吉田博や川瀬巴水の風景版画が好きである。2021年は吉田博の展覧会だけでなく、「昭和の広重」と称された川瀬巴水の展覧会も開催される。しかも2回にわたって。まずは今回訪れた平塚市美術館での「川瀬巴水展」。これはもともと去年行われるはずだった展覧会が、コロナ禍により今年に延期されたものである。そして10月には SOMPO美術館でも、川瀬巴水の回顧展が予定されている。
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川瀬巴水は伊東深水とともに、渡邊庄三郎による「新版画運動」の担い手となった絵師であり、その詩情溢れる風景画は版画とは思えぬほどの写実性が追求されている。何度も摺りを重ねることにより、複雑な色合いを作り出す。そして風景の中にアクセントとなる人物を配することで、旅情を感じさせる絵となっている。「昭和の広重」と言われたのも、むべなるかな。
巴水自身は、小林清親の「光線画」の影響を受けたと述べているように、夜景に浮かび上がる光、それに照らされる水面などが見事に表現されている。そして雪景色も美しい。光と影の対比が、木版画と言う手法によって、味わい深いものとなっていると感じる。
連休初日、開館直後の平塚市美術館は空いていて、好きな絵の前を何度も行ったり来たりして、繰り返し見ることができた。写真撮影が許された絵がいくつかある。
《芝増上寺》は川瀬巴水の中でも最も人気のある版画の一つであり、最高の 3,000枚が売れたと言う。
歌川広重を慕う作風が強く出ているという批判を払拭するために、東海道風景選集は手がけられたそうで、巴水は宿場町とは異なる場所を選んでいる。《馬入川》の変わり摺りが展示されていた。
文部省文化財保護委員会から木版画技術記録事業の対象に選ばれた川瀬巴水は、馴染み深い増上寺の雪景色を題材にした。42回もの摺りを重ねている。制作は渡邊、彫師は佐藤寿録吉、摺師は斧銀太郎。版元のもとで、絵師・彫師・摺師が協力して作り上げる伝統的な木版画の制作過程が記録され、そのすべての資料が東京国立博物館に保管されている。
芝公園にオフィスがある僕にとっても、増上寺の三門(三解脱門)は馴染み深い場所であり、川瀬巴水の描く雪景色には、時代が異なるもののどこか懐かしさを覚えてしまう。
今回の展覧会では、本や雑誌、カレンダーや絵はがきといった、巴水のさまざまな仕事が紹介されている。絵はがきやカレンダーは、今でも十分ニーズがあると思う。
平塚市美術館をあとにして、先週見つけたばかりの「隠れランチスポット」に車を走らせる。藤沢ジャンボゴルフという練習場にあるニューオータニのレストランである。ゴルフクラブを持たずに練習場に来るのは、初めての経験かもしれない。ホテルのような雰囲気のクラブハウスにあるレストランでランチ。そして購入してきたばかりの図録をゆっくり楽しんだ。
川瀬巴水の作品集は何冊か出版されている。いずれも渡邊庄三郎と歩んだ新版画を中心に、巴水の生涯の仕事を辿ることができる。