Muranaga's View

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ショパン・コンクールをオンライン映像配信で楽しんだ

第18回ショパン国際ピアノコンクールは、反田恭平さん 2位、小林愛実さん 4位という日本人のダブル入賞という喜ばしい結果となった。

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上記のサイトからは、入賞者の演奏動画が 1次予選から決勝までまとめられている。

そう、今年のショパン・コンクールは YouTube Chopin Institute のチャネルで、ライブ配信されたのである。春の予備予選から、10月の本選まですべての演奏が配信され、自宅にいながらにして、コンクールを視聴することができた。ライブ配信後まもなく、コンテスタントごとにその演奏のアーカイブ映像が観られるようになっており、時差を気にすることなく、気になるコンテスタントの演奏を聴くことができる。また各コンテスタントを紹介するインタビュー映像も豊富に提供されている。

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画期的である。2015年の第17回も YouTube で配信されていたと聞くが、こんなに大々的にやっていたかしら?

ライブ配信に気づくのが遅かったとはいえ、気づいてしまった以上、しかたがない。4年に一度のワールドカップの時に「にわかサッカーファン」になるのと同じノリで、「にわかクラシックファン」となって、日本人コンテスタントを中心に演奏を楽しんだ。Fire TV Stick のおかげで、大画面テレビで視聴することができる。

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まずショパンピアノ曲であることからして楽しい。美しいメロディーをさまざまな演奏で聴くことができる。同じ曲を違うピアニストで聴き比べるのも楽しい。なぜこの人は柔らかい音が出せるのだろう?なぜこの人は硬質なタッチなのだろう?

反田さんは柔らかいタッチで美しい音を響かせる。微妙なタッチの変化を完全にコントロールしているという印象を受けた。ソロで弾いた英雄ポロネーズはスケールの大きさを感じたし、ファイナルのピアノ協奏曲は、オーケストラの楽器と響き合っていた。自分でレーベルを立ち上げ、将来の音楽家を育てるアカデミーにするというビジョンを持った、新時代のピアニストである。

一方、小林さんはファイナルのピアノ協奏曲を少しゆったりとしたテンポで弾いた。小さな音をちゃんと聞かせる。ショパンと真面目に向き合う。そんな演奏だったかと思う。

ファイナルに進めなかったとは言え、日本人のレベルは高く、かてぃんこと角野隼斗さん(東大卒)、牛田智大さん、進藤実優さん、古海行子さん、沢田蒼梧さん(医大生)、京増修史さんなど、恩田陸の『蜜蜂と遠雷』並みに個性的なコンテスタントが揃っていた。

ショパン:練習曲集

ショパン:練習曲集

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短期間にまとめてショパンを聴くなんて、学生の時以来だろうか。ピアノを習っていたこともあり、ピアノ曲を聴くのは好きである(弾くことはほとんどない)。好みは分かれるだろうが、マウリツィオ・ポリーニの正確無比なテクニックが好きで、ポリーニによるショパンの練習曲集は何度も聴いた。ポリーニもまた、アルゲリッチと並び、ショパン・コンクールが生んだ大スターである。

2015年のショパン・コンクールについては、青柳いづみこショパン・コンクール』が詳しい。ショパン・コンクールの歴史に始まり、その審査プロセスやピアノ、師弟関係など舞台裏が詳しく説明されている。もともとの審査基準としての「ショパンらしさ」とは何か?楽譜通りに引くことなのか?「ショパンらしさ」という価値観が今や明確でなくなっていることについて述べている。

またポリーニがそうであったように、必ずしも「ショパニスト」がショパン・コンクールで優勝するわけではない。ハイレベルな総合的なピアニストを選ぶのか、卓越したショパニストを選ぶのか。常に二つの選択肢が交錯するという。

ショパン・コンクールのファイナルはピアノ協奏曲である。今回8人のファイナリストが残ったので、オーケストラは1日4回、協奏曲を演奏したことになる。『ショパン・コンクール』によれば、指揮者によっては好みが激しく、コンテスタントと目を合わせない人もいるという。それに対して今回の指揮者、そしてオーケストラは優しい眼差しでコンテスタントを見守り、その演奏に合わせている印象を受けた。

それから今回、ファイナリストが選んだピアノとして、ヤマハが残らなかったというのも興味深かった。スタインウェイと共によく選ばれているピアノだと思っていた。第1位のブルース・リウが演奏したのはファツィオリだった。青柳いづみこさんの感覚では、ヤマハはハーフタッチが効くので繊細な表現がしやすく、スタインウェイはもう少し鍵盤の深いところで操作する必要があるそうだ。

そうそう、2015年も今年も、ダン・タイ・ソンの弟子が最も多く入賞したことになるようだ。そして彼は弟子の個性をとても尊重している。『ショパン・コンクール』によれば、彼の門下生の共通点は、それぞれまったく演奏スタイルや音楽性が違い、師匠とも違っているということだそうだ。そのダン・タイ・ソンの言葉が紹介されている。

コンクールでは「上手に弾ける」だけではだめです。テクニックに関しては、アジア人もみな言うことはありません。でもさらに、なにか「特別なもの」が必要です。(略)アジア人の多くは上手に弾く準備はできています。でもそれは指導者の教えそのものでしかない。とても受動的。それでは説得力というものが伴いません。(略)先生の教えを受けるのはいい。でもそれを十分に消化したうえで、自分独自の表現方法を探さなければいけない。(略)「論理的な根拠」を得るためには、演奏に対するコンセプトを持ち、楽曲の構造・形式を感じて弾かなければだめです。

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