Muranaga's View

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新型レヴォーグ:車載インフォテインメントのソフトウェア基盤は Linux と推測

新型レヴォーグの顔とも言える大きな縦型のセンターインフォメーションディスプレイ。情報とエンターテインメントを扱うことから、車載インフォテインメント(英語では IVI: In-vehecle Infortainment)と呼ばれるシステムである。iPad のようなタブレットが車に載っており、地図によるナビゲーション、音楽、テレビ、ラジオ、電話といったアプリケーションが動き、さまざまな設定を行うことができる。スバルはこの IVI システムを STARLINK と名付けている。

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レヴォーグの IVI:センターインフォメーションディスプレイ

このセンターインフォメーションディスプレイで何ができるのか、わかり易く紹介した動画がある:


【新型レヴォーグ】「センターインフォメーションディスプレイ」を細かくチェック!

元ソフトウェア技術者としては、どんなソフトウェアを使って、このシステムが作られているのかが気になる。レヴォーグの 700ページもの電子マニュアルを拾い読みしていると、オープンソース・ソフトウェアのライセンスの項があるのに気づく。そこには、このシステムで使われているオープンソース・ソフトウェアの使用許諾や著作権を確認できる、デンソーの Web サイトへのリンクがある。そう、このシステムはデンソーが開発しているのである。

www.denso.com

この使用許諾には、各種オープンソース・ソフトウェアのライセンス条件や著作権が記載されている。ここから関連する情報を少しづつ調べてみると、なかなか興味深いことがわかってきた。

まず一番最初に出てくるのが何と Linus Tovalds。言わずと知れた Linux の開発者の名前である。Linux カーネルの vmlinux を圧縮した bzImage ファイルの使用許諾が GPLGnu General Public License)であると記述されている。そして Linux 関連のソフトウェアのソースコードとして、ログを取得して管理する dlt-daemon や、Linux の無線 LAN インタフェースのファイルがリンクされている。

この dlt-daemon は、Diagnostic Log and Trace(診断ログとトレース)の略で、欧州の車載ソフトウェアの標準化団体 AUTOSAR(AUTomotive Open System ARchitecture)で仕様が定められた ECU のログ管理プラットフォームであり、GENIVI Alliance という標準化団体が Linux での実装を行っている。

IVI(車載インフォテインメント)がどういうシステムなのか。そしてその標準化団体の一つである GENIVI について、日本語で書かれた 2011年の記事がある(前編後編)。

monoist.atmarkit.co.jp

最近の IVI の動向を調べてみると、プラットフォームを Linux ベースで標準化する動きとして、AGL(Automotive Grade Linux)があることがわかる。2020年4月に書かれた解説記事によると、トヨタ主導のもと、全世界で150社以上が参画している車載システムのオープン・プラットフォーム推進組織である。非競争領域である IVI のプラットフォームの開発を標準化すること、そこにオープンソース・ソフトウェアを採用することで、開発コストの削減や市場投入スピードの短縮を狙った動きである。トヨタ主導の AGL には、当然、デンソーやスバルも参画している。

jidounten-lab.com

そして2020年1月に、スバルの 2020年の米国版アウトバックとレガシィの IVI にAGLソフトウェアが採用されることが発表された。この記事の写真に写っている IVI は、レヴォーグに採用されているものと同じ、縦型のセンターインフォメーションディスプレイである。そう、いち早く米国版アウトバックレガシィで採用されたシステムが、日本のレヴォーグにも採用されたと考えられる。つまり新型レヴォーグの IVI の OS は Linux(AGL: Automotive Grade Linux)であると推測される。

prtimes.jp

もう少し、オープンソース•ソフトウェアのライセンス記述について見ていこう。次に出てくるのが、Cinemo という会社の名前である。IVI のマルチメディア処理(メディア管理、再生、ストリーミング)や Apple CarPlayAndroid Auto などデバイス連携のミドルウェアを、Tier 1 向け、あるいは OEM で提供している会社である。組み込みのリアルタイムOSLinuxQNX など多くの OS に対応している。

デンソーと Cinemo でソフトウェア開発キット SDK が作られているようだ。ググってみると、車載インフォテインメント・システムに関して、デンソーと Cinemo の協業に関する2017年のプレスリリース記事が見つかる。この記事によると、日本の大手自動車 OEM 向けに「デンソーの次世代高性能インフォテインメント・プラットフォームをCinemoの統合ミドルウエアに結合」とある。また2019年にデンソーテンとの4年に及ぶ協業を今後も続けるとのプレスリリースもある。

ここまででわかった情報を総合してみると、新型レヴォーグのセンターインフォメーションディスプレイは、OS が Linux。そのプラットフォームの上に、Cinemo のメディア処理やスマホ連携のミドルウェアデンソーデンソーテン)のカーナビゲーションを載せたシステム構成であることが、見てとれる。

オープンソース・ソフトウェアのライセンスや著作権の記述を眺めていると、GPLApacheMozillaBSD など、さまざまな条件のソフトウェアが混在していることがわかる。なかには X コンソーシアム(Unix 上の X ウィンドウシステム)の 1987年の Copyright が含まれており、思わず懐かしさを感じてしまった。Linux が作られたのが1991年。僕が Linux や X ウィンドウ、Gnu のソフトウェアをノート PC で動かし始めたのが 1993年頃だ。Linux のバージョンは 0.99 だったと記憶する。オープンソース・ソフトウェアコミュニティーの 30年以上にわたる開発の蓄積が、新型レヴォーグの車載インフォテインメントの実現に、脈々とつながっているのである。

レヴォーグの電子マニュアルの拾い読みから始まった、少しマニアックな探索調査の旅。オープンソース・ソフトウェアの使用許諾と著作権の記述からファイル名を確認して、それがどういう機能のソフトウェアか、誰が作ったかを調べる。さらに関連する情報をググってみる。元ソフトウェア技術者として懐かしさを感じるとともに、車載インフォテインメントについて学ぶよい機会であった。

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