Muranaga's View

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The Economist 「ソーシャルネットワーキング」特別レポート:"A World of Connections"

ソーシャルネットワーキングが発達し人々のプラットフォームになりつつある中、The Economist が特集でこれを取り上げ、地球規模の新しい交流の時代の始まりであると、非常に前向きに論じている:

この特別レポートでは、ソーシャルネットワーキングに関する以下のようなテーマを扱っている:

  • なぜ Facebook は伸び、MySpace は勢いを失ったのか
  • どうマネタイズしているのか
  • 既存事業の推進にどう役立ち、新規のスモールビジネスの立ち上げにどう活用されているか
  • 勤務中にソーシャルネットワーキングを行うことの是非
  • プライバシーの問題
  • 将来像

このレポートの内容を簡単にまとめておく。以下、記事のタイトルや図をクリックすると原文のサイトに飛ぶが、原文を読むには The Economist 誌を購読する必要がある。

また日本の事情と比較する際に、つい忘れがちになるのは、グローバルのソーシャルネットワークは実名ベースであることであろう。

A world of connections(人と人とのつながりの世界)
オンラインのソーシャルネットワークはコミュニケーション、仕事、遊びをよい方に変えつつある(Martin Giles


Who will be my friend?

オンラインのソーシャルネットワークの代表は、6回目の誕生日を迎える Facebook である:

  • 3.5億ユーザ:国に換算すると中国・インドに次ぐ第3位の人口
  • 1日5,500万の更新、毎週35億以上のコンテンツが共有
  • 70% が米国外のユーザ

その他にも以下のようなソーシャルネットワークがある(図1):

  • MySpace:音楽とエンターテイメント
  • LinkedIn:ビジネス・キャリア
  • Twitter:140文字のコミュニケーション
  • Orkut:インドとブラジルで多く使われている
  • QQ:中国、Skyrock:フランス、VKontakte:ロシア、Cyworld:韓国、Muxlim:イスラム向け、ResearchGATE:科学者・研究者向け

Going public

1990年代半ばまでギークのものだったオンライン・コミュニティが、使いやすいインタフェース、粒度の細かいプライバシーの制御により、何百万人もの人が実名で使うソーシャルネットワークというパブリックな空間になった。

2009年10月の国別の利用時間を示したのが図2。今や若者だけでなくすべての年代で利用されている。ムンバイのテロやセレブの活動などリアルタイムの更新や、オバマ大統領の選挙活動に活用されている。


Sociable types

Delivery time

ビジネスの世界でも "Enterprise 2.0" ということばが作られ、ソーシャルネットワークやブログのような技術を職場に導入する動きが活発化している。

ソーシャルネットワークに懐疑的な人もいる。Facebook はどうやって収益を上げるのか。一時期大ブームだった MySpace の凋落。ソーシャルネットワークの広告ビジネスモデルには欠陥があると批評する者もいる。

1,400人もの CIO に対する調査では、勤務時間中にソーシャルネットワークへのアクセスを許している会社はたった 1/10 である。ソーシャルネットワーキングならぬ、ソーシャルノットワーキングが懸念されている。

このレポートではこれらの論点を扱い、下記を論じていく:

Global swap shops(地球規模の交換屋)
なぜソーシャルネットワークはこんなに速く成長したのか --- そしてどうやって Facebook が最有力になったのか

Facebook の驚異的な成長の最大の理由は「ネットワーク効果」("network effect")である。通信ネットワークは最初の成長がゆっくりでも、ある点を超えると飛躍的にその利用者数を増す。


Facelift

  • LinkedIn(現在 5,800万人):
    • 最初の100万人を獲得するのに16ヶ月
    • 最新の100万人を獲得するのにわずか11日
  • Facebook:(図3)
    • 最初の1.5億人の獲得に5年
    • それを倍の3億人にするのにたった8ヶ月

ネットワーク効果がさらにインターネットのグローバル性によって加速される。

  • Ning:
    • 2005年スタート以来2ヶ月で80ヶ国が登録
    • オーストラリアからザンビアに至るまで49万人のメンバーのいるネットワークがある
  • Facebook
    • 70言語、Facebook Lite をブロードバンドのない国へ提供

