Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

『べらぼうくん』は「万城目ワールド」のルーツを辿る万城目学の青春記

万城目学の『鴨川ホルモー』『ホルモー六景』を一気読みしたことをよく覚えている。京都を舞台にオニを使って戦ごっこをするという荒唐無稽な物語である。その奇想天外な万城目ワールドの魅力にすぐにハマった。その後に読んだ『鹿男あをによし』は奈良が舞台で、鹿が人間の言葉をしゃべる話である。『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』は『鹿男あをによし』につながる良質な児童文学である。さらには大阪城を舞台にした『プリンセス・トヨトミ』、それとリンクする『とっぴんぱらりの風太郎』なども楽しく読んだ。

そして『鴨川ホルモー』や『プリンセス・トヨトミ』が映画化、『鹿男あをによし』はテレビドラマ化された。実写化された映像を観るたびに原作を読み返した。あるいは「栄西と建仁寺展」に行ったのに触発されて『鴨川ホルモー』シリーズを読み直したこともある。『ホルモー六景』の中に、建仁寺近くにある六道珍皇寺にある井戸の話が出てくる。閻魔のいる冥土とつながっている井戸である。「栄西と建仁寺展」には冥官であったとされる小野篁の立像が展示されていた。

万城目学の小説も楽しいが、エッセイ『ザ・万歩計』や『ザ・万遊記』、『ザ・万字固め』も、ユーモラスな内容が面白い。日常そして旅先の出来事について、ぬくもりのある文章でその思いがつづられている。瓢箪に夢中になったり、台湾で歓迎されたり、戦国武将によるサッカー日本代表を妄想したり。随所に描かれる東京と大阪の違いは、大阪に育ち東京に住んでいるマキメならではのものだろう。

このように万城目学の読書メモを辿ると、2008年とか2013年とか、10年前のブログ記事に行き当たる。

万城目学という小説家がどのようにして生まれたのか?『べらぼうくん』というエッセイは、万城目学が、大学受験に失敗してから、『鴨川ホルモー』で小説家デビューを果たすまでの10数年を振り返る青春記である。

自分の姿を少し自虐的に俯瞰しつつも、ユーモアのあるエピソードで構成されており、楽しく読むことができる。浪人、大学、就職、そして小説家になるために会社を辞める。ビルの管理人業務をしながら小説を書き、応募した賞に落ち続ける。それぞれの時代ならではの苦悩を抱えつつも、少しづつ何をやりたいのかに目覚めて、苦労しながら成長していく自分の姿を、万城目学らしい客観的な視点で振り返っている。

デビュー作である『鴨川ホルモー』が出版されるのは、ワープロで書いた原稿が、たまたま MS-DOS 形式でフロッピーディスクに保存でき、それによってオンラインのみで受けつける賞の応募に間に合ったかららしい。もしこの偶然がなかったなら…。万城目学という小説家はこの世に存在せず、僕は万城目学に夢中になることはなかったのだろうか?

荒唐無稽・奇想天外な「万城目ワールド」のルーツを知ることができる、万城目ファンなら必ず読むべき本である。