Muranaga's View

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歴史を科学する --- 『銃・病原菌・鉄』

なかなか身につかない歴史 --- そんな中で鮮明に覚えている人類史の本がジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄 ― 1万3000年にわたる人類史の謎』(上)(下)である。

なぜ人類社会の歴史はそれぞれの大陸で異なる発展をしたのか?なぜ現代世界における社会の間の不均衡は現在の形になったのか?その最たる例が16世紀のスペイン人によるインカ帝国の征服である。その直接の要因は本書のタイトルに象徴される「銃・病原菌・鉄」を持っていたか否かの差であるのだが、著者はさらに問う。これらの直接の要因がユーラシア大陸では早く誕生し、新世界では遅れて登場した究極の要因は何なのか?と。

その究極の要因が「人々の生物学的な差ではなく、置かれた環境の差異によるものである」というのが本書の主張であり、直接の要因と究極の要因の因果関係の連鎖を、進化生物学・地質学の知見もふまえながら「科学的に」論証していく。「なぜ?」という問いを繰り返し、そこにできる限り定量的なデータをもとにした分析を加え、歴史の中に予測可能なパターンを見出そうとする。まさに「歴史を科学する」本と言えよう。

上巻の P.125 に究極の要因から直接の要因に至るまでの因果の連鎖の概略が示されている。本書では究極の要因はユーラシア大陸が東西方向に伸びていることであるとする。大陸が南北ではなく東西方向に伸びていたため、植物の種の分散・栽培地域の伝播・拡大が容易であった。またそこに家畜化に向いた野生の動物(たとえば馬)がいたため、多くの植物栽培と家畜化が進み、余剰の食料を持つことができた。それにより人口が稠密な社会の形成が可能となり、政治機構や文字が生み出され、技術が発展した。また動物の持っていた疫病の病原菌もそういう社会の中で進化していった。

このように環境的な要因により大陸間で文明の差が生まれていったことを仮説とし、本書全体を通じてその謎解きをしていく。新しい人類史・歴史の視点を提示した本である。

銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

同じ著者による近著『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』(上)(下) はまだ積読状態にある。

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)