Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

シャープの電子辞書 Brain は Amazon Kindle をめざす?

電子辞書好きな僕だが、シャープの電子辞書は英語の辞書が充実しておらずこれまで気にとめていなかった。しかし数日前に発表された新製品 Brain シリーズについては、機器単体ではなくコンテンツ流通という新しいビジネスを狙っているように見えて、その観点から注目している。この電子辞書は、PC 経由でインターネットにつなぎ、自由に書籍コンテンツや専用アプリケーションをダウンロードして追加できるようになっている。

カシオの電子辞書もインターネットからコンテンツを増やすことができるが、ちょっとしたゲームを提供する程度であり、購入したユーザのサポートに主眼があるように思う。シャープの Brain も当面はインターネット経由でコンテンツ追加できる、という打ち出しだろう。だが将来的には iPod / iPhone + iTunes 同様、「特徴ある端末」を起点にそのコンテンツ流通という新しいプラットフォーム型の収益モデルを追求しようとしている、というのは深読みし過ぎだろうか。

Brain が「辞書」を出発点としている意味では、iPod よりもむしろ新しい「本」をめざしている Amazon Kindle に近いかもしれない。Kindle を手に取った時は、その非対称な筐体がプラスティック製でちゃちな作りという印象を持ったが、スクリーンは 160dpi 相当の電子ペーパーであり、紙のような感覚をうまく出している。Kindle は端末そのものよりも、Amazon というサイトと一体化して作られるコンテンツ配信プラットフォームのビジネス・エコシステムの方が興味深い。リアルの本の巨大な EC サイトということで出版社と交渉力のある Amazon が電子配信をやることが鍵であり、出版社や新聞社が紙媒体の 1/3 から 1/2 の価格で同じコンテンツを電子的に提供する。無線通信費は Amazon が肩代わりするので、利用者は「送料無料」で電子コンテンツをいつでも購入できる。Kindle はまだ成功しているとは言い難いが、そこそこに立ち上がっているようである。その使用レポートはたとえば以下にある:

Brain が Kindle のようなコンテンツ配信の端末になるためには、独自開発の記述形式 XMDF が広まり、コンテンツプロバイダが賛同してくれることが最初のハードルになろう。その点、この記述形式はケータイにも採用されており、普及しつつあるようだ。日本の電子書籍市場もケータイを中心に大きく伸びている(インプレスR&Dによる調査)。

Amazon Kindle 電子書籍市場

そして成功に向けて最も重要となるのは、Brain 端末そのものが持つ魅力である。電子辞書を出発点とした端末は、カラー液晶を生かしたカラーマーカーや字幕表示などの特徴的な機能を持つ。端末の特徴を活かすコンテンツがあって初めて利用者を増やすことができ、利用者が増えればコンテンツも充実するという正のスパイラルに入ることが可能となる。

Brain の製品発表を見て、少し深読みと妄想が過ぎてしまったかもしれない。ただ機器メーカーがネット家電で新たなビジネスを作ろうとするなら、このようなアプローチ以外あまり考えられないというのも事実である。その典型的な成功例が iPod + iTunes であり、メーカーは「魅力的な機器」を出発点に、それをコンテンツやアプリケーションのプラットフォームにすることを考えていくのが、脱コモディティ化への一つの道なのである。