつ、ユニークな設計の建物である。

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横須賀美術館にあるレストラン、アクアマーレは、南青山・アクアパッツァの日高シェフのお店である。地元の食材を活かしたイタリアンのランチはとても美味しい。

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www.yokosuka-moa.jp

miniature-calendar.com

日本美術を左脳と右脳で観る "information or inspiration?" (サントリー美術館)、門外不出の海運王バレル・コレクション「印象派への旅」(BUNKAMURA)

サントリー美術館で開催されている「information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美」は、デザイナーの佐藤オオキさんNENDO)が提案する、日本美術の新たな楽しみ方を満喫できる展覧会である。

作品の背景や作者の意図を知る左脳的なアプローチか、ただあるがままに右脳的に感じるか。一つの作品を二つの見方で観るために、最初は inspiration のコース、次は information のコースと、美術館を2周回る。最初は感じるままに、その次はその作品の背景知識となる解説を読み、同じ展示物に対して、異なる感動を味わえる企画になっている。撮影可なのに気づかず、写真を撮らなかったのは残念だが、ウェブサイトでその楽しみ方を知ることができる(動画)。information コースでのイラストを使った解説が非常にわかりやすい。

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さてサントリー美術館の会員更新をすると、過去の展覧会の図録を一冊もらえる。今回は「のぞいてびっくり江戸絵画 科学の眼、視覚のふしぎ」をゲットした。

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六本木から渋谷まで足を伸ばして、BUNKAMURA ザ・ミュージアム「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」展へ。印象派より少し前の時代から、印象派にかけての作品が集められている。少年のころから絵画に興味を持っていたバレルが、のちに海運王となり購入したコレクションは、英国から門外不出だったそうで、初めて観る作品ばかり。本国のコレクションが改装中のため成立した展覧会だそうだ。9,000点以上もあるコレクションの中から、80作品ほどが初来日した。アンリ・ファンタン=ラトゥールの「春の花」、アンリ・ル・シダネルの「雪」や「月明かりの入り江」など、美しい小品が多い。お洒落な装丁の図録を入手した。

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アンリ・ル・シダネル「月明かりの入り江」

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アンリ・ル・シダネル「雪」

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アンリ・ファンタン=ラトゥール「春の花」

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www.suntory.co.jp

www.nendo.jp

「ラファエル前派の軌跡」を辿り(三菱一号館美術館)、その第二世代にあたるウィリアム・モリスの壁紙を鑑賞する(そごう美術館)

19世紀、ラファエロを模範とする英国ロイヤルアカデミーへのアンチテーゼとして生まれた「ラファエル前派」。ラファエロより前の初期イタリア・ルネサンスの画家に倣った細密な描写を特徴とする。その支持者であるラスキンの素描と、ラファエル前派の主要な画家たちによる作品が集められた「ラファエル前派の軌跡展」を観に、三菱一号館美術館を訪れた。

mimt.jp

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三菱一号館美術館

内的な思考や精神の状態を表現しようとした象徴主義の運動の一つに、英国の「ラファエル前派」は挙げられる。ただこの展覧会に出展されていたミレイ、ロセッティ、ハントといった「ラファエル前派」第一世代の絵に対して、僕自身は古めかしい印象を持ってしまった。ミレイには「オフィーリア」という素晴らしい作品がある。ハントにも鳥の巣を描写した素晴らしい小品がある。しかしこの展覧会で展示されている作品、特にロセッティの作品については、写実の技術が活かされていない。描かれている人物の表情に、生き生きとしたものが、今ひとつ感じられない。神話や聖書、文学の世界をテーマとしていることもあり、古い絵だと感じてしまった。

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ロセッティ「魔性のヴィーナス」

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展覧会の最後の部屋に入って、ちょっと驚いたのは「ラファエル前派」の第二世代に、ウィリアム・モリスがかぞえられるということであった。モリスは装飾デザイナーだと思っていて、「ラファエル前派」第二世代のエドワード・バーン=ジョーンズと親交があったという認識が全くなく、この展覧会で初めて知ることとなった。

折しもそごう美術館「ウィリアム・モリスと英国の壁紙展」が開催されている。「ちょうどいい、善は急げ」というので、三菱一号館美術館を出たその足で横浜に向かう。

ウィリアム・モリスは「役に立つかわからないもの、あるいは美しいと思えないものを、家の中に置いてはいけない」と、生活と美しいデザインとを両立させる思想を持っており、その「アーツ・アンド・クラフツ運動」は、20世紀のデザインの源流になったという。機械による大量生産ではなく、自ら手作りの工房での制作を実践した。

この展覧会では、英国の壁紙会社サンダーソン社保有ウィリアム・モリスを中心としたデザインによる壁紙と、その版木が展示されている。そう、当時の壁紙は版画と同じように、いくつもの版木を重ねて作られていたのである。日本をはじめ、アジアの装飾の影響も受けていることがわかる。

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www.sogo-seibu.jp

因みに今日のランチは、丸の内ブリックスクエアにある「アンティーブ」にて。美術館の半券でノンアルコール・カクテルやスパークリング・ワインが無料でサービスされる。

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西洋美術、特に著名な絵画と、それが描かれた時代背景を、カラー図版とイラストを使ってわかりやすく説明する入門書。