そして膨れ上がるデータを格納し処理するハードウェアコストの劇的な低下、無料のオープンソース・ソフトウェアが、ソーシャルネットワークのスケーラビリティを支えている。

Thanks for the memory

ソーシャルネットワークの拡大を支える3つの技術要素は以下の通り:

  1. 独自の高性能ソフトウェア技術
  2. 詳細なプライバシーの制御
  3. "apps" と呼ばれるプログラムを独立した他の開発者に作ることを許可

Facebook は独自のソフトウェア技術のソリューションを作り上げている。


こういった創意工夫により毎月25億以上の写真のアップロードが可能となった。

Facebook はプライバシーを評価する TRUSTe に、全米トップ20の一つに評価されるまでになっているが、それに至るまでにはいくつか問題を起こし、そのたびに修正してきている。

Facebook の "apps" 開発者は100万人以上、50万ものアプリが動いている(Twitter は5万アプリ)。昨年リリースした Facebook Connect により、Facebook のサイトに来なくてもその ID を他のウェブサイトやゲーム機器などで使えるようにした。これにより、利用者は新たにオンラインのグループを作る必要がなくなったのである。Connect を使ったサイト・機器(Xbox も含まれる)は約8万ある。

  • HuffPo Social News:Facebook ユーザは友人がどのブログを読んだり情報交換したりしているかがわかる
  • Netflix:友人がどの映画を見て感想を書いているかがわかる

Facebook の創業者 Zuckerberg 氏は、「全世界の人口を Facebook につないでインターネットの入り口」とし、「ソーシャル・グラフ("social graph")と呼ばれる人間間の関係地図を作りたい」という夢を持つ。Facebook Connect はその実現に向けて、Facebook を最有力のソーシャルネットワークにしたイノベーションと言える。

Facebookネットワーク効果は盤石に見えるが、数年前に MySpace が凋落した例もある(図4)。これはネットワークが本質的に大きくなれないことを意味するのではなく、MySpace 経営陣の失敗によるものである。技術を無視し、サイトへのトラフィックが増えるものの、本来の音楽・エンターテイメントと無関係な求人や占いのコンテンツを加えたことにより、サイトの中が散らかり放題になってしまった。


Facelift

Network defects

MySpace の新しい経営陣は不死鳥のような復活を狙っているが、一度ネットワーク効果を失い、それが逆に働くとそれを元に戻すのは難しいことを、ソーシャルネットワークの歴史は示唆している。

FacebookMySpace のような戦略的な間違いを起こしそうにない。なぜなら:

  • コンテンツではなく、人と人とのつながりを増やすことに注意を払っている
  • 実用本位で、共有のために必要な最良の技術提供を図っている
  • ハッカータイプの文化が、中毒となるようなサービスを生むイノベーションを作り出している
  • Twitter のような競合に対して用心深い

FacebookTwitter を買収しようとして断られたが、両者に共通するのは巨大な企業価値である。Twitter は黒字化していないが、VC から10億ドルの価値を、また Facebook はロシアの会社より100億ドルの価値をつけられている。


Twitter's transmittersツイッターが伝えるもの)
140文字の魔法

Twitter の創業者の一人 Biz Stone 氏は「ソーシャル錬金術」("social alchemy")ということばで、取るに足らない140文字のメッセージがリアルな価値を持つ様を説明する。空港の待ち時間でのつぶやきが、たまたま同じ空港に来ていた友人との出会いを生むかもしれない。そういうセレンディピティが5,800万もの訪問者を Twitter に引き寄せている。米国での成長に陰りは見えているが、日本やドイツでまだ伸長している。

Twitter's transmitters

TwitterFacebook は二つの重要な点で異なっている:

  1. 関係性:
    • Facebook:親しい友人との直接の交流
    • Twitter:知人だけでなく見知らぬ人への発信
      • 30万ユーザ中半数以上は74日間で1回未満
      • 10%の人のつぶやきが全体の90%を占める
      • 1150万アカウント中、1/5が一度もつぶやいていない
  2. コンテンツ:

    • Facebook:映像、写真などの交換(マルチメディア)
    • Twitter:半分ブログ、半分メール(文字)

