Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

身につまされながら一気読みした『GE 帝国盛衰史』

『GE 帝国盛衰史』は分厚いが、あまりにも面白くて一気読みした。20世紀を代表する経営者、ジャック・ウェルチ。「インダストリアル・インターネット」という名のもとに、今でいう DX(Digital Transformation)を標榜したジェフリー・イメルト。強烈なリーダーシップのもと、経営変革を成功させ、日本の総合電機メーカーのお手本のような存在であった GE が、なぜ崩壊したのか?

ビル・ゲイツが「知りたかったGE崩壊の理由がこの本でわかった」とこの本を高く評価し、「巨大化した組織の分か、意思決定、会計に関する詳細な洞察を与えてくれた。何らかのかたちでリーダーの役割を果たしている人であれば、この本から学べることは多いはずだ」と自身のブログの中で推薦図書として取り上げている(訳者あとがきより)。

No.1 の事業のみを残し、M&A を繰り返すことで、ウェルチの時代に絶世を誇った GE が、イメルトの時代に崩壊する。

この本を読むと、立派な業績・派手なPR・マーケティングの裏で、ウェルチの時代から、会計操作によって、当期の業績をよくする手口を多用していたことがわかる。そして「実業」であるインダストリー部門の業績を、GEキャピタルという「虚業」で利益を出して、見えなくしていた。

デジタル転換を志向したものの、製品開発よりマーケティング・PR が先行した Predix。インダストリアル・インターネットという素晴らしいコンセプトを実現するはずのソフトウェアは、実際にはきちんと動いていなかった。

長期サービス契約により、会計操作で将来の利益を先取りする GEパワー。

トップが主導するアルストム買収が、どんどん価値のないものになっていくのを誰も止められない。取締役会が機能していない。

アクティビストによる投資。取締役会への介入。自社株買いによる株価上昇、マルチプルの改善をトップが志向するも、企業価値自体が下がり続けているため、無駄にキャッシュを使っている。

そして明らかになった再保険の問題。イメルトの後継者のフラナリーは愕然とする。その厳しい現実からの改革をめざそうとしたフラナリー自身は解任される。

こういった GE 崩壊の歴史がつまびらかになっていく。

僕の個人的な経験によれば、GE のマネジメントは優秀である。業績達成に向けてのリーダーシップが素晴らしい。それを支える人事制度も先進的だったと感じる。シックスシグマ、Lean Startup(ファストワークス) など、その時に必要とされる方法論を、全社に啓蒙・普及させていく力もある。

そんな GE がなぜ衰退・崩壊していったのか?

この GE 崩壊の大きな要因として、僕がもっとも注目したのは、正しい報告が上がらない組織風土と、それを引き起こした業績達成重視のマネジメントである。 GE では業績達成に対するマネジャーへのプレッシャーが強く、上へは正しく報告が上がらない風土になっていた。正しい(悪い)報告をする=クビ、だったのだから。反対意見を許さない組織。思ったことを正直に言えない組織。この組織文化により、事業の真実の姿が覆い隠され、経営は知らず知らずのうちに悪化の一途を辿っていった。

この GE とは比べ物にならないくらいスケールは小さいが、日本の電機メーカーでも、「忖度」と称される正しい報告が上がらない組織風土から、GE と同じように不正な会計操作が行われ、それが明らかになった後は、儲かる(売れる)事業をどんどん売却して、かつてからはほど遠い小さな姿になった会社がある。東芝である。GE 崩壊のミニバージョン。この本を読んでいて、まさに身につまされた。