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藤田真央による至福のブラームス: ピアノ協奏曲第2番を読響の客演で堪能した(サントリーホール)

チケットが取りにくくなり、「追っかけ」が難しくなってきた藤田真央のコンサート。読響(読売日本交響楽団)の会員である友人が、客演公演のチケットを取ってくれたおかげで、思いがけず半年ぶりに真央君の演奏を楽しむことができた。

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曲目:

ブラームスのピアノ協奏曲第2番。この難曲は 4楽章から構成され、「ピアノ独奏付き交響曲」とも称される大曲である。事前に福間洸太朗さんの YouTube で曲の解説と聴きどころを予習し、一層の期待感をもってコンサートに臨んだ。読響の指揮はヴァイグレ、コンサートマスターは長原幸太さん。


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ホルンによる第1主題をピアノが引き継ぐ冒頭部。いきなり「真央君だー」と感じる粒だった清らかな音のカデンツァ。約50分にわたる演奏はあっという間に感じられ、壮大な中にもロマンティックな要素が散りばめられていた。エネルギッシュなフォルティシモでも音が割れない一方で、美しい弱音の時には指先にまで神経の行き渡った演奏で、真央君らしさを感じる。一音一音を大切に弾く繊細で美しいピアノ。それに絶妙に合わせた一体感のあるオーケストラ。ピアノとオーケストラが溶け込むような素晴らしいハーモニーだった。

第2楽章の展開部では、福間洸太朗さん曰く「最難関」のオクターヴと重音の連続パートがある。真央君はその大技の難しさを感じさせず、さらりと弾いており、その技術の高さを示していた。

第3楽章は荘厳。遠藤真理さんのチェロの独奏が美しかった。曲が終わった後、真央君に導かれるように遠藤さんがステージの前に出て来て、拍手に応える姿が印象的である。

このコンサートは、日テレで放映予定とのこと。

終演後は、募金箱のところに真央君も立っていたそうなのだが、その場に気づかず残念な思いをした。背の高い指揮者のヴァイグレに気を取られてしまったこともあるが、もしかすると真央君やオーケストラのメンバーは少し遅れて現れたのかもしれない。

さて、会場のサントリーホールへは、芝公園にあるオフィスから歩いて 20分。お気に入りの BRASSERIE LE VIN で夕食してから、ホールに向かった。仕事を終えて、歩き、食事して、音楽を聴く。これほど至福の夜はない。気を利かせて、チケットを取ってくれた友人に感謝の気持ちでいっぱいである。

家に帰ったら『指先から旅をする』をじっくり読むつもりである。第1部は藤田真央の語り下ろし、第2部は自筆である。演奏家としての日常、勉強や練習方法、指揮者やオーケストラとのリハーサルでの議論や音の合わせ方など、演奏家の視点から語られており、非常に興味深い内容である。ブラームスの2番についても、山形交響楽団との演奏時の指揮者との会話から生まれた冒頭のピアノの拍の取り方を変えてみるなど、面白いエピソードがある。

「作品や作曲家に最大限の敬意を払う」「きちんと練習を重ねてすべての音を意味あるものとして弾く」と表現されているように、藤田真央のストイックなまでの音楽に対する姿勢と誠実な考え方・努力が伝わってくる本である。

都響が真央君のブラームス1番の演奏を、期間限定で公開しているので、これもぜひ見るべきである。


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