Stone 氏自身は自分の会社を「情報カンパニー」と呼び、Facebook よりも Google に近いと考えている。生のデータを利益に変えるスマートな方法を考えられるか。それが彼らに与えられたチャレンジである。

Profiting from friendship(友情から利益を上げる)
批評家が考えるよりソーシャルネットワークにはお金儲けのチャンスがある


(村永註)この節ではソーシャルネットワークのビジネスモデルとその可能性をまとめている。
  • 広告、特にユーザ属性によるターゲティング広告
  • ゲーム、バーチャルグッズ販売
  • プレミアムサービスによるユーザ課金(いわゆる "freemium" モデル)
  • 検索エンジン連動(コンテンツ提供)

利益のことを心配せずに、まず多くのユーザを集めることに集中することが、ここ数年のオンライン・ソーシャルネットワークの戦略である(「URL 戦略」= "Ubiquity first, Revenue Later")。問題はそのユーザを広告収入に変えられるか、である。ソーシャルネットワークの広告モデルに疑問を持つ人は、次の2点を問題視している:

Elusive click-throughs

掴みどころのないクリックスルー率のため、広告を出すことに企業・ブランドも慎重であったが、2009年の米国のソーシャルネットワーク業界の収入は、4% 伸びて12億ドルとなった。オンライン広告市場が縮む中での達成である。凋落する MySpace を除けば、さらに数値はよくなる。さらに2010年は 7%以上伸長すると見込まれている。

クリックスルー率が低くてもなぜソーシャルネットワークは人気が出ているのだろう?いくつかの理由がある:

  • 文句なしの聴衆の数:Facebook は地球上のどのテレビネットワークよりも大きい
  • 会員属性を使ったレーザー光線のように正確なターゲット広告
  • ROI の実績が出始めている(例:ソニーピクチャー、トヨタ

Rock, baby


In friends we trust

ソニーピクチャーはテレビキャンペーンの後、Facebook に連続してターゲット広告を打った("District 9" は若い男性、"Julie & Julia" は中年女性、"The Ugly Truth" はより若い女性に向けて)。トヨタMySpace 中にロックバンドのコンテストをやり、ブランド認知で数倍のプロモーション効果を得た。

こういった事例は、ソーシャルネットワークの利用者は企業名・ブランド名と関与するものだということ、さらに口コミマーケティングの力を示している。知人からの推薦・レコメンデーションが、購買の意思決定にはとても重要な役割を果たすのである(図5)。

Facebook は Nielsen と組んで、ソーシャルネットワーク広告のブランド認知効果測定のベンチマークを始める。さらにアンケートや映像の中にユーザコメントをつけられるような、新しい種類の広告を試している。Facebook の2009年の広告収入は 5億ドル以上と見積もられており、また2009年半ばにはキャッシュフロー黒字化を果たしている。世界不況の中でこれは大した実績と言えよう。

Fun and gains

広告ビジネスモデルだけではない。アジアのソーシャルネットワーク(日本の GREE、中国の Tencent)では、ゲームやバーチャル・グッズの販売から利益を出している。Tencent は10億ドル超の売上を持ち、うち 7.2億ドルはオンラインゲーム中の剣やバーチャル・グッズから成り立っている。韓国の Cyworld や日本の Mixi も自分のページをパーソナライズする背景などの道具一式で大きく稼いでいる。

米国の Hi5 は仮想通貨を使うゲームを複数立ち上げているし、Ning はギフトを狙っている。ユーザは50セントから10ドル程度のデジタル・アイテムを売ることを許されており、毎月40万個以上が交換されている。Ning は利益をユーザと半々に分け合っており、広告やネットワーク管理フィーに加えて新たな収益源となっている。

このビジネスモデルのよいところは、仮想アイテムなので作るコスト・在庫コストが最小であることだ。さらに閉鎖市場のため、大きな利益を出る価格設定が可能である。アジアがこの手の最大マーケットだが、米国でも2009年に10億ドル、2010年には16億ドルになると見込まれている。

Plain or de luxe?

