Muranaga's View

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「THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦」展と、美術館カフェの個性的なランチを楽しむ(茅ヶ崎市美術館)

「台風直撃。明日のゴルフは中止だなぁ…」とちょっとブルーになりがちな気分を盛り上げるべく、サザンオールスターズを聴きながら、湘南方面に向けてハンドルを握る。めざすは、茅ヶ崎市美術館で開催されている「THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦」と言う展覧会である。

www.chigasaki-museum.jp

Web サイトで「新版画」とそれをプロデュースした渡邊庄三郎について、以下のように紹介されている:

江戸時代に確立された浮世絵木版画(錦絵)は、明治以降の西洋の写真や印刷技術導入の影響で、衰退の一途をたどっていました。その中で、あえて伝統的な絵師、彫師、摺師による分業体制の浮世絵木版画技術を使い、高い芸術性を意識した同時代の画家による取り組みが、「新版画」の始まりとされています。これを牽引したのが渡邊版画店(現在の渡邊木版美術画舗)・渡邊庄三郎(1885-1962)でした。

今回の展覧会では、貴重な初摺の渡邊版で、数々の「新版画」が紹介されている。渡邊庄三郎が声をかけた画家は多種多様。海外の水彩画家フリッツ・カペラリ、バートレット、橋口五葉、鏑木清方門下生の伊東深水川瀬巴水笠松紫浪、洋画家の吉田博、花鳥画の小原古邨(祥邨)…。これ以外の名前を知らない画家たちも、素晴らしい新版画を残していることを改めて知ることができた(出品リスト PDF)。

大好きな川瀬巴水吉田博の風景版画、そして美しい小原古邨(祥邨)花鳥画を楽しみつつ、より淡い色合いの笠松紫浪、少し古風な印象の高橋松亭の作品にも惹かれる。

展示替えも含めて今回の展覧会の全作品をカラーで収録した図録では、渡邊庄三郎の生涯、版元としての新版画のプロデュースぶりが紹介されている。新版画の作家についてもそれぞれ解説があり、新版画の概要を知るよい本となっている。

新版画と浮世絵の技法(彫り、摺り)・工程を対比しながら、その違いについてわかり易い説明がされている。また伊東深水の《髪》の摺りの全過程を示した順序摺が掲載され、39回にわたって摺りを重ねることで、複雑な色合いやぼかしを表現していることが明らかになる。

今回の展覧会で印象に残った作品をいくつか、図録の中から紹介する。

川瀬巴水《箱根宮の下 冨士屋ホテル》 昭和24年(1949)

これは初めてみる川瀬巴水の作品。箱根の富士屋ホテルに依頼されて制作した作品で、摺りの絵具を変えることで四季の変化を表している。春と秋は同じ版木、夏は旗と空が異なり、冬は別の版木を用意したようである。

笠松紫浪《霞む夕べ 不忍池畔》 昭和7年(1932)

川瀬巴水に比べると、笠松紫浪の作品はコントラストは控えめで、淡い色合いである。

小原祥邨(古邨)《金魚鉢に猫》 昭和6年(1931)

美しい小原祥邨(古邨)の花鳥版画。夏らしい左の摺りの版木の方が傷んでおり、人気が高かったことを思わせる。

美術館カフェ「ルシュマン」

新版画の世界を堪能した後は、美術館カフェ・ルシュマンにてランチ。ミートローフを頼んだのだが、やってきたプレートを見て、その野菜の多さにびっくり!そしてその野菜を口に運ぶと、新鮮で美味しい。「ルシュマンセット」は「大和豚のみそ漬けご飯サンド」である。

地元の農家やお店から食材を仕入れて、個性的な料理を提供している。車で来ていなければ、ワインとかビールとかを一緒に頼みたくなるメニューであった。

今回の展覧会は 10月11日に展示替えが予定されている。もう一度来たくなる展覧会であり、その際には別のメニューを頼んでみたい美術館カフェのランチであった。

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明治末期に渡邊正三郎が興した「新版画」(新板画)を紹介する。「浮世絵を継承しつつ、現代の画家による現代の浮世絵を創作する」ために自らが版元となった。板にこだわるという点で、新板画と呼んでいる。

この特集では、新版画の代表的な作品(橋口五葉、川瀬巴水、吉田博、伊藤深水、小原古邨)、そして「知られざる新版画家」として笠松紫浪、土屋光逸、大野麥風を、さらに「外国人画家による新版画」で10名の外国人作家を紹介している。

限られた紙数で多くの版画家たちを紹介している。もっとページ数があれば、もっと多くの作品を見られたのに。