ニューヨークの街角の何気ない日常。それを見たことのない構図で切り取ったスナップ。ソール・ライターの写真にはどこか惹きつけられる。日常を描いた絵画のような写真だからかもしれない。浮世絵を連想させる大胆な構図だからかもしれない。Bunkamura では、回顧展「永遠のソール・ライター」が行われている。
2017年にも回顧展が開催されているが、残念ながらその時はソール・ライターという写真家の存在を知らず、見逃している。
ソール・ライターの写真の特徴は、ニューヨークの何気ない日常の風景を、独特な構図で切り取っていること、そして赤い傘といったワンポイントのカラーを置いていることにある。水滴のついたガラス越しの景色や、ガラスに写り込んだものも、写真家の眼は鋭く捉えている。雨や雪もモチーフとなっている。寒い冬の一日も、毎日欠かさずカメラを持って散歩をしていた老齢の写真家の様子が目に浮かぶ。普通の人であれば見逃してしまうような何気ない日常も、ソール・ライターにとっては出来事の連続だったのかもしれない。画面の隅の方に押し込められた先に、何かしらの事件が起きている。ニューヨークの街並みに向ける写真家の優しいまなざしを感じ取ることができる。
ユダヤ教の聖職者ラビへの道を捨て、画家、そして写真家を志したソール・ライター(1923 - 2013)。1950年代にファッション誌の表紙を飾る写真で成功したあと、表舞台から姿を消してしまう。1980年代の隠遁生活により、忘れられた存在となってしまったが、80歳を過ぎた 2006年に出版された『Early Color』で脚光を浴びる。
膨大なスナップが残されており、少しづつ整理されているらしい。今回の展覧会では、セルフ・ポートレートの他、妹デボラと最愛の女性ソームズの写真がまとめられている。
2017年と2020年、いずれの展覧会も、公式図録が一般販売されている。2020年、今回の展覧会の図録が『永遠のソール・ライター』、そして2017年の図録が『ソール・ライターのすべて』である:

All about Saul Leiter ソール・ライターのすべて
- 作者:ソール・ライター
- 発売日: 2017/05/16
- メディア: ペーパーバック
『ソール・ライターのすべて』の表紙になっている、赤い傘と雪道の写真《足跡》が好きである。今回の展覧会でも展示されていた写真だが、なぜか公式図録である『永遠のソール・ライター』には掲載されていなかったように思う。会場でパラパラとめくっただけなので、見落としてしまったのかもしれない。という訳で、好きな写真が表紙になっている 2017年の図録も、別途入手した。
ランチは東急本店の麻布茶房にて。