もう一つの儲かるビジネスモデルは、プレミアム・サービスでユーザに課金する「フリーミアム」("freemium"、一部の有料顧客が他の顧客の無料分を負担する)モデルである。LinkedIn は無料の基本サービスを提供すると同時に最高500ドルの月額課金を行っている(たとえば有料ユーザは大量の紹介メールを送れる)。年間 1億ドルの売上があると言われ、さらに企業側にもツールを提供して収益を上げている。

検索エンジンとの契約で利益を得るソーシャルネットワークもある。TwitterGoogleMicrosoft の Bing にそのつぶやきのデータベースを検索対象とさせる契約を2009年10月に締結した。これにより2009年黒字化したとも言われている(村永註:Google と $15m、Microsoft と $10m。BusinessWeek)。Twitter はさらに二つの方法で収益を上げようと計画している:

  • Twitter 上の議論を分析するツールや、企業として認証されたアカウントの提供で企業に課金する
  • Google が行っているようなターゲット広告を Twitter 上で展開する
Twitter の中では 20% が固有の企業名や製品名であるとの調査もあり、大企業ばかりでなく何百万ものスモールビジネスをも惹きつけている。

A peach of an opportunity(機会の結実)
スモールビジネスは大きくなるためにネットワークを使っている

大企業よりもスモールビジネスに対して、ソーシャルネットワークは大きな影響を持っている。既存のスモールビジネスにソーシャルネットワーキングが役立っている例は以下の通り:

  • 広告・告知
    • Mission Pie:「今年の新鮮な桃を10時から売ります」といった告知を Twitter で実施。今では1,000以上のフォロワー
    • Kogi BBQ:韓国料理のトラックの場所を Twitter で告知。今では 52,000以上のフォロワー
    • Sprinkles:Facebook に 94,000人のファンを持つカップケーキのベーカリー。無料のケーキをゲットするパスワードを毎日ポスト
  • マーケティングのためのフォーカスグループ
    • 世界最大最速かつ最もダイナミックなフォーカスグループ(by Nielsen)
  • アイディア開発
    • Cordarounds.com:自転車で通勤している人からアイディアを募り、夜間でも見えるパンツを開発
  • 新規顧客開拓
    • 英国の17%のスモールビジネスが Twitter を新規顧客開拓に使い、年間$8,000以上のマーケティングコストを節約

Charging for batteries, Better than the real thing

ソーシャルネットワーキングによるつながりは新規ビジネスをも可能にしている。iPhone のバッテリーで中国のものを使うことにした 3GJUICE も一つの例。

さらに大きい例としては、Zynga、Playfish、Playdom といったソーシャルゲームの会社が挙げられる。Zinga のソーシャルゲーム "FarmVille" などには、友人どうしでゲームの状態を公開し合うなど、競争心に訴える仕掛けもあり、またプレーヤー間で協力させる仮想ギフトや仮想通貨の仕掛けもある。友人をゲームに招待して参加してもらったり、ゲームの結果を Facebook 上で共有したり、Facebook との連携で「ネットワーク効果」を高めることで、中には1週間で1,000万人のプレーヤーを獲得したゲームもある。

この驚くべき成長は、ソーシャルゲームが無料であるという事実に助けられている。ゲームの中でデジタル・グッズを売る、広告を打つ、販促により新たなプレーヤーを獲得する、そういったことでソーシャルゲームの会社は収益を上げている。いくつかの問題を起こしつつも修正しながら、ソーシャルゲームの分野は大きくなっており、米国の市場は2012年までには22億ドル(2009年が3.75億ドル)になる可能性がある。

スモールビジネスにとって、ソーシャルネットワークは成長の鍵となるものである。

Yammering away at the office(オフィスでぺちゃくちゃしゃべる)
仕事の邪魔?それともボーナス?

