梅田望夫と茂木健一郎。これだけバックグラウンドも違うのだから、丁々発止の議論が展開されると思いきや、さにあらず。二人が思いっきり共鳴しあった対談が「フューチャリスト宣言 (ちくま新書)」である。全編を通して伝わってくるのは楽天的な明るさと、未来を担う若者たちへのまっすぐなメッセージである。
いくつかの記述が心に残っている:
- インターネットが破壊的・アナーキーであるがために日本の電機メーカーはインターネットに踏み込めなかった。
- シリコンバレーではコンサバティブが最後は負ける。今はまだ不完全なものでもそれを近視眼的に批判するのではなく、これは何かの「芽」に違いないと考える。
- 脳科学者にとってGoogleの最大の衝撃は good old fashioned AI でここまでやったということ。古典的な AI は終わっていなかった。
そして最も印象的だったのは、茂木氏が脳科学における「アインシュタインではなくダーウィン」をめざしているというくだりである。今は脳科学の進歩の過程においてはいわば暗黒の時代。アインシュタインのような理論を示すのは時期尚早であり、むしろダーウィンが出した突然変異と自然選択に相当するような意識の第一原理を提出する必要がある。そのために彼は毎日各界のプロフェッショナルと会って考え抜く、めまぐるしい生活を選び取ったというのである。
彼の「クオリア論」について、僕はずっと「これは本当に科学と言えるの?」という印象を持ち続けていた。たとえばフランシス・クリックやクリストフ・コッホの意識に関する研究に比べて思索の部分が多く、物足りなさと感じていた。そんな中、
という梅田氏のあとがきを読んで、こういう受け止め方もあるんだというちょっとした驚きがあった。そして自分が「茂木クオリア論」に対して抱いてきた印象がそう外れてはいなかったことを確認すると同時に、茂木氏が疾走する理由を少しだけ理解できたような気がする。
彼が語る「脳についての知見」を学ぶことより、彼の生き方からその本質を学ぶことのほうが、百倍以上価値がある。
- 作者: 梅田望夫,茂木健一郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/05/08
- メディア: 新書
- 購入: 15人 クリック: 170回
- この商品を含むブログ (680件) を見る
- 作者: 茂木健一郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/03/09
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 40回
- この商品を含むブログ (59件) を見る
二人の共鳴ぶりについてはそれぞれがブログに書いている(記者会見、鈴が坂道を転がるように)。