西洋美術は、時の権力者・上流階級が制作させたものであり、感じるというよりは、その時代背景からメッセージを読み解くもの。世界史における主な出来事、宗教・政治・経済の与えた影響など、絵画を読み解くポイントがわかる。大きな歴史の流れをつかむために、たとえば『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』を併読すると、さらに理解が深まる。

西洋美術史を概観する。美術鑑賞の予習・復習で、事典のように読んでいる。どちらかというと美術史という学問で習う内容で、『鑑賞のための西洋美術史入門』の方が親しみやすく、読みやすい。

万葉集と言えば…

「令和」という新元号は、万葉集から発案されたそうだ。万葉集と言えば、中学・高校時代の古文の勉強にまでさかのぼることになる。古今和歌集新古今和歌集と比べて、素朴な万葉集の歌に魅かれたのを思い出す。残念ながら、僕にはそれくらいの思い出しかない。

一方、短歌を詠む父は、会社生活引退後は長年、万葉集の勉強をしており、移り住んだ町で「万葉の会」という勉強会の講師をしている。その地で「万葉集注釈」を完成させた仙覚律師に因み、『万葉うためぐり』という本を、小川靖彦先生(青山学院大学)と共に出版した。町おこしの一環である。万葉集に因んだ今回の「令和」改元を何より喜んでいる。

万葉うためぐり: 学僧仙覚ゆかりの武蔵国小川町を歩く

万葉うためぐり: 学僧仙覚ゆかりの武蔵国小川町を歩く

さて単なるミーハーな僕は、元号の発案者とされる中西進先生の著書から、「令和」のもととなった歌と序を探してみたくなった。『万葉集全訳 注原文付(一)』の P.377 に、その歌「巻五 梅花の歌三十二首併せて序」が載っており、次のように訳されている。「時あたかも新春の好き月(よきつき)、空気は美しく風はやわらかに、梅は美女の鏡の前に装う白粉(おしろい)のごとく白く咲き、蘭は身を飾った香の如きかおりをただよわせている」

万葉集 全訳注原文付(一) (講談社文庫)

万葉集 全訳注原文付(一) (講談社文庫)

www3.nhk.or.jp

しばらく万葉集はブームになるだろう。もし僕が父のように、万葉集を学ぼうと言う気になった時には、小川先生や中西先生による入門書、そして万葉集の時代背景を詳しく記した事典が役に立ちそうだ。備忘のためにメモしておく。

万葉集 隠された歴史のメッセージ (角川選書)

万葉集 隠された歴史のメッセージ (角川選書)

古代史で楽しむ万葉集 (角川ソフィア文庫)

古代史で楽しむ万葉集 (角川ソフィア文庫)

万葉集事典 (講談社文庫)

万葉集事典 (講談社文庫)

フードを着脱できる花粉対策の眼鏡

花粉症にビタミンDが効くという話は、やはり僕には当てはまらず。今年はルパフィンを寝る前に一錠飲み、朝出かける前に点鼻薬。そして一日数回、点眼薬をさす日々を過ごしている。僕の場合、目の症状がきつく、痛痒くなる。外出後、ひどい時は瞼が上下でくっついて開けにくくなるくらいだ。

そこで今年は、花粉対策の眼鏡を作ってみた。Zoff+Protect というもので、花粉や粉塵を防ぐフードを着脱できる眼鏡である。花粉症の季節にはフードを着け、季節が終わるとフードを外して、普通の眼鏡として使えるのが気に入った。通勤・外出・ゴルフ・ドライブ用である。

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Zoff 初体験。店に入って40分くらいで視力検査からレンズ選択まですべて終了。迅速である。ただ遠近両用レンズにしたので、その日のうちには出来上がらず、実際に自分の手に届くのは 10日後であった。桜の花が咲き、そろそろスギ花粉も下火になりつつあるが、何とか間に合いそうである。果たしてその効果のほどは、どんなものだろうか?

www.zoff.co.jp

muranaga.hatenablog.com

繊細な色使いが美しく、心を奪われた「手塚雄二展」(横浜 髙島屋)

ふと目にとまった新聞広告。その絵に惹きつけられ、横浜髙島屋で開催されている「手塚雄二展」に出かけた。おそらく院展などで何度か拝見しているのだが、手塚雄二という名前をちゃんと覚えていなかった。明治神宮に奉納される前の屏風絵を限定公開する記念の展覧会であり、その作品をまとめて50点ほど観る機会を得た。

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副題に「光を聴き、風を視る」とあるように、光や空気感が感じられる美しい日本画である。幻想的であったり、内面のイメージを自然に投影したりするような作品たちに、いっぺんに心を奪われてしまった。何と言っても、繊細な色使いが美しい。初期の作品から最近の作品まで堪能できる図録『手塚雄二作品集』(青幻社)からいくつか紹介したい。この図録は市販されている。

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手塚雄二作品集

手塚雄二作品集 光を聴き、風を視る

手塚雄二作品集 光を聴き、風を視る

下山観山の絵と交代する形で、明治神宮に奉納される屏風絵は「明治神宮内陣御屏風(日月四季花鳥)」、太陽と月を対比させつつ、四季の変化を描いたものである。

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明治神宮内陣御屏風(日月四季花鳥)(2018)

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蒼青(2011)

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おぼろつくよ(2012)

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月読(1999)

ランチはプチ贅沢、「中村孝明 YOKOHAMA」にて。

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中村孝明YOKOHAMA

食べログ 中村孝明YOKOHAMA

www.takashimaya.co.jp

www.nikkei.com

www.tezukayuji.jp