ソーシャルネットワークに無駄に費やされる時間がどれくらいか調査することに、びっくりするほどの時間が無駄に費やされている。そういう調査では以下のような結果を出している:

  • ソーシャルネットワークの個人利用は、英国企業に年間14億ポンド(23億ドル)の生産性を失わせる(Morse)
  • 従業員に就業時間中の Facebook の利用を禁止すると生産性が 1.5% 向上するだろう(米国 Nucleus Research)

こういった調査では、人々が空いた時間があれば他のことをせずに働くだろうと仮定している。とするならば、水飲み器も友人にメールを送信することも、会社は禁じるべきである。スマートフォンからウェブ・アクセスができる以上、会社でのウェブアクセスを禁じようとするのは、それこそ時間の無駄である。

新しい技術は最初は反発を持って迎えられ、のちに広く受け入れられる。MicrosoftExcel でさえ、企業の管理者は懐疑的であったのだ。ソーシャルネットワークExcel ほどビジネス向けに設計されてはいないが、「IT の大衆化("consumerisation")」の流れの中にある。AppleGoogleFacebook のおかげで、人々は企業の中で使うものよりも優れた通信機器やウェブ・アプリケーションを使うことができる。クラウドコンピューティングのおかげで、人々はどこにいても、たとえオフィスや工場の中にいても、そういった機器やアプリケーションを使うことができる。

職場外での情報共有やコラボレーションが進めば進むほど、人々は、よりオープンで協調の出来る場所を企業に期待するようになる。多くの企業は地域別・生産ライン別・機能別のサイロ組織("silo")に分かれており、情報共有が難しく、同じ業務が二重に行われたり、情報が共有されずに組織内に溜めこまれたりしている。

I spy A-Space

情報を組織内に溜め込む企業は利益を失い、インテリジェンスの世界では生命を失う。最近の米国の航空機爆破未遂テロは、諜報機関の間での情報共有をさらによくする必要性を明らかにした。諜報の世界では、A-Space と呼ばれるスパイ間の Facebook のようなシステムが開発され、1.4万人の間で情報共有がなされている。

ソーシャルネットワークは企業組織の障壁を壊すためにも用いられている。Amazon の子会社であるオンライン小売の Zappos では Twitter のような公開ネットワークによる情報共有を促進している。顔のない企業がより人間的に、顧客に見えるようになる。

しかし多くの企業では、すべてを公開してしまう考え方には抵抗感があるだろう。

  • 従業員が機密情報をうっかり漏らしてしまうのではないか
  • ライバルとなる企業が次のイノベーションに気づいてしまうのではないか
  • 内部の IT システムと統合するのが難しいのではないか

と、やきもきしている。製薬系・金融系の会社では情報の自由な回覧を警戒している。

そういう中、Enterprise 2.0 と言う企業向けのテーラーメイドのネットワークが関心を呼んでいる。企業のファイアウォールの中で、パブリックから切り離された形で運営される、TwitterFacebook のようなソーシャルネットワークである。人事情報からプロファイルを引き出せ、さらに IBM の Lotus Connection や Salesforce.com の Chatter は企業内 IT システムと容易にインテグレートできる。ダノン(Danone)内では90,000人の従業員向けに社内 "Facebook" を実現すべく100ヶ国にわたって検証を実施している。

Goodbye to silos

Oce(オランダのプリンタ企業)では企業版 Twitter である Yammer が導入され、業務が重複しているところを見つけたり、営業見込み情報を共有したりするのに用いられている。Salesforce.com のトップである Marc Benioff は、クラウドコンピューティングに次ぐ IT 業界の次の大きいビジネスとして、ソーシャルネットワーキングを位置づけており、それを裏付ける分析もある(図6)。


Money talks

一方で企業内ソーシャルネットワーキングの普及にはいくつかのハードルがあるが、それに対する反論・反証もある。

  1. ソーシャルネットワークの価値に対する疑問
    • → 知識ワーカーは1週間の中で6-10時間、情報収集に費やす(IDC調査)。ソーシャルネットワークによりそのデータ収集を加速し、その分を他の仕事にまわせる。
  2. 従業員がポリティカルに正しくないコメントをブロードキャストしてしまうことへの恐れ
    • → 心配し過ぎ。従業員が何か適切でないものを投稿するためにソーシャルネットワークの出現を待っていることはない。しかもすべてのコメントは追跡可能なので、投稿には気をつけるようになる(MIT McAfee 教授)。
  3. インフォーマルなグループをマネジャーが制御できなくなる懸念
    • → これこそがソーシャルネットワークの価値。新しいアイディアや洞察はしばしばインフォーマルなコンタクトの中から生まれる。

A flowering of ideas

既存の IT システムが組織の壁を強化して、組織間の架け橋になっていないのが問題なのである。Yammer や Chatter はオープンなワークプレースを実現し、他の人の仕事の様子が見え、共有を促進する。よいアイディアはどんなところからでも生まれる可能性を秘めているのであって、これこそがソーシャルネットワークを祝福すべき理由のはずである。「従業員を信じるならば、ソーシャルネットワークを採用することに何の心配もいらない。」(Socialtext のトップ Eugene Lee)

企業内ソーシャルネットワークは、知識をつかまえたり、さまざまなテーマについての専門家を見つけたりする素晴らしい方法である。初期の知識マネジメントシステムは、退屈な文書の集積に過ぎなかった。コンテンツに対して、ノウハウを持った人がコメントをつけるソーシャルネットワークはそれよりも大きく進歩している。IBM では新しいソーシャルネットワークをつくるだけでなく、ノウハウを外部と共有するために一部を切り分けることもできる。

さらに分析ツールを用いて、人々がいつも誰とコンタクトしているか、どんな話題について議論しているかを追跡することができる。この「ソーシャルなビジネス・インテリジェンス」("Social Business Intelligence")により、プロジェクトに適した専門知識と人脈を持った人材を見つけることができる。

しかし同じデータを昇進候補者について判断するのに使ったり、同僚を監視したりするのに用いることも可能であろう。こういう不快なことが起こらないようにするためには、個人データの扱いが企業内でも、パブリックなネットワーク上でもとても重要な問題になる。


Social contracts(ソーシャルな契約)
賢い雇用方法

仕事関連のソーシャルネットワークには、LinkedIn、Viadeo(フランス)、Xing(ドイツ)があり、労働市場を効率化・透明化するといった影響を与えている。

  • ビジネス・プロフェッショナルにとって:将来のキャリアパスを示すデータを集めるサービスを開発している。
  • 企業のリクルータにとって:採用(サーチ)コストを下げられる。
    • ヘッドハンターにかかるコストを LinkedIn で節約
    • US Cellular は LinkedIn で100万ドルをセーブした

Privacy 2.0(プライバシー 2.0)
少し与えて、少し得る

ソーシャルネットワークの歩みを止める厄介な問題があるとしたら、それはプライバシーに関わるものである。プライバシーは、ソーシャルネットワークのビジネスモデルの根幹に関わる問題だけに、論議を呼ぶ。ユーザが公開する情報を制限するようにしないと、そのサイトには入会しない。しかし情報をプライベートにし過ぎると、サイト内のトラフィックは減り、広告ビジネスが成立しなくなる。

ユーザが賢くなり自分でデータをコントロールするようになりつつある。約60%の成人がオンラインのプロファイルへのアクセスを制限しているばかりか、若者も同様にプライバシー情報の制御をしている。これを受け、MySpaceFacebook など、ソーシャルネットワークの多くは、広範囲なプライバシー制御方法(データの保護を異なるレベルでオン・オフできる)を提供している。その一方で、プライバシーに関する声明を、サイトの奥深いところに置いてわかりにくくしているところも多い。サイトとしてはなるべくプライバシーの問題には触れないようにして、できるだけコンテンツを共有して欲しいのである。

We'd like to see more of you

Facebook がプライバシーの設定を単純にする計画を発表したところ、プライバシーを重視するグループや利用者から嵐のような抗議を受けた。Facebook の Zuckerberg 氏は、社会的規範が変わりつつあり、人々は情報をより広く共有したがるようになりつつあるとの認識を明らかにした。これに対して、一部のプライバシーグループは FTC へ抗議することも行っている。

アプリケーション開発者と情報を共有することも微妙な問題だ。また広告との連動も慎重な扱いが必要である。人々の行動に基づくターゲット広告が問題になっているが、Facebook 側は入会時に明確に広告に対するパーミッションを利用者に求めているとしている。

How much is a free lunch?

Facebook などのソーシャルネットワークの利用者の多くは、サービスが無料であるのだから、ターゲット広告を受容する心の準備はできているようである。しかし Facebook が考えるように、自分たちに関わる情報をそれ以上多く共有することに賛同するかは不明である。

Twitter の Stone 氏は長期的にはよりオープンな方向に向かうと見ており、Twitter の利用者は喜んで、自分たち自身に関わる情報を共有していると主張している。そして最近、利用者の物理的な位置情報を付加できるようにした。ソーシャルネットワーキングの次の大きな波は、携帯電話とそれを持ち歩く人々の場所に関わると見ているからである。携帯電話によりソーシャルネットワーキングに、さらに大きな変化が見込まれている。

Towards a socialised state(社会交流が盛んな状態へ向けて)
制限のないコミュニケーションの喜び

将来的にはさまざまな機器がソーシャルネットワークにつながるかもしれない(知人の間で話題になっているテレビ番組を DVR が自動的に録画する、カーナビが友人にそちらに向かっていることを告げる、あなたが朝何を飲んだかをティーポットがつぶやく)。しかし普及しているという意味で、最も重要な機器は携帯電話だ。ソーシャルネットワークにつながっている携帯電話は、2009年1.4億だったのが2013年には4倍の6億になるという予想もある。

Dial-a-pal

まずは新興市場において、携帯電話、あるいはネットブックのような機器が、携帯電話ネットワークを通して、ソーシャルネットワークにつながることで新しいユーザを獲得する(ケニヤの Sembuse、南アフリカの Mxit)。

先進国においても、高速かつ安価なモバイルのブロードバンドが携帯電話をソーシャルネットワークへのアクセスデバイスとしている。日本の Mixi は1,800万人の会員を持つが、アクセスの多くは携帯電話ユーザからであり、一日に4,5回更新している(図7)。Facebook は6,500万人の携帯電話ユーザを持ち、アクティブユーザのほぼ半数を占める。


On the move

On location

このトレンドから、次の大きなこと(the next big thing)は、地理ネットワーキングアプリケーション(geo-networking apps)になりそうだ。ここでは仮想世界のデータと現実世界で出合ったものとが結びつく。偶然の出会いを促すような Foursquare や Gowalla といったスタートアップが事業開拓を行っており、Twitter も同様のものを計画している。人々のつぶやきに位置情報を付加してもらい、広告やサービスを提供するのである。

一方で、位置情報を追跡されるのを嫌がる人もいる。

ソーシャルネットワークを運営する者にとって、位置情報を使うネットワークは地球規模のオープン性をめざすものである。Facebook の創業者であるZuckerberg 氏はその可能性を信じ、「世界大戦を知らない我々の世代に、おそらく最大の変化の力」となる人間間の相互関係をもたらすと考えている。Twitter の Stone 氏も「先は長いが Twitter は世界を変える潜在力を持つ重要な何かである」ととらえている。

インターネットが出てきた時もこのように言われ、またそれに懐疑的な議論もあったが、結局、AmazonGoogle といった大企業が現れ、生産性を高めたりアイディアを作り出したりする新しいツールとなった。ソーシャルネットワークについても、似たようなことが起こりつつある。インターネットを創った Tim Berners-Lee 卿がその著書 "Weaving the Web" の中で、インターネットを技術的な創造というよりは社会的なものとして説明し、その究極のゴールとして、何よりも早く、人々が協調して働くことを容易にすることを掲げている。

その究極のゴール達成に向けて、ソーシャルネットワークが既に多くのことを成し遂げていることをこのレポートでは論じてきた。人々が実名を使ってオンラインで出会う場所を作った。企業が顧客にリーチする新しい方法を提供した。労働市場において採用をやり易くした。そして会社内の情報のやりとりをスピードアップした。

そして最も重要な貢献は、ソーシャルネットワークのサイトが、自由で強力なコミュニケーションと協力のツールを、インターネットにアクセスできる地球上のすべての人に提供したことにある。この技術の民主化により、ウェブの社会化が進み、ビジネスや政治の世界との関わりと同様、人々の交流するやり方が根本的に変化した。

ほんの数クリックで誰でも地球規模の議論に参加することができる。これはほんの少し前までは財務的・技術的に力を持つ限られたグループにしかできなかったことである。Facebook をはじめとするソーシャルネットワークが作り上げた技術のおかげで、同時に何百万もの議論がとても簡単に実現するようになった。これにより、世界はよりよいものになっている。

Sources and acknowledgements 参考文献と謝辞

本ブログにおける The Economist の記事に関するメモ・まとめ